君は医者にオカルトを止められたことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」新1回(第21回)

文=大槻ケンヂ イラスト=チビル松村

    webムーの連載コラムが本誌に登場! 医者から「オカルトという病」を宣告され、無事に社会復帰した男・大槻ケンヂの奇妙な日常を語ります。

    ムー民にしてロックミュージシャンである

    「ムー」のサイト「webムー」で連載中のコラム「医者にオカルトを止められた男」が、第21回目を迎える今回から本誌でも掲載していただけることになった。本誌の読者の皆さん初めまして! 「webムー」の読者には再度の説明になってしまうけれど改めて自己紹介をさせていただきたい。

     僕は大槻ケンヂ(オーケン)といってロックミュージシャンをやっている。バンド筋肉少女帯のボーカリストだ。顔にヒビを入れて「高木ブー!!」とか叫んでいるやつといえば「あ、昔オールナイトニッポン聞いていたよ」と思い浮かべてくれる世代の方もいるかもわからない。

     趣味はオカルト。でもってムー民だ。昔から「ムー」を購読している。書店では当たらず障らずな本とともにレジに表紙を隠してソッと出し、喫茶店や電車内ではカバンの中に入れたまま密かに開く。心にムー熱を秘めつつも身をわきまえた、みなさんと同じひとりの愛読者なわけです……。
     ただ逆にこれ見よがしに「ムー」を抱えて歩くときもある。夏のロックの野外フェス、いわゆる夏フェスに出演するときには必ず「ムー」を持ってアーティストエリアに入ることにしているのだ。どんな強面のロッカーもセレブを気取ったアーティスト様も「ムー」を持って夏フェスに来たやつを見ると「ん? ん!? ム、ムー持ってきたの!?」と二度見三度見して驚くからだ。居並ぶロッカーに気合負けしないようにするときには「ムー」こそが最強のアイテムなのだ。
    「なんだあいつやばいぞ!」
     大概ぎょっとされるし、逆に「あ、大槻さん、ムーだ! 今月の『預言者エノクと大ピラミッド建造の謎』いっすよね!」とかいってくるミュージシャンとはその後絶対に仲よくなれる。ハッタリが効いてお友だち発見道具にもなる。「ムー」は万能なのだ。

    医者が止める「オカルトという病」

     さてそんな僕だけど一朝一夕にオカルトものになったわけではない。昭和41年生まれであるために、少年時代にはユリ・ゲラー、ノストラダムス、中岡俊哉などのブームの直撃を受け、当時は素直なビリーバーであった。それが30代の手前くらいであったろうか、超常現象について、肯定否定する前にまず徹底検証してみるべきだという派閥、懐疑派(スケプティックス)の存在を知ってガーン!とショックを受け、そこからオカルトにのめり込んでいったのだ。ただ懐疑派に徹したかといえばそうでもなく、肯定派否定派の主張もどちらも面白いと思ったし、UFO、心霊、超能力その他どこから入っても嘘と実の混ざり合うオカルト世界が幻惑的で虜になってしまった。

     どれだけ夢中だったかといえば、ある時期の僕のライブでの曲間のおしゃべりがほぼ全部オカルト案件で埋め尽くされてしまったほどだ。

    「イエー! 乗ってるかーい!? ……でね、甲府事件なんだけど、宇宙人の指が3本……」
    ーーちょっと大槻変だから一回医者に連れていけ、と周りにいわれたものだ。

     当時ちょうど多数の悩み事を抱えていてメンタルの調子がひどく悪くもあったので、実際に医者に行ったところ、とても優しい先生に出会うことができた。話を聞いてくださった後「大槻さん、一度オカルトを止めてごらんなさい」とアドバイスをいただいた。オカルトは楽しいかもしれないけれど、あまりのめり込むと、妙なものを引き寄せることもあるから、一度距離を置いてごらんなさい……との提言であった。
     ……今にして思えばそのアドバイス自体がちょっとオカルトっぽいよなぁとも思うわけなんだが「そういうこともあるかもわからないなぁ」と、それで僕は一時期「医者にオカルトを止められた男」としてオカルト抜き生活を送ることにしたのだった。

    コンノケンイチの写真にこだわる男

     確かにいわれてみればそのころ、あまりにもオカルトのことをあちこちで語るためだろうか、妙な人や事件が僕の周りに集まりつつあった。
     たとえば「この世の終末を知っている」という親子がノーアポで自宅に訪ねてきて「そのことを知っているのは私たちの他には大槻さんとデーモン小暮と天知茂だけなのです!」と謎すぎるチーム結成宣言をしはじめたり、歌舞伎町の入り口ではUFOマニアの見知らぬおじさんにいきなり襟首をつかまれた。
    「大槻さん! コンノケンイチの月面の写真はねぇ、全部嘘なんですよ!」
     昼日中に新宿を歩いていたらいきなり見知らぬ中年男性が走り寄ってきて、僕の襟首をつかんでそう叫びはじめたのだ。焦ったのなんの。
    「ちょ、ちょっと何なんですか急に!?」
    「月がUFOの発進基地だなんてありえない! コンノケンイチの写真は嘘なんだよ!」
     当時、月がUFOの発進基地になっているという説があった。UFO研究家のコンノケンイチさんがその証拠写真として月面の写真をよく紹介していたのだ。
     コンノさんの写真は、大概ぼんやりとしていて何か人工的なものがあるようにも見えたし、ないようにも見えた。襟首つかみおじさんには後者に見えたのだろう。そしてそのことが彼にはなんだかモーレツに許せなかったようなのだ。
    「大槻さん! あれは嘘なんですよー!」
    「わかりましたから離してくださいよ!」
     いくら許せないからって人の襟首をつかむことはないじゃないか。なるほどオカルトに熱中しすぎるとこんなふうになってしまう人もいるのかもわからない。ようやく手を離してくれたものの、このおじさんには数日後にまた新宿でバッタリ会ってしまった。
    「あ! 大槻さん、月面の……」
    「わかりました!」
    と両手を広げて制したらもう近づいてはこなかった。だがしかしなんということだ。数週間後にまたまた新宿で出くわしてしまった。このときはさすがにお互い「またかよ」という空気になったので、思いきってこちらから「あ、どうも、月の写真は嘘なんですよね」と先に声をかけたところ、おじさんも「あ、あー」といって去っていった。あれから何十年、もう会ってはいない。

    UFOなら夢があっていいじゃないですか

     そんな妙な人や事件を引きつけるとはいえ、やっぱりオカルト好きは止められなかった。それでメンタルの調子がよくなってきたころを見計らって、先生にオズオズと尋ねたのだ。

    「先生、そろそろまたオカルトをやりたいんですが……どうですかね?」
    「そうですか……好きなんですね……じゃぁ調子もよくなってきたみたいだし、UFOあたりからなら、夢があっていいんじゃないですか?」

     こうして無事「UFOあたりから」のOKをいただき、僕は「医者にオカルトを止められた男」から晴れて「医者にオカルトを解禁された男」となって、そして今こうして「ムー」の連載にたどり着いたというわけだ。ここでは昭和から令和まで僕のオカルト談義を書いていこうと思います。よろしくです。

     それにしてもあのUFO襟首つかみおじさんは今どうしているのだろう? 本当にあれからパッタリ会わなくなった。まだ月面写真フェイク疑惑を追求しているのだろうか。あるいは、医者にオカルトを止められたのかも。

    (月刊ムー2024年1月号より)

    大槻ケンヂ

    1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
    筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。

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