ツチノコ捜索ブームの前に釣りブームがあった! 日本中を動かした小説、ドラマ、漫画の名作たち/昭和こどもオカルト回顧録
「ツチノコ」ブームの勃興と衰退を当時のこども目線で回想。始まりは、釣り文化だった!
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幻の怪蛇ツチノコを追うドキュメンタリー映画が5月18日公開! ツチノコの村出身の監督が捕まえたものとは一体なんだったのか?
ツチノコ。それは、かつて日本中を熱狂の渦に巻き込み、現在も捜索イベントが各地で行われている、身近な妖怪にして最も有名なUMAだ。このツチノコを、35年間にわたり真剣に探し続けている自治体がある。岐阜県加茂郡に位置する、東白川村だ。ツチノコとの遭遇情報が相次いだことで有名な、人口約2000人規模の村である。
東白川村では、1989年以来、毎年5月3日にツチノコ捜索イベント「つちのこフェスタ」を開催してきた。コロナ禍の2020年だけは感染症対策で中止になったそうだが、例年このイベントは全国からツチノコを捜索する人々が集まる「盛大な村おこし」として定着している。
そして「つちのこフェスタ」開始から35年目の今年、この東白川村を舞台としたドキュメンタリー映画「おらが村のツチノコ騒動記」が完成し、2024年5月18日より公開される。東京都中野区のポレポレ東中野を皮切りに、全国の映画館で順次上映予定だ。見つからないまま半世紀くらい経過してしまったツチノコ業界を照らす、明るいニュースと言えよう。
本作の監督を務めるのは、民族文化の記録映像作品を数多く手がけ、高い評価を得てきた今井友樹氏。何となく予想がついている人もいるだろうが、同氏は東白川村の出身である。
そう、この映画は、日本で最もツチノコと精神的距離が近い村で幼少期を過ごした監督自身の手でツチノコの正体に迫るという、前例のないツチノコドキュメンタリーなのだ。
東白川村だけでなく、日本全国に残るツチノコ伝承や目撃談を取材・検証し、実に9年という制作期間を経て完成したその内容は、ツチノコを伝承文化のひとつに捉えた記録映像としても、一見の価値がある。本作の試写会で行われた監督のインタビューを交えながら、見どころを紹介しよう。
ツチノコは、1970年代半ばから日本全国で一大ブームを巻き起こした。この辺の流れについては、こちらの記事(https://web-mu.jp/column/39550/)に詳しいので、ぜひ参照されたい。
同記事でも言及されているが、多くのメディアでツチノコブームは「1974年前後に勃発した」などと語られることが多いものの、細かくは何回かに分けて大きな波が起こっている。
1979年生まれの今井監督は「私が体験したのは80年代後半の、いわゆる第4次ツチノコブームと呼ばれるものだったようです」と語る。
映画は、まさにその第4次ツチノコブーム時に小学生だった監督自身の記憶を切り口に進む。
なにしろ、映画冒頭から監督の父親、東白川村の役所関係者、そして一般の住人たちが次々に登場し、それぞれのツチノコ目撃談を語っていくのだ。被写体が実に身近なところから始まっている。
興味深いのは、ツチノコブームが起こる70年代よりずっと前から、村の中でツチノコらしき生物が目撃されていたという証言が相次ぐことだ。かつて、村でその生物が「つちへんび」と呼ばれていたことを複数の住人が語っている。
しかも、村の各家庭で先祖から伝わる教えとして、「つちへんびに会ったら災いが起こる。でも殺してはいけない。だから、つちへんびを見ても人に言わない方が良い」と、禁忌として扱われてきたのだという……。
面白いのは、東白川村だけではなく近隣地域でも似た生物の話が伝えられていたらしい。今井監督によれば、「隣村では“転がりヘビ”と呼ばれていたんです。それで取材を進めていくと、本州各地で、名称は違えどツチノコらしい生物の情報が伝わっていることがわかりました」という。
それが、70年代にツチノコブームが全国的に起きたのを皮切りに、「先祖から伝えられていた謎の生物つちへんび=ツチノコ」として一気に共通認知され、やがて村おこしの一環としてツチノコ捜索イベントが開催されるまでになるのである。
この一連の流れを、映像で紐解いていく本作は非常に見応えがあり、まさに民族文化の記録映像作品を手がけてきた今井監督の面目躍如と言えるだろう。
上述の通り、監督自身が物心ついたのは、すでにツチノコブームが村に押し寄せていた時代だった。当時を振り返って、監督は語る。
「私が子どもの頃、東白川村のどこの家でも、ツチノコの目撃については普通の話題でしたね。基本的に、親戚身内にひとりはツチノコを見た人がいるのが普通。私の家も、祖母のお兄さんが最近ツチノコ見た人としてテレビに映ったりしていました。あと、子ども同士の会話の中で、“つちへんび”という言葉も普通に出てきていた。それを見たら殺しちゃいけないというのも、親に言われていましたね」
今井監督は、東白川村で1989年に開催された第一回ツチノコ捜索イベントにも参加しており、「もちろんツチノコの存在を信じて探しました」という。しかし、進学等で故郷を離れた20代以降、その気持ちは冷めてしまったのだとか。
「ツチノコで村おこしする故郷が、なんか格好悪くて嫌だったんです。村の外に出ると、ツチノコなんてと笑い話になってしまうし。いつの間にか私も、ツチノコの存在を信じなくなっていました」
それが、今回のようなツチノコの一大ドキュメンタリーを制作するに至ったきっかけは何なのか? 聞けば、今井監督が文化庁映画賞文化記録映画優秀賞・キネマ旬報ベストテン文化映画第1位を獲得した作品「鳥の道を越えて」(2014年)の撮影で、故郷の東白川村を訪れたことが契機になったという。
「昔から知っている近所のお婆さんにインタビューしていたら、ふと雑談の中で“そういえば昔はあそこが田んぼになっていたから、ツチノコも住みやすかっただろうね”という会話が出たんです。その時、開発でどんどんで失われていく故郷の懐かしい風景の中に、ツチノコの姿が浮かび上がってきて。
ずっと目を背けていたけど、日本各地の文化を記録に残す立場として、その風景の一部であるツチノコにちゃんと向き合う時が来たんだって思いました。そこからツチノコの映画を撮ろうと決めて、気づけば9年を費やしていたという感じです」
映画の撮影を進めて、東白川村の住人たちから様々なツチノコ遭遇体験を聞くうちに、いつしか今井監督の心には、再びツチノコの存在を信じる気持ちが戻っていたという。
監督は「今はもちろんツチノコはいると思っています」と笑顔で語った。
さて、映画「おらが村のツチノコ騒動記」では、東白川村でツチノコ捜索イベントを企画・運営してきた側の人々にもスポットを当てている。観るとわかるのだが、村おこしの企画として地方公務員が淡々とイベントを運営しているのではなく、そこに関わる全員が「基本的にツチノコは存在する前提」で真面目に探索している。
「地域振興」と「UMAを信じること」が、地方行政レベルで同時に成立すること、しかもそれが35年間続くというのは、よく考えるとレアなケースではないだろうか。
ここで思い出したいのが、映画の冒頭で触れられていた“つちへんび”の伝承である。「つちへんびに会ったら災いが起こる。でも殺してはいけない。だから、つちへんびを見ても人に言わない方が良い」と、先祖から伝えられてきたというやつだ。
要するに東白川村において、ツチノコとは元々、村に伝わる土着の神霊に近い存在だったようである。「流行り物のUMA」という肩書きは、あくまでも70年代ツチノコブーム後に付いてきたものなのだ。
つまり、ツチノコに対し、ある種土地の信仰心に近いものがベースにあったからこそ、村全体をあげて本気の捜索を35年間続けてこられたのではないか。
これに関しては、東白川村にある「親田槌の子神社」(通称:つちのこ神社)の存在が裏付けにもなっている。こちらなんと、御神体にツチノコを祀る神社だ。現地の写真など、こちらの記事(https://web-mu.jp/paranormal/2008/)に詳しいのでぜひ参照いただきたい。
今井監督から聞いた話も合わせて、この「つちのこ神社」にまつわる物語を整理してみると、こうだ。まず時は遡って1959年、東白川村のある場所で、倒れた木の下敷きになって死んだツチノコ=つちへんびが発見される。会ったら災いが怒ると恐れられていたその生物の死体を発見した村人は、その場で丁寧に埋葬した。
そして時は下り1989年、第一回「つちのこフェスタ」が行われる際、上記の言い伝えにあった場所を掘り起こし、そこにあった土を集めて御神体として「つちのこ神社」を作ったのだという。
今井監督は、「毎年5月3日は、無事にツチノコ捜索イベントが終了した後、イベント運営チームがつちのこ神社にお参りに行くのが決まりなんですよ」と明かしてくれた。「UMAを探す」という表向き派手なテーマの裏に、ツチノコ=つちへんびへの深い信心が感じられるエピソードだ。上述の過去記事にある通り、東白川村は寺がない自治体で、伝統仏教の信仰や風習はなく、葬儀が神式だというのも合わせて考えると、非常に興味深い。
そんなわけで、映画「おらが村のツチノコ騒動記」は、日本で最もツチノコという神様の影が感じられる東白川村のリアルな風景を存分に楽しめる一作だ。ツチノコ情報だけでなく、それに対峙する住人たちの姿や、今井監督の心の原風景となる東白川村の自然まで、見応え抜群である。
なお本作はDVD化が決まっており、そこには特典映像として、東白川村の住人たちによる「ツチノコ座談会」(35分)が収録予定だという。発売時期・価格等はまだ明らかにされていないようだが、こちらもぜひお見逃しなく。
映画「おらが村のツチノコ騒動記」
監督・編集・ナレーション:今井友樹
撮影:伊東尚輝 小原信之 澤幡正範
整音:高木創
音楽:関根真理 辰巳光英
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
企画・製作・配給:工房ギャレット
配給協力:シグロ
宣伝:風狂映画舎
2024年/71分/HD・DCP/5.1ch/16:9/日本/ドキュメンタリー
©工房ギャレット
公式HP https://studio-garret.com/tsuchinoko/
杉浦みな子
オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
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