幽霊、心霊現象、怪異はいかに描かれてきたか?『イラストで見る ゴーストの歴史』
かわいいイラストつきで「ゴースト」の歴史がよくわかる!
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エイリアンといえば、グレイ、それともタコのような火星人? 70年代キッズを翻弄したさまざまな「うちゅうじん」の姿を、“懐かしがり屋”ライターの初見健一が回想する!
「宇宙人の絵を描いてみて」と言われたら、今ではほとんどの人が「大きな頭と巨大な黒い目を持った子どものような姿」の生物を描くだろう。要するに小人型宇宙人「グレイ」の姿だ。現在はこれが宇宙人の典型的なイメージであり、大人にも子どもにも一目で「あ、宇宙人だ」ということがわかる非常に効率的な「記号」になっているのだと思う。
「グレイ」が取り沙汰されるようになったのは1961年、UFO史における最初のアブダクト事件として知られる「ヒル夫妻誘拐事件」からだとされているが、さらに広く認知を高めたのが、1978年公開の映画『未知との遭遇』だといわれている。僕もこの映画は公開時に劇場で観たが、最後の最後にまぶしい光の中で不鮮明に映し出される「グレイ」型宇宙人の姿は、妙にリアルで強烈に記憶に残った。
しかし、この映画によって僕らの「宇宙人観」が、急に「グレイ」一色になってしまったという印象はまったくない。
現在のように誰もが「宇宙人=グレイ」という感覚を持つようになったのは、だいぶ後の1996年、「グレイ」型宇宙人の解剖記録映像とされる例の「サンティリフィルム」が週末のテレビ特番で大々的に放映されてからだろう。やはりこれが決定的だったのだと思う。
一部識者の間では「あのフィルムに映っている異星人は厳密には『グレイ』タイプではない」という見解もあるらしいが、当時の一般的なシナリオは、ロズウェル事件の時に回収された異星人は「グレイ」タイプであり、それを解剖している様子を記録したのがあのフィルムだ、というものだった。これによって「グレイ」の名称は当時の子どもたちの間でも一般的になったはずである。
では、「グレイ以前」はどうだったのか。
70年代半ばくらいまでは、「宇宙人の絵を描け」と言われれば、誰もが迷わず「タコ」の絵を描いたはずだ。
「タコ」型宇宙人はすでに70年代の時点で形骸化してはいたが、それでも現在の「グレイ」のように宇宙人の「記号」として広く認知されていた。ギャグマンガなどに登場する宇宙人も圧倒的に「タコ」型が多かったと思う。19世紀末にH.G.ウェルズが小説『宇宙戦争』で火星人を「タコ」の姿で表現したことが起源とされるが、実に70年以上もの間、「タコ」型は典型的な宇宙人のイメージとして機能していたわけだ。
もちろん米国のSF雑誌やSF映画などでは、当初から多種多様な宇宙人が登場し、戦後は日本にもそうしたものが続々と紹介されていた。日本の子ども文化においては、主に週刊マンガ雑誌の巻頭カラー口絵などで「さまざまな宇宙人」などのタイトルの特集が組まれることが多く、たとえばアメリカでは昔からおなじみの「ベム」(多くのSF作品に登場した昆虫のような目玉を持つモンスター)なども、こうした図解記事によって日本の子どもたちに知られるようになった。とはいえ、やはり「わかりやすい宇宙人」としては、依然として「タコ型」が用いられていたのだろう。
70年代のオカルトブームが過熱してUFO関連の児童書が続々と刊行されるようになると、宇宙人のイメージは一気に多種多様化した。このことで、逆に「はい、宇宙人です」ということを一目で理解させる便利な「記号」は一時的に消えてしまったような気もする。
同世代であれば、当時のオカルト児童書の多くに、宇宙人を「小人型宇宙人、巨人型宇宙人、美人型宇宙人、ロボット型宇宙人、怪物型宇宙人」と5つのタイプに分類する分類法をやたらと目にした記憶があるはずだ。これは御大・中岡俊哉センセイが各国各時代の目撃情報をもとに考案した分類法で、当時は多くの子ども向けUFO本が踏襲していた。
「美人型ってなんだよ?」と言いたくなるだろうが、これはアダムスキーの体験から「金星人は美男美女ばかりらしい」という説が広まったことによるもの。一時期、アダムスキーには常に金髪の美女がつきまとっていたらしく、メディアは彼女が「地球人に変装した金星人では?」と喧伝していた。確かに「美人」に見える彼女の写真がよく当時のUFO本に掲載されていたが、こうした噂と「金星→ビーナス→女神→金髪美人」みたいな連想で、イメージが固定したのだろう。「金星人=金髪美人」という発想は今思えば冗談のようでもあるが、小学生時代の僕らは「なるほど、じゃあ遭遇するなら金星人がいいな」などと、なかば本気で考えていたのである。
「小人型宇宙人」は後の「グレイ」の原型ということになるが、当時は「リトル・グリーンマン」などとも呼ばれ、造形は「グレイ」に似ているが、体が緑色の宇宙人として表現されることが多かった。また、ゴブリンのような爬虫類風の小人や、奇妙なヘルメットをかぶった姿などで表現されるケースも多かったと思う。
当時の子どもたちに人気を博したのが、ご存知「フラッドウッズモンスター」。僕も初めて見たときはそのシュールな造形に魅了されたが、これは中岡式分類法でいくと「巨人型」ということになるらしい。身長3メートルなので確かに「巨人」だが、そのなんとも不可思議で魅力的なデザインに反して、「ものすごく臭い」などと解説されているのが印象的だった。
僕が今もよくわからないのは、70年代の一時期、スキンヘッドで顔はほぼ人間そっくり、ただし耳がピンととがっていて、皮膚が銀色……というイメージが「典型的な宇宙人」として共有されていたことである。映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」の吸血鬼を銀色にしたようなキャラクターで、特撮ドラマなどにもよくこの種の宇宙人が登場していたと思う。僕ら世代の子どもたちにはおなじみのイメージだったのだが、これの元ネタがどうもはっきりしない。
その昔、児童雑誌の通販広告などでオガワスタジオのモンスターマスク(怪物のデザインのゴムマスク。いわゆるホラーマスク)が人気を博していた。同社は映画『猿の惑星』公開時に猿のマスクを大ヒットさせ、以降もドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男、半魚人などの定番ホラーキャラのマスクを流行させていたが、このシリーズから出ている宇宙人マスクも、やはりスキンヘッドの銀色男だったのである。これまた子どもたちに人気を博して、当時、僕も購入した。非常にリアルで、小学生の子どもとしては「本当に宇宙人がいるならこんな感じなのだろう」と思うほどデキがよかった。調べてみると、驚いたことにまだ同じデザインで販売されている(現在流通している在庫限りかも知れないが)。僕的には、このタイプの宇宙人が最も懐かしい「昭和の宇宙人」だ。
初見健一
昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。
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