無数の人形が思いを語る! 津軽の「賽の河原」で死者供養の尊さを実感/小嶋独観
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科学アドベンチャーシリーズ最新作が、あなたを構成する世界を根底変えてしまうーー。大げさな話ではない。「ANONYMOUS;CODE」は、脳と科学、創造と被創造の関係を暴き、ついに、人の身で神の座に手をかける。
目次
アドベンチャーゲームにおけるインタラクティブなテキストにおける世界構築の可能性を20年以上に渡って追求し続けてきたゲーム会社、MAGES.。同社作品の中でも、とくに“科学アドベンチャー”シリーズと銘打たれた、最新の科学技術をモチーフとした一連の作品群からは、“人間”の謎を追求してきたムーとも志を同じくするかのような佇まいが感じられる。
渋谷を舞台に脳科学と量子論をベースに妄想を共有する事件を描く『CHAOS;HEAD NOAH』から幕を開けた科学アドベンチャーシリーズは、第二作目となる『STEINS;GATE』で過去にメールを送れるタイムマシンを生み出してしまった少年少女たちによる、タイムリープと多世界解釈を巡る壮大なSFジュブナイルで大ヒットを記録した。続く第三作目として、AR技術と脳データが組み込まれたAIの暗躍に抗う種子島のロボット部の活躍を体験する『ROBOTICS;NOTES』を発売し、第四作目には、死者のデータ化を主題にすえたオカルトの科学による再定義を試みた『OCCULTIC;NINE』がリリースされた。
こうした科学アドベンチャーシリーズに一貫して通底しているように思えるのは“脳科学と人間”というテーマだが、この度満を持して放たれるシリーズ五作目となるのが、『ANONYMOUS;CODE』(アノニマス・コード)――だ。
本作に冠された惹句は、“神をハッキングせよ。”である。
“神のハッキング”、という大胆不敵かつ壮大な句が示すように、本作は科学アドベンチャーシリーズでも最も後年の時代設定となる近未来、2037年を舞台に、さまざまな“ハッカー”が登場する。
本作は発表以来7年もの歳月を費やして制作されてきたMAGES.の叡智の結晶ともいうべき大作だが、偶然にも我々が暮らす現実世界でも、現在“ANONYMOUS=匿名”を名乗るハッカー集団が、ロシアに大規模なハッキングをしかけているこの時期での発売となる。まるでどこかで予言でも聞いていたかのようだが、『ANONYMOUS;CODE』の大きなテーマのひとつに、奇しくもこうしたフィクションが現実と肉薄する構造が横たわっている。
『ANONYMOUS;CODE』のゲームジャンルは“メタ科学アドベンチャー”と名付けられている。その理由のひとつとして、本作ではプレイヤーである“あなた”は、作中の主人公と共同でコミュニケーションを図りながら物語を進めていくという体裁がとられている点があげられる。
2036年問題で発生したコンピュータの誤作動によって軍事衛星が起動。世界の大半が崩壊したサッド・モーニングから1年後。主人公は、壊滅を免れた東京・中野で、ハッカーをしている高岡歩論(ポロン)という少年だ。この時代は視覚にデジタル情報を表示させるBMI(Brain Machine Interface)技術をが普及しており、我々がスマホを見るような簡便さで、画面の情報が視界の中に展開される。
あるときポロンは、偶然にもあたかもゲームの“セーブ&ロード”をするかのように時を記録して、その時点からやり直せる能力を持ったアプリを入手するのだが――なんと、その時点から彼はプレイヤーである、あなたの存在を認識することに。しかも、あなたがゲームプレイデータの管理のために使用するセーブスロットを“共有”して、2037年の未来を変えるべくセーブ&ロードの能力でハッキングして書き換え、巨大な陰謀に抗っていくという壮大なるSFが展開する。
現実でセーブとロードができるようになるとするならば、例えアクシデントに遭遇した際であっても、ロードすることで以前の記憶を保持しているので未然に回避できるという――これはもはや、予言者のように未来を見通すことに等しい。
ソフォクレスのギリシャ悲劇『オイディプス王』では、古代ギリシャの予言の地であるデルフォイ神殿にて、アポロンによる恐るべき王殺しの予言が告げられた。人間にとって予言は、“神”からもたらされるもの(預言)であることも多いが、ポロンがセーブ&ロードを行う際は、プレイヤーであるあなたがまるで神の啓示を与えるかのように、コントローラーを通じて適切なタイミングを指示するのだ。
あなたからの指示を受けたポロンは、作中では独自に判断をして、セーブ&ロードを実行することで、ハッキングによる未来改変の奇跡が行われることになる。この主人公とプレイヤーの関係性は、そのまま預言者と神の関係性に等しいのではないだろうか。
予言と言えば、『ANONYMOUS;CODE』には主人公たちハッカーと対立するバチカンの“513聖務室”なる組織までもが登場する(ちなみに5月13日は世界が滅ぶ予言とされるファティマ第三の予言の聖母が降臨した日付だ)。
最先端の科学を下敷きとしてきた科学アドベンチャーシリーズの最新作にて、ついに描かれることとなる宗教概念だが、今日のように科学技術が発展するまで宗教こそが人間と世界の説明機構としての機能も担っていたことを考えると、そもそも宗教と科学は表裏一体、それどころか同じ根を持つものかもしれない。かつて科学は錬金術を揺り篭としたし、また宮沢賢治も『銀河鉄道の夜』第三次稿(最終稿となる第四次稿では削除された箇所)にて、以下のように科学(化学)と宗教(信仰)の融解について以下のように記述している。
“けれどももしおまへがほんたうに勉強して実験でちゃんとほんたうの考とうその考とを分けてしまへばその実験の方法さへきまればもう信仰も化学と同じやうになる。”
宗教は世界の本質を神の奇跡の顕現と説明したが、現代の最先端科学に於いては、すでに世界のデータ化による説明がなされ始めているかもしれない。実際に国家レベルのプロジェクトとして、衛星軌道上から地球上のさまざまなオブジェクトをスキャンしたり、個々人が使うスマートデバイス上でのスキャンデータを収集することでセンシングして、世界は断片的にだがデータ化が進んでいる。もしも全オブジェクトのデータが複写できたなら、その仮想空間上では、超高精度なシミュレーションが可能となるだろう。それはまさしく、予言の如き精密さを持った未来のシミュレーションでもあるはずだ。
『ANONYMOUS;CODE』にも、地球上のあらゆる事象をシミュレートする究極の地球シミュレータ“GAIA”を開発した、“垓機関”なる秘密組織も登場するという。やや飛躍がすぎるが、もしかしたらポロンの行うセーブ&ロードは、現実と区別できないほど精密なシミュレート上の“作られた世界”での事象なのかも、などと妄想までできてしまうような世界観を湛えている。
キリスト教には、世界は神が作りたもうたものではなく、その本質は闇で囚われているとするグノーシス派の異端とされる思想がある。
この教義によると、創造主である父親に憧れた娘ソフィアが、父親に焦がれる余り、その創造の御業を真似することで同一化を図ろうとしたが、そこに生まれたのは無窮の闇で、ソフィアは自らが生み出した闇に囚われてしまう。その闇からは無数のアルコーンと呼ばれる天使が生まれたが、最初のアルコーンである偽神ヤルダバオートは、自らを世界創造者=デミウルゴスとして、入れ子のように、闇から創世紀に語られる楽園やアダムとイブを作り上げることとなった。父親の属性を持つ外世界に存在する光の息子は、ソフィアを救うべくデミウルゴスの創世したこの悪の世界へと来訪することになる、というペシミスティック気味な世界観である。
地球シミュレーターの存在は、どこかソフィアの世界創造の真似事とも重なるイメージもある。何にせよプレイヤーであるあなただけは、『ANONYMOUS;CODE』が無論ゲームとして作られた世界=ゲーム作品で、完全に閉じられた架空の世界であることを知っている外世界の存在であることは確かだ。
また、ポロンたちは特殊なデバイスやセーブ&ロードアプリで自分たちを内包するBMI世界へハッキングをしかけるが、その様子を眺めているあなたもゲームの外側から、自分の望む結末へと到達すべくコントローラーを握ってセーブとロードのタイミングを指示していく。
本作の非常に興味深い点は、ポロンにはアドバイスをするのみで、実際に行動するかどうかはわからないという、まさにメタな関係性だ。“神をハッキングせよ。”――もしかすると、ポロンと巨大な陰謀に立ち向かう中で、外世界の名も無き神の如き、あなたの世界認識さえもが、いつしか書き換わっていくのかもしれない。
最後に余談だが、科学アドベンチャーシリーズは、世界設定に地続きになっている要素があったりする。『OCCULTIC;NINE』では超常現象専門誌として「ムムー」なる雑誌が登場したが、未曽有のサッド・モーニングを経た2037年の未来でも、どこかでまだ刊行されているのだろうか……気になるところだ。
ANONYMOUS;CODE(アノニマス・コード)
公式サイト
2022年7月28日発売
通常版 8,580円(税込) 限定版 11,880円(税込) ダウンロード版 7,000円(税抜)Nintendo Switch/PlayStation4
©MAGES./Chiyo St. Inc.
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