妖精に誘われ、異世界の宴に招かれた! 17世紀アイルランドの「神隠し」事件
17世紀、とある博識の人物が“妖精の世界”にむりやり連れて行かれたという驚きの体験を語っている。2人の証人もいるその驚愕の“フェアリーテイル”の内容とは――!?
記事を読む

アイルランドに伝わる妖精、「アエス・シデ」。一般的な妖精のイメージとは異なり、彼らはその美貌で関わった者の人生を大いに狂わせるのだった。
アイルランド神話における妖精「アエス・シデ(Aes Sidhe)」は、完璧な美貌と肉体美を具えた魅力的な妖精であるが、関わった者の人生を大きく狂わせるトラブルメーカーでもあるという。
英ケンブリッジ大学で古代史の博士号を取得している作家のサラ・クレッグ氏は、新著『Perilous Enchantment: The True History of Faeries(危険な魔法:妖精の真の歴史)』の中で、このアエス・シデにまつわる興味深いストリーを紹介している。
「The Adventure of the Sons of Eochaid Mugmedon(エオハイド・ムグメドンの息子たちの冒険)」と呼ばれる伝説では、5人の王族の兄弟が井戸のそばで醜い老婆に出会う。老婆は水を汲むには自分にキスをしなければならないと言う。最初の3人は拒否し、何も得られなかった。4人目が言葉に従いキスをすると、老婆は彼の血筋がアイルランドを統治すると宣言する。そして5人目の末弟は思い切って老婆と性交すると、老婆は魅力的な若い女性に変身し、彼が王になると告げる。この老婆は、実は女性のアエス・シデであったのだ。
また別の物語では、コン王がベクマという名の美しい女性のアエス・シデと結婚するが、ベクマの策略によってアイルランド全土が飢饉に見舞われる。コン王がベクマをなんとか追い払って飢饉は終息した。
対照的に女性のアエス・シデの誘惑に抵抗することが危険を招く可能性もある。「The Cattle Raid of Cooley(クーリーの牛争い)」という物語では、半神半人の英雄クー・フーリンが女性のアエス・シデのモリガンを拒絶すると、腹を立てたモリガンは彼に罠を仕掛けたり、戦闘中に彼を陥れようとさまざまな動物に変身して妨害したのだ。
さらに「The Sickness of Cu Chulainn(クー・フーリンの病)」では、クー・フーリンが美しい白い鳥2羽を撃ち落とすが、それが変装したアエス・シデであることに気づかなかった。彼は眠りに落ち、夢の中で2人の女性の姿をした鳥に襲われ、鞭でめった打ちにされて瀕死の状態にまで追い込まれたのだ。
アエス・シデにまつわる多くの物語では、人間の英雄が女性のアエス・シデによって異世界へと引き込まれる。これらの異世界の出入口は「妖精の塚」と呼ばれる場所で、アクセスは誰にでも許されるものではなく、時には招待状が必要であったり、航海が必要であったり、時にはタイミングが重要であった。古代ケルト人の収穫祭であり、現代のハロウィンの起源とされる「サムハイン」の時期(11月1日)は塚が特に開きやすく、アエス・シデが外へ冒険に出る日とされている。
複数ある異世界は、いずれも楽園のような場所として語られる。これらの異世界では自由な愛が花開き、異世界の女性は、時には訪れる人間の英雄とベッドを共にし、住人同士も交わり、茂みの下で互いに抱き合う姿などが描写される。これらの異世界には、その楽園ぶりを反映した名前が付けられており、マグ・メル(喜びの平原)、ティル・ナ・ムベオ(生ける者の地)、ティル・ナ・ノーグ(若者の国)、ティル・ナ・ンリンガド(驚異の国)などがある。

「The Adventure of Connlae(コンラの冒険)」と呼ばれる伝説では、コン王の息子、コンラが美しいアエス・シデの女性から愛を告白され、彼女の故郷である異世界へと一緒に来てほしいと求められる。
コン王はこのやり取りを盗み聞きし、息子を奪おうとするアエス・シデの企みをを阻止するよう宮廷の宗教指導者(ドルイド)に依頼した。ドルイドが呪文を唱え始めると、アエス・シデはあきらめて立ち去らざるを得なくなったが、去る際にコンラに魔法のリンゴを投げ渡す。そのリンゴは一口食べるごとに元の形に戻って、決して減ることはなかった。この出来事の後、コンラはその魔法のリンゴだけを食べて過ごし、ほかの食べ物を一切口にせず1か月間を過ごすことになる。
するとコンラは、別れたアエス・シデに恋焦がれるようになった。
その直後、アエス・シデが再び彼の前に出現。今度は豪華な水晶の船に乗ってやって来て彼を誘った。コンラは同行することに同意するが、どこかに躊躇もあった。
「私にとってそれは容易なことではない。それに私は、自分の民を愛している。それでもあの女性への想いが私を捉えて離さない」(コンラ)
そして彼は、悲しみに暮れる親族や父親が見守る中、水晶の船に乗り込み異世界への航海に旅立った。以来、二度とコンラの姿を見ることはなかったという。

「The Voyage of Bran(ブランの航海)」と呼ばれる伝説では、ブラン王が名前のない美しいアエス・シデの女性に出会い、異世界「女の島」へと誘われる。この島では女性だけが暮らしており、尽きることのない喜び、永遠に咲き続ける花や果実に満ちた楽園であるという。
航路を聞いたブランは、30人の乗組員と共に船出する。航海の途中で「喜びの島」にさしかかった一行だったが、遠目に見える島民たちは皆一様に笑っていた。ブランが部下の一人を偵察を兼ねて先に島に上陸させると、その部下も腹を抱えて笑いはじめ、戻ってくるように言っても聞き入れなかった。
救出隊を出せば二次被害が出る可能性もじゅうぶんにあることから、仕方なく彼一人を置き去りにして、船を進めるしかなかった。
やがて目的地である「女の島」に到着した一行だが、喜びの島の一件もあり上陸はためらわれた。
するとブランを誘ったアエス・シデの女性が現れ、彼に毛糸玉を投げた。ブランがそれを受け取ると、毛糸玉は彼の手にくっつき、彼女は毛糸を引っ張って彼を島の中へと引きずり込んだ。
心配は杞憂に終わり、上陸した「女の島」は実に美しい景観で、ブランと仲間たちはそこで1年を過ごし、あらゆる喜びを味わい、異世界の女たちとの交友に耽った。
しかしやがて故郷への郷愁が襲い、一行は帰国の途に就くことに。しかし、アエス・シデの女性たちから「もう人間の土地に足を踏み入れてはならない」と忠告される。
忠告を振り切り、長い航海の果てについにアイルランドへと戻ってきたブランたちだが、どうも様子がおかしい。ブランが岸で出会った人物に名乗ると、その者はブランという王ははるか昔の王だと言う。女の島には1年間ほどしかいなかったはずだが、地上では数世紀が過ぎ去っていたのだ。部下の一人が船を飛び降りてアイルランドの地を踏もうとしたが、足が地面に触れた瞬間、身体が灰と化して雲散霧消してしまった。
「人間の土地に足を踏み入れてはならない」との忠告の意味がわかったブランたちは、苦労してやって来たアイルランドの港を離れ、あてのない航海を続けるしかなくなったのだ。
これらの物語はアイルランドに伝わる最古の文献の一つであり、クレッグ氏によればおそらくアイルランドの修道院で書かれたものであるという。
7世紀末までにアイルランドはほぼキリスト教化され、これらの神話が執筆された8世紀には、修道院はかつてのアイルランドの主要な文化や芸術を継承する場となっていた。
アエス・シデ伝説はきわめて学識のあるキリスト教的枠組みの中に位置づけられ、著名なキリスト教学者の言葉からの引用も多数散見されるが、これらの伝説がより古い物語から着想を得ていた証拠は数多く存在する。修道士たちが独自の解釈を加えていた可能性はあるが、ゼロから創作したわけではなく、古代の伝説とキリスト教の信仰を織り交ぜた物語へとバージョンアップさせたのだ。
アイルランド神話とキリスト教のフュージョンで生まれた、現代に伝わるアエス・シデの物語。その数々に触れてみるのもよいだろう。
【参考】
https://lithub.com/on-the-history-of-the-aes-sidhe-irelands-seductively-dangerous-fairies/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
ランキング
RANKING
おすすめ記事
PICK UP
関連記事
妖精に誘われ、異世界の宴に招かれた! 17世紀アイルランドの「神隠し」事件
17世紀、とある博識の人物が“妖精の世界”にむりやり連れて行かれたという驚きの体験を語っている。2人の証人もいるその驚愕の“フェアリーテイル”の内容とは――!?
記事を読む
われわれの祖先の一部は海に帰っていた!? 人魚の謎と「人類水中進化論」
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、古代から世界各地で目撃された人魚の存在と、人類がかつて海中で進化したという大胆な仮説を取
記事を読む
ライブカメラに「2体のネッシー」が映り込み大ニュースに! オスがメスに求愛する決定的瞬間か!?
英スコットランド・ネス湖に棲むとされる伝説の怪獣「ネッシー」が求愛行動か!? 湖面を進む2つの謎の物体をライブカメラが捉えていた!
記事を読む
竜巻現場で人々を救った「バタフライピープル」の謎! 天使かUMAか、子どもたちが集団目撃した蝶々人間
都市面積の3割を破壊した巨大竜巻の現場上空で、蝶のように優雅に舞いながら人々を守った「バタフライピープル」とは――。まるで示し合わせたかのように多くの子どもたちがその目撃談を語っているのだ。
記事を読む
おすすめ記事