阿蘇で山に向かう「ヤマワロ」を撮影! 実りの秋を祝う田の神が現れた?/ナナフシギ大赤見ノヴ

文=鹿角崇彦

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    2022年夏、防犯カメラに映り込んだ奇妙な黒い影。 その正体は、はるか昔から伝えられるご当地妖怪である可能性が浮上した!

    走り去る「黒い小人」

     2022年、熊本県の阿蘇市で奇妙な映像が撮影された。まずは映像から抽出した「奇妙な部分」の写真をみていただきたい。

    カメラに映った黒い物体。
    小さな二足歩行様のものが、画面左側から右にむかって移動している。

     写真の左端部分に小さな黒い物体が確認できるだろうか。木の陰から唐突に現れたようなこの物体は、左上の方になめらかに移動して画面外へと消えていく。その間、録画時間にしておよそ3秒。
     一見なにか動物だろうとも思えるが、映像を繰り返し見ているとその奇妙な点が目についてくる。物体が二足歩行のような動きをしているように見えないだろうか。

     映像がおさめられたのは、阿蘇神宮にほど近い、とある会社事務所の玄関にとりつけられた防犯カメラだ。事務所を訪れた人や車が映った映像もあるため、それらと比較すると物体のサイズ(身長)はおおむね50センチ前後だろうと推測できる。

    (上)防犯カメラの全景。昼間の映像(下)と比べると、物体のサイズがそれほど大きくないことがよくわかる。

     また、このカメラは動くものがあると自動的に録画が開始されるという仕様。つまりこの黒いものが、録画機能を作動させる実体のあるものだということもわかる。二本足で素早く移動する、50センチ程度のなにか。それはいったい何なのか。

    「霊的なものではない」ーーヤマワロか?

     この映像の提供者は、怪談・オカルト系YouTubeチャンネル「ナナフシギチャンネル」配信者でもある、お笑いコンビ・ナナフシギの大赤見ノヴさんだ。
     映像はノヴさんの知人の会社で撮影されたもので、霊感の持ち主としても知られるノヴさんがみても霊的なものは感じられず、黒いモノはやはり肉体のある生き物だとの印象を受けるという。また映像は2022年の8月18日深夜4時ごろに撮られたもので、事実として確実なことは、撮影場所と撮影時間の2点ということになる。

     ここからどんなことが考えられるだろうか。
     まず、阿蘇市という場所に注目してみたい。妖怪愛好家にしてwebムーでも「妖怪補遺々々」を連載する作家の黒史郎氏によると、阿蘇地域を含む九州一帯には古くから「ヤマワロ」という妖怪の伝承があるという。
     ヤマワロは漢字で書くと「山童」で、人間の子どもほどの大きさで、全身に毛が生えた猿のような姿をした妖怪だといわれる。彼らは春になると集団で山を降りて川に移動し、秋になると再び山に戻るというサイクルを繰り返す。川にいるときは「川太郎」「川童」などと呼ばれ、つまりヤマワロとは河童が山中の生活に適応したときの姿だとされているのだ。

     大赤見さんによると、カメラの向きから考えて黒いモノの進んでいった方向には山と田んぼしかなく、状況的にも山に向かっていったのだと考えられるという。

     仮にあの正体がヤマワロだったとして、映像が撮られたのは8月18日。
    「秋」というにはやや早い。しかしヤマワロにはもうひとつ興味深い考察がある。彼らが秋に山に入るのは、ヤマワロが「田の神」的な性格を持っているからだとされることがあるのだ。
     田の神は春になると山から降りて里に実りをもたらし、秋、稲の収穫が終わると山に帰るとされる神。温暖な九州とはいえ8月中旬では収穫最盛期には早いが、早稲の品種ならばちょうど稲刈りが始まる時期でもある。
     あわせて「ヤマワロは山と川をいききするとき、集団で移動するもの」という伝承を考えれば、あれは少々気の早い個体が1匹でフライング気味に山入りしてしまったものだ、と考えることもできるのではないだろうか。
     ヤマワロの集団は「通り筋」と呼ばれる特定の道を通って山入りするとされ、そのルート上に家を建てるのは忌まれるのだが、たまたませっかちな〝はぐれヤマワロ〟が歩いた1匹だけの通り道だとすれば、さほど不安もなさそうだ。
     田植えシーズンとなる4月〜5月ごろ、まさに本誌が発売される時期にかけて注意深くカメラの映像を観察すれば、今度は同じルートを逆向きに進む黒いモノの姿を押さえることができるかもしれない。
     続報に期待したい。

    『和漢三才図会』に描かれた「ヤマワロ」。全身毛むくじゃらのサルのような姿だ(画像=国会図書館デジタルコレクション)。
    『水虎考略』に記載された、熊本の川太郎の図。長七寸(20センチ強)とあり、やはり小人といえるサイズだったようだ(国立公文書館蔵)。

    (「月刊ムー」2023年6月号より)

    鹿角崇彦

    古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。

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