妖怪「土蜘蛛」の実像は蜘蛛トーテム信仰集団だった!/高橋御山人・土蜘蛛考察(前編)
巨大な妖怪、あるいは朝廷に従わない「まつろわぬ民」とされる土蜘蛛。しかし本当にそうなのか?文献を読み解くことでみえてきた、土蜘蛛の新たな可能性とは。
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3本足の大烏として知られるヤタガラスだが、そのイメージの固定は意外と現代のこと。その変遷をたどる。
描かれ方の変遷が激しい意外なキャラクターをひとつピックアップしてみたい。それは、神武天皇を先導したことで知られるヤタガラスだ。
ヤタガラスといえば、だれもが特徴の第一にあげるのが「3本足」だろう。しかしヤタガラスが3本足に描かれるようになったのはかなり最近のこと、筆者の調べたところでは平成はおろか2000年代に入ってからだといっても過言ではない。
誤解のなきように説明すると、太陽のなかに3本足のカラスが住むという「火烏」あるいは「金烏」とよばれる中国の伝説は古くから知られていた。しかし記紀神話に登場するヤタガラスが3本足に描かれる例は、古いものにはほとんど見当たらない、ということである。
たとえば下の図、これは明治時代に描かれたヤタガラスの挿絵だが、あくまでもカラス、あるいは大ガラスであり「足を3本に描こう」という意思は感じられない。
他の多くの絵でもカラスは小さく空を飛ぶ様子が描かれるのみで、足に意識が向けられている様子さえないのだ。
さらに珍しいものが下図のヤタガラスで、ご覧の通り8つの頭をもった化けガラスのように描かれている。
これは江戸前期、17世紀のものだが、その約100年後に生まれた本居宣長も、ヤタガラスは頭が8つのカラスという意味だろう、といった主旨のことを述べている。
「頭八咫烏」とも表記されることから、ヤマタノオロチのように多頭のカラスという解釈が生まれたようだが、一般的な「八咫烏」の表記にしても八咫ほどもある巨大なカラスという程度の意味で、そこに3本足という設定は含まれていない。ヤタガラスと三足烏を関連づけた考察は平安時代までさかのぼれるほど古いものではあるが、国学者の立場からすればわざわざ外国の伝承と比較すること自体「間違い」に見えたのかもしれない。
明治時代までは単なるカラスとして描かれていたヤタガラスだが、時代が下るとさらに興味深い変化がおこる。カラスでなく人間として造形される例が多くなるのだ。
神話が「国史」として扱われるようになると、一部には神武天皇を案内したのがただのカラスではどうも格好がつかない、という意識が生まれたのだろうか。『日本書紀』にはヤタガラスは賀茂氏の祖神が姿を変えたものだとする一節があるが、「史実」として神武天皇を導いたものがいるのであれば、その姿は当然人間であるほうが都合がよいともいえる。
そうした経緯があってか、昭和期になるとヤタガラスは「カラスのような甲冑をまとった武人」として描かれる例が増えるのだ。その元祖は、大正8年、第1回帝国美術院展覧会に出展された彫刻家佐藤朝山の「八咫烏」像である。
大ガラス、異形のカラス、武人型などさまざまに描かれたヤタガラスが、2000年代に入ってほぼ100パーセント3本足姿で統一されたのは、1995年のJリーグ開幕で3本足ヤタガラスのJFAエンブレムが注目されたこと、90年代に発売されたゲームに3本足ヤタガラスのキャラクターが登場したこと、そして何よりも、ネットの発展によって3本足以外が「間違い」とみなされるようになってしまったことなどが原因だろう。
(画像キャプションに所蔵表記のないものは国立国会図書館デジタルコレクションより)
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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