「天眼」が導く大衆救済は降霊術で始まった! ベトナム「カオダイ教」の世界/新妻東一
フランス占領下で生まれ、社会主義政権下でも活動が認められているベトナムの大衆宗教・カオダイ教。その始まりは降霊術だった。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、19世紀末のイギリスで設立され、近代魔術の歴史を作った魔術結社を取り上げる。
ヴィクトリア朝末期、19世紀も終わりに近づいたころのイギリスでは、各種神秘哲学に関する関心がかつてないほど高まっていた。
1882年のイギリス心霊研究協会、1885年のイギリス薔薇十字団、さらに1887年の神智学協会ブラヴァツキー・ロッジと、心霊主義・神秘主義関係の団体も相次いで生まれ、ラファエルやアラン・レオなど、後世に大きな影響を残した占星術師が活躍したのもこのころだ。
近代魔術結社の源流といわれるゴールデン・ドーンの設立も、こうした時代背景と無縁ではないだろう。
ゴールデン・ドーンとは、英語で「黄金の夜明け」あるいは「黄金の暁」を意味する。そこで、日本でも「黄金の夜明け(団)」とか「黄金の暁(団)」と紹介されることもある。
設立したのは、ロンドン警察の検死官でもあったウィリアム・ウィン・ウェストコット、サミュエル・リドル・マグレガー・メイザース、ウィリアム・ロバート・ウッドマンの3人で、彼らはいずれもフリーメーソンであり、先に述べたイギリス薔薇十字団の団員でもあった。さらに、ウッドマンとメイザースは神智学協会の会員でもあった。つまり、この3人もまた時代の申し子だったのだ。
設立のきっかけとなったのは、もうひとりのフリーメーソン、アドルファス・フレデリック・アレキサンダー・ウッドフォードが、1887年9月にウェストコットに送った、60枚からなる暗号文書だった。
この暗号文書の出所については諸説あるが、フランスのエリファス・レヴィがかつて所有していたものともいわれ、ウッドフォードはこれを、1885年に死去したイギリスのオカルティスト、フレデリック・ホックリーの遺品の中から発見したという。そこで、知己であったウェストコットの意見を求めるため、これを彼に送ったのだ。
文書は、16世紀の魔術師シュポンハイムのトリテミウスが考案した「代用アルファベット」で書かれていた。このシステムを承知していたウェストコットにとって、解読は難しい作業ではなかった。そこで、首尾よくこの文書を解読したところ、文書の中に、ドイツにある薔薇十字団系の魔術結社に属する、アンナ・シュプレンゲルなる女性の連絡先を発見した。
薔薇十字団は、15世紀のドイツの魔術師クリスチャン・ローゼンクロイツが結成したという伝説の魔術結社だ。したがって、ドイツの薔薇十字団はイギリス薔薇十字団にとっても本家ともいえる存在だった。ウェストコットはすぐに、同好の士であるメイザースやウッドマンにこの発見を知らせ、さっそくシュプレンゲルとの文通を始めた。
文通の結果、ドイツの結社における“秘密の首領”から、ロンドンに魔術結社を設立し、新規参入者「ニオファイト」から第4位階「フィロソファス」までの運営を行うことが許可され、ウェストコット、メイザースウッドマンの3人には、第7位階「アデプタス・イグゼンプタス」の名誉位階が授与された。
このウェストコットとシュプレンゲルとの往復書簡については、ウェストコットがねつ造したものではないかとの疑念も持たれている。一方、当時ドイツに薔薇十字団系の魔術結社が実在していた、と証言する者もある。ともあれ、1888年3月1日、最初のテンプルであるイシス・ウラニア・テンプルの設立とともに、ゴールデン・ドーンが活動を開始した。
テンプルというのは、特別の場所や施設を意味するものではなく、フリーメーソンでいうロッジに相当し、いわば支部集団のようなものだ。そして、ゴールデン・ドーンにとって最初のテンプルであるイシス・ウラニア・テンプルは第3テンプルとされている。これは第1テンプルがアンナ・シュプレンゲルの属する結社であり、またイギリスには短期間、第2テンプルが存在したとされるため、このような位置づけになっているのだ。
団内には、新規参入者ニオファイトを含めて11段階の位階が設けられ、最初の5位階が第1団(外陣)となり、第2団(内陣)の首領たるメイザースたちによって管理された。上位の3位階は第3団とされ、3名の共同設立者よりも上位にある秘密の首領により運営されるものと設定された。
団員たちは、それぞれの位階に割り当てられた儀式や魔術知識、実践などを学び、試験を受けて合格すると、ひとつ上の位階に昇進できた。
教義や実践においては、「小宇宙たる人間と大宇宙との照応関係」という魔術の基本理念をもとに、伝統的な占星術やジオマンシー(土占い)、タロットなどの占い、カバラやヘブライ語、錬金術なども含まれ、修行法としてアストラル・プロジェクションや、「タットワ」というプラナの流れを象徴する図形を用いた霊視なども採用されていた。
設立後、ゴールデン・ドーンは順調に発展していった。イギリス薔薇十字団やフリーメーソンなどの人脈もあり、団員の数はすぐに100名を越えることになった。
団員の中には、アーサー・エドワード・ウェイトやエドワード・ベリッジなど、のちに一団を率いることになる魔術師に加え、フランスの哲学者アンリ・ベルグソンの妹で、のちにメイザースと結婚するミナ・ベルグソン、オスカー・ワイルド夫人のコンスタンス・ワイルド、のちにノーベル文学賞を受賞するアイルランドの詩人ウイリアム・バトラー・イエイツ、女優のフローレンス・ファーなど、当時の著名人、知識人も名を連ねていた。
オシリス・テンプル、ホルス・テンプル、アメン・ラー・テンプルと、新しいテンプルも続々と設立された。
そうした中、1891年になって、ウェストコットはドイツの団体との連絡が途絶えたと宣言した。アンナ・シュプレンゲルが死亡し、ドイツの他のメンバーはゴールデン・ドーンとの協力に消極的だというのだ。したがって、ゴールデン・ドーンの運営は、イギリスの3人の指導者に委ねられることになった。
しかし、同年末、共同設立者のひとり、ウッドマンが死去し、残るはウェストコットとメイザースのふたりになった。
そのメイザースが1892年、アストラル界で秘密の首領と接触したと宣言した。残ったふたりの指導者のうち、メイザースだけが秘密の首領からの指示を受けとるということは、彼のほうがウェストコットより優位に立つことを意味する。
ところが、メイザースはその年、突然夫人とともにパリに移住し、活動拠点をフランスに移す。以後、次第に団内の対立があらわになっていく。
ロンドンでは、フローレンス・ファーがメイザースの代理人として活動していたが、そのファーは、霊視を重視する「スフィア・グループ」という独自の集団を団内に組織し、他の団員の不満を招いた。
さらに、パリのメイザース夫妻に財政的支援を行っていたアニー・ホーニマンとエドワード・ベリッジの対立が顕在化した。ホーニマンはベリッジが性魔術を持ち込もうとしていると考え、これをメイザースに訴えたが、ホーニマンに恩のあるはずのメイザースはベリッジの肩を持ち、1896年にホーニマンのほうが追放されてしまった。
続いて1897年、共同設立者のひとり、ウェストコットが退団した。団員のだれかが内部文書を辻馬車内に置き忘れたため、ロンドン警察にウェストコットと魔術結社とのつながりが知られてしまったことが原因といわれる。
こうして団体はメイザースの独裁的支配下に入ったが、パリから戻ろうとしないメイザースに対する団員の不満は高まっていった。
この状況に拍車をかけたのが、アレイスター・クロウリーの昇格問題であった。
クロウリーは1898年の入団後、たちまち位階を駆けのぼり、1899年末には第2団(内陣)の位階となる「アデプタス・マイナー」への昇進資格を得ていた。しかし、彼の人格や素行に眉をひそめていた他の団員たちがこれを拒否したため、クロウリーはパリにいるメイザースを訪ね、1900年1月16日、メイザース直々にイニシエーションを受けた。
ところが、ロンドンのファーやイェイツなどがこれを認めなかったため、メイザースはウェストコットが裏で糸を引いているのではないかと邪推し、ウェストコットとシュプレンゲルとの文通はねつ造であったと宣言したのだ。
ウェストコットとシュプレンゲルとの往復書簡の真否は、ゴールデン・ドーン設立の正当性にも関わる事項であるから、他の団員たちはメイザースにねつ造であるという証拠を提出するよう求めた。しかし、メイザースがそれを拒否したため、イェイツやファーが中心となってメイザース夫妻の追放を決定した。
同時に、メイザースを支持するベリッジ一派も除名されたが、彼らは独自に第2のイシス・ウラニア・テンプルを開設して対抗、さらに他のテンプルも両派のいずれかについたため、組織は完全に分裂してしまった。
この混乱の中、1901年にはメイザースがホロス夫人なる人物に団内の儀式を伝えていたことが発覚したため、反メイザース派はゴールデン・ドーンの名を捨てることを決定、彼らの団体は「ステラ・マテューティナ(暁の星)」を名乗るようになった。
一方のメイザースも1906年に、パリのアハトゥール・テンプルを拠点とする新たな魔術結社「アルファ・オメガ」として組織を再編したため、ゴールデン・ドーンを名乗る魔術結社は消滅してしまった。
このように、ゴールデン・ドーンがこの名の下で活動した時期は非常に短期間であった。しかし、その魔術体系は後継団体や所属していた魔術師たちによって現在まで伝えられており、今もゴールデン・ドーンという名称で活動する団体がいくつか現存している。
●参考資料=『ムー特別編集事典シリーズ6 魔術』( 学研)、『黄金の夜明け魔法体系1 黄金の夜明け魔術全書(上)』(イスラエル・リガルディー著/国書刊行会)、『世界神秘学事典』(荒俣宏編/平河出版社)、『図解 近代魔術』(羽仁礼著/新紀元社)、『図解 西洋占星術』(羽仁礼著/新紀元社)/他
(ムー2020年4月号掲載)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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