現実世界の“バグ”に落ちたら最後…ネット都市伝説『バックルームズ』が映画になった
北米公開を皮切りに大ヒットを記録し、A24作品史上最高となる興行収入2億ドルを突破する異例の快挙を成し遂げた映画『バックルームズ』が、いよいよ日本公開! 実写化されたネット発の都市伝説(クリーピーパス
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取材・寄稿:百室 100 Room(全領域百鬼夜行観測室)

映画とゲームという別ジャンルで「虚構世界を実在させている」クリエイターが相対した。リミナルスペース、デジタルロアを考えるための示唆に富んだ対談をお届けしよう。
どこまでも続く黄色い壁紙の部屋、意味を失った家具、出口の見えない廊下。インターネット上の都市伝説として語られてきた「Backrooms」は、いまや現代を代表する“リミナルスペース”のイメージのひとつになった。そんな中、2026年9月4日より、ケイン・パーソンズ監督による初の長編映画『バックルームズ』が日本公開を迎え、大ヒットを記録している。
日本公開に合わせて来日したケイン監督を出迎えたのは、ゲームクリエイター小島秀夫監督。精緻な設定交渉と圧倒的に独創的な世界観を作り上げてきた小島監督と、ゲームや3DCGとともに育ち、ネットロアを新しい映像神話へ変えてきたケイン監督。ふたりのクリエイターの対談は、超自然現象についても、偶然の雰囲気ではなく“科学的なシステム”として扱っていると語る。一方の小島監督も同様に、神話や昔話が時代ごとのメディアを受け継ぎながら語り直されてきたことに触れながら、アナログからデジタルへと続く創作の連鎖を語った。
さらに、CGで作られた空間と「世界のどこかに本当に存在した」と知っている空間では、人の感じ方が変わるというケイン監督の言葉も印象深い。ネット上の虚構は、どの瞬間に“実在する異界”へと変わるのか。リミナルスペース、デジタルロアを考えるための示唆に富んだ対談をお届けしよう。
小島秀夫(こじま・ひでお)
ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。1980年代からPCやMSXでゲーム制作に携わり、世界初となるステルスゲーム『メタルギア』を皮切りに、映画的な演出を取り入れた『スナッチャー』、『ポリスノーツ』、そして世界的大ヒット作となる『メタルギア ソリッド』シリーズなどを手掛ける。2015年12月に独立スタジオ“コジマプロダクション”を設立し、同スタジオ初のタイトルとして『DEATH STRANDING』を制作。2025年には続編『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』を発売した。現在はXBOXから、初のホラーゲーム『OD』のほか、新世代のアクション・エスピオナージ・ゲーム『PHYSINT』など複数のプロジェクトを進行。さらに、ゲームだけでなく、映画、アニメーション、音楽などへ活動領域を広げている。無類の映画・読書好きとしても知られ、小島監督の推薦コメントで知られざる名作と出会った人も多数。
ケイン・パーソンズ(Kane Parsons)
映像作家・映画監督。オンラインでは“Kane Pixels”名義で活動。2022年にYouTubeで公開した短編『The Backrooms (Found Footage)』を起点に、ネットロア“Backrooms”を独自の世界観で再構築した映像シリーズを展開。3DCGと実写的な映像表現を組み合わせ、広大で空虚な空間や、現実の法則がわずかに崩れたような環境を描く作風で注目を集める。2026年公開のA24作品『バックルームズ』で初の長編映画監督デビュー。

小島: じつは、ケイン監督の映画の公開は、僕も発表以来ずっと楽しみだったんです。YouTubeで“Backrooms”が発表されたときから気になっていて、一連の世界観が興味深くて全部観てきましたから。ケインさんが16歳のときに撮った作品ですよね?
ケイン: そうだったんですね、ありがとうございます。映画はちょうど20歳のときに完成しました。
小島: 20歳。 僕も23歳で最初の『メタルギア』を作ったので、なんとなく気持ちはわかるんです。63歳になって、クリエイター生活40年目になったいまでも(笑)。
ケイン: コジマプロダクションも10周年と伺いました、本当におめでとうございます! 僕が初めてあなたの作品に触れたのは、もっと小さいころで、『リトルビッグプラネット』を遊んでいて、そこで『メタルギア』コラボがあってスネークがいたんです。たぶん、6歳くらいの頃。
小島: そのころに初めてスネークと出会った……! それは僕も年を取るわけだ(笑)。

小島: YouTube最初期から注目していたので、A24から映画化、と聞いたときはいいセンスだと思いました。……あ、僕もA24から『DEATH STRANDING』が映画化するので(笑)。

ケイン: そうですよね(笑)。映画『バックルームズ』はどうご覧になっていましたか?
小島: いまだから安心して言えますけど、映画化が発表されたときは、やや疑問視をしていたんですよ。映画になるならストーリーも必要だろうし、あの一連のYouTube作品をどうするんだろうと。
ケイン: じつは、僕自身も一連のYouTube作品の世界観を映画化するということについては懐疑的だったんです。あらゆるアイデアや企画が、従来型の長編映画であるべきだとは思っていなかったので。
小島: でも、ケインさんのようなYouTubeとYouTuber世代、つまりデジタル世代のスタイルは、軽々とそんな疑問の先を行っていたんですよね。映画を観させてもらって「そうきたか」と唸りました(笑)。
ケイン: うれしいです。僕がとくに探していたのは、YouTubeで描いてきた“Backrooms”の世界観の中で、連続するシリーズものの形式としてまだ扱い続けたいある種の物語展開があって、映画で試してみる意味があるものだと感じていたものだったんです。
小島: 年代の差もあるからか、映画を観る前は、ちょっとだけどこかケインさんを甘く見ていたところがあったかもしれないです(笑)。でも、映画はストーリーや人物設定の構造もすごくて。YouTubeからのファンだったら、いったいBackroomsに主人公が必要なのか? と思ってしまいがちなところだと思うのですが、あの世界への入り口があるのは“家具屋”。しかも客が来なくなって、店長が店の中に住んでいるっていう設定にびっくりさせられて。
ケイン: よかった(笑)。

小島: 人のいない閉店後の家具店って、ものすごくシュールな風景でリミナルスペース的ですよね。このロケーションの設定も秀逸なんですが、物語構造もまたいい。家具屋に住んでいる彼は、ちょっと精神的に悩んで、それを相談するカウンセラーがいる。ネタバレにならない範囲だと、この家具店をカウンセラーが探しに行って……という、二つの物語が併走する構造。それが人の記憶と物体が散逸するBackroomsの空間そのものとも対応しているという、とても考えられているんですよ。
ケイン: どうすれば、YouTubeのファンも、初めて観るお客さんも楽しめるものになるのかと、本当に何度も脚本家と自分とでリライトし続けたんです。
小島: そうですよね。だからこそ、あのYouTubeの映像から、よくぞここまで映画にしたなって思えた。僕の好きなスティーブン・キングの『The Mist』みたいに、異常事態の原因は、得体の知れない組織の実験が背後にあるような、陰謀論的なムードもさらに濃厚に描かれていたところもよかったんですよね。Async社がMRIを作っている会社で……とか、僕の作品でも、そういうのが好きで出てくるので(笑)。
ケイン: そうですよね(笑)。Async社によるBackroomsの一連の計画は、超自然的なプロジェクトなんですよね。僕はフィクションとして超自然的なものを扱うときのこだわりというか、自分なりのやり方として、それを何らかの意味で本当に科学的なシステムとして扱いたいんです。
小島: それはすごくわかります。僕もそうです。
ケイン: 描いているものは、“そうでなければならないもの”である必要があります。例えば、何かが沈み込んでいるとか、物が散らばっているとか……あらゆる細部が、その状態を生み出したシステムを理解しているところに由来するような。何となく決めるのではなくて。僕が求めている恐怖や、不吉に感じる超自然的要素は、いつも何らかの技術的なシステムから生まれるんです。僕自身はその技術を理解していないかもしれないですが、僕なりのロジックは細かく設定してあり、それが表現の指針になっています。
小島: 洗濯物が積まれているだけで、あそこまで「怖い」と感じる空間を作れるというのにも、すごく驚きましたね(笑)。
ケイン: そうですよね。ああいった洗濯物を始めとするストラクチャーも、すべてなぜそこにあるのかということを考えて配置しています。
小島: 『バックルームズ』って、怪物が出てくること以前に、空間そのものがおかしいんですよね。パースが少し崩れていたり、通路だと思って進むと狭くなっていったり、平面の壁なのに、その先にまた別の空間が続いているように見える。映画だと普通は、三次元の空間をカメラで撮って、二次元のスクリーンの中で観客にわかりやすく見せるために、レイアウトやカメラ位置を考える。でもこの映画『バックルームズ』は、そのセオリーから少し外れている。そこがすごくゲーム的だと思う。

ケイン: 僕の空間に対する感覚は、かなりビデオゲームから来ていると思います。ゲームでは同じ部屋が複数存在してもいいし、以前の状態に戻ることもできる。まだ時間的には存在していない配置にアクセスすることだってできる。空間が固定されたものではなく、組み替えられるデジタルな構造として、自分の中に入っているんだと思います。
小島: だから、普通の映画を作ってきた人とは空間の捉えかたが違う。
ケイン: そうかもしれません。それにゲームでは、自分が今どこにいるのか、環境を把握しながら慎重に移動しなければならない瞬間がありますよね。そういうとき、人間はすごく原始的な状態に戻ると思うんです。3Dソフトを使ってものを作るようになってからは、空間そのものがキャラクターから何かを引き出したり、観客の心理状態に影響したりすることにも強く興味を持つようになりました。

小島: だから『バックルームズ』では、何かが出てくる前から“空間”だけで怖いんですよね。
ケイン: 自分でもまだ言葉にできていない無意識の部分はあると思います。でも、ビデオゲームがその感覚を作った大きな要因なのは間違いないと思います。
小島: それこそ洗濯物も、適当に積まれているのではない凄みがあります。あと僕はシュルレアリスムが好きなので、まさに、あの空間に沈み込んだ椅子や看板などの表現は、とてもアート的に感じたんですよね。デ・キリコとか、マグリットみたいで。そこもすごくおもしろいけれど、こうした表現はゲーム的でもあるとも思いました。僕らは3Dでゲームを制作していく中で、オブジェクトが埋まったりするのはしょっちゅう見るんですよ。
ケイン: そういう幾何学的でシュルレアリスム的な空間表現について言えば、まさに小島監督のおっしゃる通り、かなりの大部分が、ビデオゲームとともに育ったこと……つまり、“物事を組み直すような感覚”からも来ていると思います。僕の中では、ある意味で空間そのものがデジタルな構造として把握しているというか。

小島: 空間をデジタル的に把握している。でも、この映画のための迷宮はすべて実物のアナログなセットで作ったんですよね?
ケイン: セットで作りました。
小島: いや、映画って3D空間を撮影しますよね。それをスクリーンに投影するわけなので、レイアウトとカメラが重要になってきます。例えば象徴的な『バックルームズ』のメインビジュアルなどは、映画のセオリーからすると、すべて違和感のある構図なんですが、これってすごくゲーム的には自然というか。やはりリミナルスペース的なこの空間は、アナログなセットで撮影されていることで醸し出されます。

ケイン: 映画を作るうえで、セットという実際の空間で撮影してみたかったんです。Backroomsの廊下の画像を誰かに見せたとして、それが「実際に作った空間」だと言われた場合と、「完全にCG」だと言われた場合では、その人の感じ方は大きく違うと思う。
僕個人としては、アートや自分のやっていることが、触れられる世界に存在するものであってほしくて。僕の神経系、存在のすべてが、自分が実際に見て、匂いを嗅いで、そして触れられるものに、ずっと強く反応するからです。デジタル世代でもあるので、長時間デジタル情報に触れ続けている状態でも平気ですが……それでも、実際に触れられるものを作っている人たちがいる場所が好きで。これからの世代はデジタル技術はより発展して、もしかしたら文字すら自分で書かなくなるかもしれない。でも、フィクションでもできるだけ生きたアナログな手触りを伝えたいとは思うんですよね。
小島: Backroomsの始まりとなるネットロアは、一枚の画像から生まれていますけど。たしかおもちゃ屋か何かの改装中の写真だったものに、あとからいろいろなイメージや物語が付与されて、リミナルスペースの怪談になっていった。

ケイン: そうですね。僕もあの画像からインスピレーションを得て動画を作りましたから。
小島: ちょうど『デススト』も、発想の原点は、ある宗教絵画を見たときのインスピレーションだったんですよ。絵を眺めていたら、その絵が動きだすようなイメージが浮かんで。なので、奇しくも一枚の絵から始まっているところも、同じなんですよね。神話や伝説、伝承も同じです。壁画や経典などに描かれた絵と物語が、それぞれの時代ごとに存在していて、バトンを受け継ぐように繋がっているんだと思いますよ。ちょうど僕はアナログが入り口で、ケインさんはデジタルが入り口だったけれど、逆向きに交叉するように同じ到達点に向かっているのかもしれない。
ケイン: ゲームの歴史を作ってきた小島監督にそう言っていただけて、本当にありがたいです。
小島: まあ僕は逆を向いても、もう20歳には戻りませんけど(笑)。でも、とてもシンパシーを感じますから。

2026年公開の長編映画。監督は、YouTubeで「Kane Pixels」として映像作品を発表してきたケイン・パーソンズ。脚本はウィル・スーディク。キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェらが出演する。物語の入口となるのは、家具店の地下に突如として現れた奇妙な扉。その先には、黄色い壁紙の部屋や終わりの見えない廊下など、現実からわずかにずれたような空間「Backrooms」が広がっている。
ケイン監督は2022年、YouTubeに『The Backrooms (Found Footage)』を公開。インターネット上で共有されてきた「Backrooms」のイメージに、独自の映像表現と物語世界を加えてシリーズ化した。長編映画版はA24とChernin Entertainmentによる作品として制作され、日本では2026年9月4日に公開され、全国劇場にて大ヒット上映中。
『バックルームズ』
公開:9月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ All Rights Reserved.
監督:ケイン・パーソンズ
出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット他
2026|アメリカ|126分|英語|5.1ch|原題︓Backrooms|字幕翻訳︓佐藤恵⼦ | 映倫︓G |
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC.
公式サイト https://a24jp.com/films/backrooms/

***
コジマプロダクションは、設立10周年を記念した展覧会「KOJIMA PRODUCTIONS 10th ANNIVERSARY EXHIBITION BEYOND THE STRAND:創造と挑戦の航路」を、2026年10月31日から12月20日まで東京・麻布台ヒルズギャラリーで開催する。本展では、2015年の設立から現在まで、コジマプロダクションが歩んできた10年間の創造と挑戦の軌跡を紹介。単なる作品展示にとどまらず、作品やプロジェクトがどのようなアイデアから生まれ、人との出会いやつながりを経て世界へ広がっていったのか、そのクリエイティブの過程そのものに焦点を当てた展覧会となる。
大きな見どころのひとつが、これまで一般公開されてこなかった制作資料だ。コンセプトアートや設定資料、デザイン案をはじめ、開発の過程で生まれたさまざまなアイデアを多数展示。さらに制作スタッフへのインタビューを通じ、完成したゲームからは見えない試行錯誤や制作秘話も紹介される予定となっている。
会場には、設立10周年に合わせて新たな装いとなったコジマプロダクションのシンボル「ルーデンス」の立像も登場。実際にコジマプロダクションのスタジオを訪れたかのような空間演出が用意されるほか、複数のキャラクター立像も本展で初公開される予定だ。
さらに、本展のためだけに制作された「360°映像インスタレーション」も展開される。巨大な360度スクリーンを用い、観客をコジマプロダクション作品の世界へと包み込む全方位型の映像体験で、ゲーム、映像、テクノロジーを横断してきた同スタジオならではの展示となる。
会場では、展覧会限定デザインを含む10周年記念オリジナルグッズも販売予定。さらに麻布台ヒルズ全体を舞台としたスペシャルコラボレーション企画も計画されており、その詳細は今後順次発表される。
展覧会は2026年10月31日から12月20日まで、麻布台ヒルズギャラリーで開催。10月31日から11月3日までの最初の4日間はプレビュー期間となり、専用のプレビューチケットが必要となる。通常の前売券は2,600円、当日券は2,800円。プレビュー入場券には限定復刻版のコジマプロダクションオリジナルグッズセット付き18,000円、トートバッグ付き5,000円の2種類が用意され、いずれも抽選販売となる。
詳しくは公式サイトで
https://beyondthestrand.kojimaproductions.jp/ja/

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