灰色の看護師が今もさまよう…ニュージーランドの心霊スポット「キングシート病院跡」を現地取材

文=田辺青蛙

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    ニュージーランドにかつて存在した精神科病院。いくつもの凄惨な事件を隠蔽していたその病院は閉鎖後、100件以上の異常現象が報告される最恐心霊スポットになっていた。

    NZ最恐心霊スポット・キングシート病院とは

     悲惨な過去を持つキングシート精神科病院の廃墟は、ニュージーランドで最も幽霊が出るといわれている場所として長らく有名だった。
     そんな病院跡が今は、「ロード・オブ・ザ・リングス」や「キングコング」の制作スタジオでも知られるWETAワークショップの演出によって、絶叫お化け屋敷「スプーカーズ」となっている。

     まず、キングシート精神科病院がどんな場所だったか説明しよう。
     キングシート精神科病院は、1932年から1999年まで運営されており、広大な施設には800名以上の患者が収容されていた。敷地内には厳重な警備で知られる病棟と遺体安置所や、看護師の寮も併設されており、閉鎖されるまでここで、患者は恐ろしい虐待を受けたとされている。

    キングシート病院の外観(Wikipediaより)

     閉鎖後、元患者たちから200件近くの訴えが寄せられたが、その被害者のほとんどが当時8歳から16歳の子供だった。トラウマによる記憶の乖離のせいか、病院を出てから長い時間を経て、過去のおぞましい体験を思い出した患者も多くおり、例えば1971年、17歳で薬物中毒からの離脱のために入院していた男性は「4人の看護師に殴られ、3日間意識を失うほどの痛みを伴う注射を打たれた」と語っている。
     しかし警察は、1960年~70年代にニュージーランドで活動していた精神科医や看護師の多くが死亡しているか、海外へ行ってしまったため、調査が困難になるだろうと述べた。

    闇に葬られた悲惨な事件

     そんな病院内での虐待疑惑事件のなかで最も注目を集めた事件が、1968年に起った11歳のクレメント・マシューズ少年の死だ。
     彼の事件は、同じ患者で友人のスティーブン・リンゼイ(当時14歳)が証人として名乗り出たことで、死後36年経ってから、警察によって再捜査された。マシューズの死因は肺炎だったと病院は公表していたが、リンゼイは、これは恐ろしい虐待の隠蔽だと主張した。彼は、「マシューズがパンを一切れ食べた後、看護師に地面に投げ倒され、背中を激しく蹴られるのを見た、それから何かが折れる音が聞こえた。まるで、枝が折れるような音だった。その時、彼の背骨が折れたことがわかった。そして、犬のように死んだ……」と語った。

     マシューズはマンゲレ・ブリッジの墓地に埋葬されているのだが、彼の墓には墓石がない。家族が墓石を買う余裕がなかったためだ。精神科病院という特徴から、患者を閉じ込めることも日常的にあり、事件は隠蔽されていた。
     別の事件では、2人の13歳、ブルース・ミッチェルとケリー・ヘイデン・コリンズという少年が病院から逃げ出した。病院の関係者は近くの港で溺死したと発表したが、牧草地でコリンズの靴一足見つかっただけで、二人の遺体は港からもどこからも見つからなかった。

     探せば、もっと多くのキングシート精神科病院にまつわるこういった事件や事故の証言の記録を見つけることができる。病院が閉鎖後、跡地を刑務所にする案も出たが近隣住民の反対等もあって企画は立ち消えになってしまった。しかし堅牢な建物をこのまま壊すのも惜しいと思った自治体の意見もあって、病棟の一部が住宅地として貸し出された。
     すると、幽霊を目撃したり、超自然現象を体験したと主張する住人が次々と現れ始めた。やがて、病院の跡地を含む近隣の施設はニュージーランドで最も幽霊が出る場所と呼ばれるようになり、現在まで、100件以上の幽霊の目撃情報が寄せられている。

    目撃が多発する「灰色の看護師」

     報告されたキングシートでの幽霊の目撃情報のなかで、最も多いのは自殺した「灰色の看護師」で、現在はどうやら古い看護師宿舎に住んでいるらしい。
     実は、キングシートでは患者よりも看護師の死亡者数の方が多く、それは肉体的にも精神的にも消耗する労働環境で働くことで生じる高いストレスが原因だったとされている。ニュージーランドヘラルド紙にも同様の内容の記事があることから、この情報はおそらく事実だろう。

     現地で近隣に住む方に聞いたところ、こんな話を聞いた。
    「家族から捨てられたような人や、海外から送られて入院されて放置されていた患者が亡くなった事例はあると聞いています。でも、現場のスタッフのほうが消耗が激しく、職務環境を見かねた人達がボランティアで手伝ったという話もありました。そのころ、命を絶った医療関係者が多かったです。当時はそういう時代だったんです」

     これだけ多くのいわくがある土地だが、現在は絶叫お化け屋敷「スプーカーズ」として運営されているというから驚きだ。スプーカーズの管理者に聞いてみたところ、不動産屋に勧められるがままにここを借りてお化け屋敷を作っただけで、過去の因縁については何も知らなかったと答えてくれた。実際、スプーカーズを訪れる年間8万人から9万人のうち、この建物の過去の姿を知っている人はほとんどいないそうだ。同社は広報資料でも、「キングシート精神科病院の廃墟を改装したお化け屋敷」と述べている以外は、この建物について触れないようにしているようである。

     次回はそんなキングシート精神病院跡地を改装して出来た「スプーカーズ」に実際に行ってみた戦慄の体験談をお送りする。

    参考文献
    Inside the haunted history of Spookers’ Kingseat Hospital(SBS)By Jim Mitchell
    ◆ニュージーランドヘラルド紙
    More patients say they were abused in asylums By Martin Johnston
    Former Kingseat patient meets tragic boy’s family 
    Police re-open boy’s hospital death case after 36 years
    Mother wants to know how son died at psychiatric hospital
    Lawyer pleads for second cold case inquiry
    Ask Phoebe: Kingseat site has colourful history
    画像撮影:Mark Wallbank
    paranormal New Zealand  https://hauntedauckland.com/

    田辺青蛙

    ホラー・怪談作家。怪談イベントなどにも出演するプレーヤーでもある。

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