バビロニア世界地図が示す「ノアの箱舟」の真実! なぜ世界各地の古代文明に洪水伝説が存在するのか?

文=仲田しんじ

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    旧約聖書の『創世記』で語られている大洪水物語のオリジナルは古代メソポタミアにあった! 紀元前7世紀にのさかのぼる「バビロニア世界地図」を解読すると、ノアの方舟が漂着した場所が示されているという。

    古代の粘土板が物語る洪水物語

     大英博物館に、聖書の歴史を覆す可能性がある手のひらサイズ(高さ12.2cm、幅8.2cm)の粘土板が展示されている。それは、現在のイラク中部で発掘された紀元前7世紀の粘土板「イマゴ・ムンディ(Imago Mundi)」である。

    「バビロニア世界地図」 画像は「Wikipedia」より

     長年、専門家たちは「イマゴ・ムンディ」に刻まれているのは単なる象徴的図形だと考えていた。ところが昨今、大英博物館のキュレーターであるアーヴィング・フィンケル氏とエディス・ホースリー氏の研究によって、古代メソポタミアの地図であることが判明。改めて「バビロニア世界地図」と呼ばれることになった。

     この「バビロニア世界地図」によれば、古代都市バビロンを取り囲んでいる大海の向こうには8つの土地がある。そのうち(現在のトルコ東部とアルメニアにまたがる)ウラルトゥと呼ばれる地域にあるアララト山の麓は、巨大な方舟「ウトナピシュティム」の安息の地だという。

     実は、バビロニア神話で伝わる「ウトナピシュティム」と大洪水の物語は、旧約聖書「ノアの方舟」の原型と考えられている。つまり、旧約聖書にあるノアの方舟が漂着した場所こそ、アララト山の麓だった可能性が高いというのだ。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    現在の黒海で大洪水が起きていた!?

     もっとも、ムーが何度もお伝えしてきた通り、ノアの箱舟とアララト山麓の関係については以前から噂されており、多くの人々が現地を探索してきた経緯がある。

    「ドゥルピナール地層」 YouTubeチャンネル「Universe Inside You」より

     1959年には、トルコの航空機パイロットが上空から大きな船の残骸のように見える「ドゥルピナール地層」を発見。それは聖書の記述通り、約300メートルの巨大な船型の輪郭線を描いていた。現場を調べてみると、金属の“刻印”や奇妙な“錨石”、そして石化した船の骨組みのように見える構造まで発見され、遂に方舟が発見されたと一部の人々は沸き立った。しかし、懐疑論者は地質学的錯覚だと指摘しており議論は続いているが、その形状は今でも確認できる。

    「アララト・アノマリー」 画像は「Wikipedia」より

     また1949年には、偵察任務中の米空軍機がアララト山の西側でノアの方舟の残骸にように見える「アララト・アノマリー」を撮影している。氷の下に現れた暗い長方形の影は、今もなお方舟を探す人々にとってのモチベーションとなっている。

     果たして、古代メソポタミアと旧約聖書に共通する大洪水は神話上の物語にすぎないのか、それとも本当に起きた出来事だったのか――?

     2000年に米コロンビア大学の地質学者、ウォルター・ピットマン氏とウィリアム・ライアン氏が、黒海の一部がかつて陸地であったことを発見した。黒海の海底のサンプルを調べたところ、淡水にしかいない貝の殻が見つかり、それは海水の貝よりも古い年代であることが突き止められたのだ。これは現在の黒海の一部がかつては淡水湖であり、その周囲は陸地であったことを示唆していた。

     つまり、地中海の海水が現在のボスポラス海峡を突然突破し、この地の文明全体を一夜にして消滅させる大洪水を起こした可能性が高まってきたのだ。ピットマン氏とライアン氏によれば、およそ1万年前の最終氷河期の終わりに、北半球の氷床が溶け始めて海水面が上昇し、海水が当時陸地であった現在のボスポラス海峡を越えて流入する大洪水が起きたはずだという。しかも試算によれば、それはナイアガラの滝の200倍もの勢いだったと考えられるそうだ。

     また、かの有名なタイタニック号を海底から発見したロバート・バラード氏も黒海を調査し、埋もれた古代の村の遺跡と、同じく淡水産の貝殻を発見した。彼はこれを突然訪れた壊滅的な大洪水の証だと評している。

     さらに興味深いことに、大洪水の伝説はバビロニア神話と旧約聖書だけではないことも最近になってわかってきている。中国(2016年)、南米(2020年)、インド(2023年)と、ほぼすべての古代文明で大洪水と巨大な船に乗った孤独な生存者のストーリーが伝えられていることが判明したのである。これらはすべて偶然なのか、それとも遠い昔の忘れられた歴史的事実なのか。

     もしかすると1万年前の海水面上昇で、黒海以外でも世界各地で大洪水が起きていたのかもしれない。伝説が史実であることが判明した事例は多いだけに、考古学研究のさらなる進展に期待したい。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Universe Inside You」より

    【参考】
    https://greekreporter.com/2025/10/12/world-oldest-babylonian-map-solved/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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