3メートルの怪物は異星人かUMAか? フラットウッズ・モンスターの基礎知識と最新ご当地事情

文=羽仁礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、1952年にアメリカ東部の小さな町フラットウッズに出没し、大きな話題となった謎の怪物について取りあげる。

    刺激臭を放つ謎の浮遊モンスター

     アメリカ東部にあるウェストバージニア州、そのほぼ中央に位置するブラクストン郡の小さな町フラットウッズで、地域住民だけでなく、世界中を震撼させるUFO事件が起きたのは、1952年9月12日のことだ。
     この日の午後7時15分ごろ、日没後30分くらいの時間帯でまだ明るさが残っていた学校の校庭で、5人の子どもたちが残って遊んでいた。その子どもたちが、赤く輝く物体が空を横切って飛んでいくのを目撃した。彼らには、この飛行物体が近くの丘に着陸したように見えた。
     5人の中には、町で美容室を営むキャスリーン・メイの息子ふたりがいたため、彼らはまずメイの美容室に駆け込んだ。
     メイは、物体の正体は隕石ではないかと思ったようだが、子どもたちに説得された形で一緒に物体が落ちた場所を目指すことになり、近所に住む州兵のジーン・レモンにも声をかけた。
     こうして全員で7人となった一行は、彼らの飼い犬など3匹も引き連れて、謎の物体の探索に出かけた。

    事件現場の丘に立つ7人の目撃者たち。モンスターに遭遇した際、毒ガスを吸ってしまったような症状があったという。

     美容室から数百メートルばかりの丘に、懐中電灯を手に登っていくと、木立の間に何か光るものが見えた。近づいてみると、直径7・5メートル、高さ1・8メートルほどの、真っ赤な火の玉のようなものが脈打つように動いており、あたりには刺激臭を放つ靄のようなものが立ち込めていた。
     そのとき、レモンは靄の中に、緑がかったオレンジ色のふたつの光点を見つけ、そちらに懐中電灯を向けた。すると、奇妙な怪物の姿が浮かびあがった。
     全体として人間のようなシルエットはしているが、身長は3メートル以上もあり、顔は血のように真っ赤で、頭はフードのようなスペード型をしたものに覆われていた。胴体とおぼしき部分は暗い色でカーテンのような形状をしていたが、金属のような質感があり、脚は見あたらなかった。
     怪物は両目から光を放ち、シューという無気味な音を立てながら、宙を滑るような動きで一行に迫ってきた。恐ろしくなった7人は、蜘蛛の子を散らすように逃げだした。

    「フラットウッズ・モンスター」として知られ、今もその正体について議論が続いている怪物の、衝撃的な登場である。

    1952年9月12日、ウェストバージニア州ブラクストン郡の小さな町フラットウッズで、メイ一家らが遭遇したモンスターのイメージ。身長は約3メートル、シューと威嚇するような音を立てながら目撃者たちに迫ってきたという。

    怪物の正体は動物? それともロボットか?

     このフラットウッズ事件は、地元ブラクストン郡出身の研究家グレイ・バーカーや、有名な奇現象研究家アイヴァン・サンダーソンが調査し、その結果を公表したことで、世界的にも有名になった。
     この怪物について、日本では省略して「フラモン」とか、その身長から「3メートルの宇宙人」などとも呼ばれるが、アメリカでは「ブラクストン・カウンティ・モンスター」「ブラクシー」「フラットウッズの幽霊」などとも呼ばれている。

    フラットウッズ・モンスターのスケッチを持つジーン・レモン(左)とキャスリーン・メイ(右)。事件は新聞でも報道された。

     1970年代、盛んに出版された少年向けUFO書籍や雑誌記事では、UFOで宇宙から来たとされることが多かったが、最近ではUMAとして扱われることもある。
     このころの書籍では、丸い顔に大きな鉤爪を持つおどろおどろしいイラストで紹介されているが、このイラストはグレイ・バーカーが発行していたUFO研究誌「ソーサリアン・ブレティン」1959年9月1日号に最初に掲載されたものだ。
     目撃者たちはほぼ一致した特徴を口にしており、それぞれがよく似たイラストを描いた。鉤爪については言及していない者もいたが、彼ら全員が何か異常な経験をしたことは確かと思われる。

    事件現場での目撃者たちの位置関係や遭遇時の様子を説明した図。
    少年5人によるモンスターのスケッチ。いずれもよく似たイメージで描かれている。

     ただ、7人はフクロウを見間違えたのではないかという意見も早くから出されている。
     野生動物の目は闇で光るし、懐中電灯の光が当たれば赤っぽい顔に見える。丸い顔もメンフクロウのそれに似ているし、鉤爪も猛禽類の特徴に一致する。滑るように近づいてきたのも、「空を飛んだから」と説明できる。頭の黒いフードのような形については、木の梢が交差する様子によって、そのような姿に見えたとも考えられる。

     だが、後年になって目撃者たちは、上述のおどろおどろしいイラストとは少々異なるスケッチを描き直している。
     それによると怪物に鉤爪はなく、胴体は円筒状で、頭は先端が尖ったネギ坊主のような形をしており、全体としてかなり機械的な印象を受ける。そこで、この怪物はじつは小型ロケットだったのではないかという説も出ている。
     実際、バーカーが事件の数週間後、2度目にフラットウッズを訪れたとき、メイの父親は、怪物は「ロケット宇宙船」だったのだと語っている。
     さらに、地元で小さな新聞社を運営していたA・ リー・ステュアート・ジュニアは、フラモンに似ているとして、「コリアーズ」という雑誌に掲載された想像上の月着陸船のイラストを見せたという。

    ブラクストン郡出身の研究家グレイ・バーカー。モンスターの目撃事件について調査を行った。
    バーカーが発行したUFO研究誌で、「ソーサリアン・ブレティン」の前身である「ソーサリアン」の創刊号(1953年)。フラットウッズ・モンスター事件を特集した。

    フラットウッズ以外でも続出した目撃情報

     ところが、怪物の正体がフクロウなりロケットだとすると、少々不思議なことがある。というのは、フラットウッズ以外にも、身長3メートルほどの奇妙な存在が目撃されるという事件が、ブラクストン郡内だけで、1952年9月に少なくとも3件起きているのだ。

    ニューヨークのアーティストが描いたフラットウッズ・モンスターのスケッチの原画。46ページのイメージよりも柔らかい印象を受ける。
    丸い顔と鋭い鉤爪を持つメンフクロウ。目撃者たちは、森の中にいたメンフクロウをモンスターと見誤ったのだろうか?

     事件のひとつは、キャスリーン・メイらの目撃から1週間以上前とされる。このとき、ウェストンに住むある母親が教会に向かっていた。その途中、強烈な臭気を放つ怪物を見て、ショックで3週間寝込んだという。この怪物がフラモンによく似ていたといわれている。

     さらに、フラットウッズ事件以前に、オードラ・ハーパーという女性とその友人も、謎の怪物を目撃している。
     日時ははっきりしていないが、1952年9月、フラットウッズ事件より少し前のことらしい。この日の夕方、フラットウッズの北5キロくらいにあるヒーターズに住むハーパーは、友人とともに4キロほど離れたフォールズ・ミルの雑貨屋に行こうとして、森の中を歩いていた。
     曲がりくねった道路はあったのだが、湿っていて轍の跡も深く残り、歩きにくかったので、近道をしようとしたのだ。近道といっても4キロほどあり、半分くらいのところまで来たとき、少し離れた丘のひとつに火が燃えているのに気づいた。
     ふたりは、地元民がキツネ狩りでもしているのだろうと、気にもせず通りすぎようとしたが、ふと同じ場所を振り返ってみると火は消えていて、代わりに信じられないものがいた。
     そこには背が高くて黒っぽい、人の形をしたシルエットが立っていた。しかも、その怪物が彼女たちに迫ってきたのだ。
     ふたりは走って逃げ、森の開拓地の終わりにあったゲートを通り抜けると、そこで怪物は止まった。その後、その怪物がどうなったのか、立ち去った彼女たちは見ていないようだ。

     さらにフラットウッズ事件の翌日、9月13日にも、場所はフラットウッズから32キロほど南のストレンジ・クリークで、3件目の事件が起きた。
     この日の深夜、ジョージ・スニトウスキーは夫人エディスと、生後18か月になる息子と一緒に、オハイオ州シンシナティにいる義兄のところから、ニューヨーク州クイーンズの自宅に戻ろうと車を急がせていた。
     ところが、車のエンジンが、ブラクストン郡ストレンジ・クリーク付近の寂しい間道で突然停止したのだ。何度もキーを回して再始動させようとしたが、まったく反応はなかった。日はとっぷりと暮れていて、行き交う車もまったくなく、一番近い町までは、おそらく20キロ近くはあると思われた。
     一家が途方に暮れていると、突然なんともいえない嫌な臭いが漂ってきた。その臭いのせいか赤ん坊は咳をしはじめ、激しく泣きだした。
     さらに車が目もくらむような光に照らされた。その光源がなんなのか確かめようと車外に出たスニトウスキーは、木立の間に光る球体のようなものを確認した。
     スニトウスキーはさらに近づこうとしたが、熱波のような熱い空気に全身を包まれ、全身に電撃を受けたような、あるいは全身を針のブラシで擦られるような、なんともいえない嫌な感じを受けて車に引き返した。
     そのときだ。彼の右手10メートルほどの道路脇に、背の高さが3メートル近くもある大きな人間のような姿を見つけたのである。
     球体の発する光が逆光線となって顔ははっきり見えなかったが、スニトウスキーは慌てて車に飛び込み、夫人と一緒に車の床に伏せた。おびえながらも、顔を上げてフロントガラスを見ると、先端がふたつに割れた腕のようなものが、その表面をなでるように動いていた。
     いったん顔を伏せて、再び顔を上げてみると、怪物が森のほうへ去っていくのが見えた。後ろ姿を見ると足がなく、でごぼこの地面の上を滑るように水平に進んでいた。さらに窓の外に目をやったとき、虹色の巨大な光の球が空に昇っていくのが見えた。
     光球が完全に飛び去って、やっとわれに帰ったスニトウスキーがエンジンをかけると、車は問題なく始動した。

     これらの怪物が、フラモンと同一かどうかは不明であるが、もし同じだとすれば、怪物はブラクストン郡の各所を何日かうろついていたことになる。

    目撃者のひとりが1995年に描いた再現スケッチ。事件当時とは異なり、金属的な質感を持つロボットのような特徴に変わっている。
    モンスターは浮遊する機体に乗ったエイリアンだったという仮説に基づいて描かれた再現イラスト。

    グッズまで登場! 現在の“フラモン”事情

     さらにもうひとり、フラモンに似た奇妙なエイリアンと遭遇した人物がいる。アメリカのUFO研究家アルバート・ベンダーである。
     彼は謎の男たち、メン・イン・ブラック(MIB)の脅迫を受けてUFO研究を止めてしまった人物だが、男たちの訪問後、幽体離脱のような形でエイリアンとコンタクトし、彼らの本当の姿を見せられた。それがフラットウッズ・モンスターにそっくりだったというのだ。
     こうした目撃報告がどれくらい信用できるのか、また目撃された怪物がフラットウッズ・モンスターと同一かどうかは定かではない。

     それはさておき、現在フラットウッズから8キロほど離れたサットンの町には、事件に関する博物館が設置されており、この博物館や近所のホテルではフラモン・グッズを何種類も販売している。
     また、ブラクストン郡の各地には、フラモンを象った木製の椅子が5脚点在しており、ブラクストン郡の町おこしには一役買っているようだ。

    ブラクストン郡にあるモンスターを象った木製の椅子。事件から70年以上経った現在、その存在は地域の象徴としてすっかり定着している(撮影=松原理江)。

    ●参考資料=『図解UFO』(桜井慎太郎著/新紀元社)、『驚異物語』(黒沼健著/新潮社)、「ムー」2020年3月号(学研)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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