神隠しから生還した6つの事例! 同じ場所で2度消えた悲劇やロボット祖母の謎/仲田しんじ
行方不明や失踪事件は毎年一定数が発生するものだが、不可解なのは、いったん姿を消したものの、その後に本人がひょっこりと現れるケースだ。いったい今までどこへ行っていたというのだろうか――。
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自分は自分である――。この当然の大前提が揺るがされる驚くべきケースがあるようだ。ある日、見慣れないシーツのベットで目覚めた女性が体験した“微妙に違う”現実とは――。
運転免許証やパスポートはその人物のアイデンティティ(自己同一性)を客観的に証明する身分証明書であるが、もしこの証明書に不備や不明な点が見つかれば当然、所持者の身元が疑われることになる。
かつて、存在しない国のパスポートを持って日本に来た身元不明の男の話が語り伝えられている。「トレドの男」として知られるこの男は1954年7月、香港からの国際線の乗客として羽田空港に降り立ったのだが、入国審査で提示したのはこの世に存在しない国である“トレド”のパスポートだったのだ。
当然入国は許可されなかったのだが、当局はこの男が犯罪に関係していないかどうか調査するためにひとまず宿泊施設に一泊させることにした。もちろん男の外出は禁じられ、施設には警備員が配置されていたのだが、翌朝、警官が部屋に行くと男の姿は跡形もなく消え去っていたのだ。どのように逃亡したかを示す痕跡は何もなく、男の所持品もきれいさっぱりになくなっていたのである。男はまるでパラレルワールドからやって来て、束の間の滞在の後に元の世界へと戻っていったかのようでもあった。
未解決事件となったこのトレドの男はパスポートによってアイデンティティが疑われたわけだが、驚くべきことに当人が自分のアイデンティティを疑うというレアケースがスペイン人女性から報告されている。
2008年2月のある日、当時41歳のレリナ・ガルシア・ゴードーさん(以下、敬称略)は朝、換えた覚えのない見慣れぬ色のシーツが敷かれたベットで目覚めた。
この色のシーツを買ったこともなければ、昨晩はシーツを交換してもいないと記憶を確認したレリナだったが、ともあれ慌ただしく朝の身支度を整え、住んで7年になるアパートの部屋を出ると車に乗り込み会社へと向かった。ちなみに、レリナがその会社に勤めはじめてもう20年にもなる。
車を走らせ、いつもと同じ道を通って、いつもと同じように会社に着いたレリナだったが、オフィスビルに入ると初めて見る人がやや多いように思えた。
自分の個室ブースにやってきたレリナだったが、ドアに表示されている社員の名前が自分の名前ではなかった。
彼女はもしかしたらフロアを間違えたのかもしれないと周囲を見渡して確認してみると、階は間違ってはいなかった。いったいどういうことなのか。
レリナは困惑した。ひょっとして自分が解雇されたのではないかと思ったが、上司をはじめ誰も彼女にそれを伝えないのは不自然であった。
彼女は自分のノートパソコンを取り出し、会社のワイヤレス ネットワークに接続してみた。ネット上の社員名簿を見てみると、自分の名前は確かに載っていたのだが、彼女はまったく別の部署の別のマネジャーの指揮下にあることが示されていた。何も言われずに急に配置転換になったというのも実に奇妙なことだった。
ネットに繋いだついでに会社の社員IDを確認すると共に、クレジットカードの登録者情報をチェックしてみたが、それらはすべて正しい情報を反映していた。
混乱するばかりのレリナだったが、ともあれ会社の新たな部署に電話をかけると、病気休暇を取って欠勤する旨を伝えた。自分では気づかない体調の悪化があるのではないかとも思えたのだ。
レリナは医師のもとへ向かい、身体を診察してもらった。結果は健康にまったく問題はなく、アルコールも薬物も検出されなかった。いったい自分の身の上のどこで何が狂ったというのだろうか。
家に戻ったレリナは、変な出費をしてはいないかと銀行取引明細書、個人小切手、請求書などをそれぞれダブルチェックしたが、どれも正しい情報を示していた。
一時的な健忘症なのではないという懸念も持ち上がってきたので、インターネットで昨日のニュースをチェックしたみたが、確かに昨晩テレビで見聞きした出来事であった。健忘症というわけでもなさそうだ。
この時、レリナは7年間付き合った恋人と別れてから半年が経っていたのだが、4か月前から隣町に住む男性(アグスティン)と付き合い始めていた。アグスティンには幼い息子がいたのだが、レリナは彼の息子とも良好な関係を築いており、彼が通っている学校も知っていた。
ともあれアグスティンに電話をしてみたレリナだったが、電話に出たのはまったく別の人物であった。しかし、電話番号を間違えているわけでもなければ、この人物が最近この電話番号を取得したわけでもなかった。
朝から不可解なことばかりであったが、いったん自分を落ち着かせたレリナは、明日からは会社の馴染みのない所属部署に行き、周囲に合わせながら取り繕って仕事をしていくしかない、と自らを納得させた。
こうしてレリナの半信半疑の生活がはじまったのだが、ある時点で彼女は自分が神経衰弱になったのかもしれないと思い、精神科クリニックを訪れた。しかし検査の結果、彼女は健康な身体と健全なメンタルを持っていると結論づけられた。医師は、おそらく自覚のない極度のストレスを抱えているのかもしれないと指摘した。
次に彼女は、探偵に依頼してボーイフレンドのアグスティンを探してもらったのだが、少なくともこの街にはアグスティンとその息子が存在する形跡はないことが探偵から報告された。
また、レリナは妹が少し前に肩の手術を受けたことを記憶していたが、妹本人を含む家族の誰もがそんなことは起きてないと否定したのである。
ベッドのシーツと会社の所属部署だけが違っていた“あの日”であったが、こうして徐々に自分の周囲の“微妙に違う”側面が増えていったのだ。
引き出しやクローゼットの中には買った覚えのない服あったり、少し前に書いたブログの記事が消えていたり、逆に書いたおぼえのない記事がアップされていたりなどの小さな発見がその後も続いていった。
こうして微妙に違う新たな日常の中で暮らしていくことを余儀なくされたレリナは結局、“あの日”に自分は並行して存在するパラレルワールドにジャンプしてしまったのではないかと考えるようになったという。つまり、今いるこの場所はかつていた世界に隣接しているよく似た別の現実であるに違いないというのだ。
こうしてレリナは2008年7月16日にこれまでの体験談をオンラインフォーラムに書き込んで広くコメントを求めたのである。
彼女の体験談は広く反響を呼び、パラレルワールド説に理解を示すコメントやメールも多かったが、それでもレリナはこの先もどこかで違和感を抱えたまま暮らしていくことになるのだろう。いったい彼女に何が起こったのか? レリナがアイデンティティを取り戻すには再度のジャンプが起きることを望むしかないのだろうか。
【参考】
https://medium.com/freaklore/the-woman-from-a-parallel-universe-d8ab6f549c48
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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