カバラの奥義により命を吹き込まれた「人造人間ゴーレム」/ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、迫害されていたユダヤ人たちを守るために、土の塊から生みだされたゴーレムの伝説を取りあげる。
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古代には創成から終焉までを知る象徴として、近代では神の内的世界を顕す逆さ吊りの大樹として描かれた「生命の樹」の基礎知識。
「園の中に生命の樹、および善悪を知るの樹を生ぜしめ給へり」ーー『創世記』の人類誕生説話において、人類の原郷たるエデンの園に「善悪の知識の樹」と並んで生えていたとされるのが「生命の樹」である。
神のいいつけに背いて知識の実を食べ、“目が開けた”人祖アダムとその妻エヴァは楽園を追放され、以後「生命の樹」は人間が近づくことのないよう、剣と炎で守られる。というのも、この樹の実を食べた者は「永遠に生きる者」になるからである。すでに「知識の樹」の実を食べた人間がさらに「生命の樹」の実まで食べれば、人間は「神に等しき者」になってしまう。
この説話の起源は紀元前10世紀ごろとされるが、ここに見られる「生命の樹」の概念それ自体はおそらく人類の始源そのものにまで遡る。宗教学者ミルチア・エリアーデによれば、「聖木や植物の儀礼・象徴は、どの宗教史にも、世界中の民間伝承にも、古代の形而上学、神秘学にも、まして聖画像や民俗芸術には必ず見出されるのである」という。
人類が意識を獲得して以来、樹木は生命力の源泉、枯死しても無限に再生する永遠の生命、豊饒と生産の象徴でありつづけた。あるときには、それは宇宙そのもの(ウパニシャッドの「無花果樹」(アシュヴァッタ)」など)と同一視され、またあるときには世界の中心で全宇宙を支える樹という概念(北欧神話の世界樹「ユグドラシル」など)が生まれ、そしてあるときには宇宙における神の顕現(アッシリアの最高神アスールなど)となった。
このように、途轍もなく古い起源を持つ「生命の樹」の象徴であるが、キリスト教美術においてそれが独立した図像として顕されたのは、神学者ボナヴェントゥラが1274年に構想した『生命の樹』が最初である。
そこでは12の枝に配された48のメダイヨンにキリストの生涯が再現され、樹の最下部は『創世記』の物語を、最上部は天界を表している。すなわち、歴史の始めから終りまで、当時のキリスト教的世界観における全宇宙がこの樹の中に示されているのだ。
「今や生命の樹は上より下に伸びゆく、それはすべてを照らし出す太陽である」(『ゾーハル』)。
ユダヤ神秘主義カバラにおいては、不可知の超越神と創造された顕現世界との間にひとつの神秘的な関係が措定されていた。カバラの徒によれば、世界の創造とは神の内的世界が外的な現象形態として顕現することに他ならない。そして彼らは、この「創造=神の顕現」のイメージを逆さ吊りにされた樹の形で図示化した。これがカバラの根本図像としての〈生命の樹〉である。
カバラの〈生命の樹〉は一般に「セフィラ(複数形はセフィロト)」と呼ばれる10個の球体と、それを繋ぐ22本の経路(パス)で表される。各セフィラは左から順に「慈悲の柱」「均衡の柱」「峻厳の柱」と呼ばれる3本の「柱」の上に配置される形を採るが、このセフィラこそが各段階における神の「流出」である。
1から10までの各セフィラはそれぞれ固有の属性を持ち、それぞれが神の多様な位相、力、潜勢力などを表している。最上位の「ケテル(王冠)」がこの宇宙における神の最初の顕現であり、最下位の「マルクト(王国)」が最終の顕現、すなわち物質界である。
カバラの徒にとっては、この図形は宇宙生成の秘儀を説き明かすものであると同時に、また霊的修行によって魂を純化する道筋を描いた地図でもある。
すなわち神が自らを流出させ物質界にまで顕現した過程を逆に辿り、「マルクト」から「ケテル」へと〈生命の樹〉を登攀することにより、人間は神に回帰し、各セフィラが表象する大宇宙(宇宙)と小宇宙(人間)のすべての秘密に通暁する。これにより、人間は『創世記』において神によって禁じられた「生命の樹」の実を手に入れ、「神に等しき者」となることができるのだ。
19世紀末に登場した魔術結社〈黄金の夜明け〉団は、カバラを初め錬金術、数秘術、タロット、薔薇十字思想など、多種多様な西洋隠秘学思想を統合した体系を生み出したが、その統合の鍵とされたのが、この〈生命の樹〉であった。彼らはこれをあらゆる象徴体系を格納する「ファイリング・システム」として用いることにより、全魔術思想のエレガントなシステム化に成功したのである。
(月刊ムー 記事を再編集)
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