なぜ科学者たちは呪術に引かれるのか? 科学のダークサイドに堕ちる研究者心理の闇
最初の着眼点は科学なのに、いつの間にか話が疑似科学になってしまう――古今東西、ダークサイドに落ちてしまった科学者たちの実例を解説!
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、戦後間もないころ、謎の人物が持っていた巻物からその存在が明らかになった、日本の超古代文明を取りあげる。
古代エジプト文明やメソポタミア文明など、現在世界最古と考えられている文明よりも遙かに昔、もはや記録にさえ残らない時代に、現代科学とは異質の原理に基づく超古代文明が栄えていたという説がある。
プラトンが著書に記したアトランティスや、ジェームズ・チャーチワードがその存在を主張したムーなどで栄えた文明がその代表例だが、古代の日本にも、そうした超古代文明が存在したと唱える者がいる。楢崎皐月(1899〜1974)が主張する、いわゆる「カタカムナ文明」もそのひとつである。
楢崎は山口県東萩に丹野軍治の子として生まれ、北海道の札幌で育った。母方の祖父は元長州藩士で、長野県礼や大阪控訴院検察官、裁判官を務めた楢崎寛直(1841〜1895)で、この楢崎家に子がなかったため、養子に入って楢崎姓を名乗るようになる。
中学卒業後は上京し、働きながら専門学校に学ぶと、20代で特殊絶縁油を開発し、その後は日本石油と契約を結んで自分の研究所を運営した。
当時の楢崎の活動は陸軍中将石原莞爾(1889〜1949)にも注目され、陸軍省の依頼により、群馬県相馬郡での人造石油の研究とその事業化にも関わった。その後、昭和18(1943)年には満州に渡り、吉林市江北区にあった陸軍製鉄技術試験場で働いた。
じつはこの製鉄技術試験場では、密かに原子力の研究も行われていたという噂もあるのだが、楢崎はここで製鉄技術の開発に従事していたようだ。そんなとき、楢崎は奇妙な現象に気づいた。
試験場ではいくつもの実験炉をさまざまな場所に設置して製鉄を行っていたのだが、同じ原材料を使い、同じような炉を用いて同じ方法で製造しているのに、ある場所の炉は優良な鉄を製造できるのに対し、他の場所に置いた炉では不良品しかできないのだ。
この原因を考えあぐねていた楢崎はある日、優良な製品を製造する炉は樹木が青々と茂った場所にあるのに対し、不良品の炉は荒れ地に設置されていることに気づいた。
このような植物や農作物のよく育つ場所と不毛な荒れ地となる場所は、網の目のようなパターンで分布しており、楢崎はその原因をその場所の電気的特性、いわゆる「大地電気」に関係するのではないかと考えた。
そこで楢崎は、終戦後は各地で大地電気の測定に飛び回り、昭和24(1949)年12月から翌年3月にかけては、金鳥山の狐塚と呼ばれる塚の近くに穴を掘って中に籠もり、大地電気の測定を行っていた。
そんなある日、ひとりの猟師姿の老人が姿を見せた。老人は怒った様子で、「泉に妙なものを仕かけるから、森の動物たちが水が飲めなくて困っている。すぐに取り除け」と苦情を述べながらも、手土産に獲りたてのウサギをくれた。
男のいう妙なものとは、楢崎が設置した電力測定装置であった。楢崎がただちにこれを除去すると、男は次の夜再び現れ、今度は上機嫌で古い巻物を見せてくれた。
このとき男は、自分は平十字という者で、父はカタカムナ神社の宮司であると告げた。巻物は父祖代々、「カタカムナの神の御神体」として伝わったものだという。
巻物には、主に丸と十字で構成された奇妙な図像が渦巻き状に記されていた。これを見た楢崎の脳裏に、満州時代、製鉄試験所近くの道院にいた蘆有三という道士から聞いた話を思いだした。
蘆有三によれば、太古の日本にアシヤ族という高度な文明を持つ種族が存在し、「八鏡の文字」と呼ばれる文字を創り、特殊な鉄をはじめ、さまざまな生活技法を開発していたというのだ。
楢崎は、平十字の巻物に書かれた奇妙な図像こそ八鏡の文字だと直感し、内容を筆写させてくれないかと平十字に頼んだ。平十字はこれを了承し、楢崎が巻物を写し終えるまで20夜続けてやってきた。この楢崎が書き写した文書こそ、『カタカムナノウタヒ』、あるいは『カタカムナ文献』と呼ばれるものである。
平十字によれば昔、カタカムナの神を祀る一族のアシアトウアンという人物が、現在の天皇家の祖先である天孫族と戦って敗れ、九州で死んだが、このアシアトウアンこそが巻物を書写した人物だという。
山を下りた楢崎は、苦心の末この文書の内容を解読し、それが超古代文明における科学技術の成果を歌の形で解説したものであることをつきとめた。
楢崎は文書解読後、あらためて平十字に会うべく六甲山系を探したが、見つかったのは狐の足跡ばかりで、二度と会うことはできなかったという。
この『カタカムナノウタヒ』を解読して楢崎が発見した超古代文明が「カタカムナ文明」である。この独自の文明は、10万年前から数万年前まで日本列島に住んでいた「カタカムナ人」と呼ばれる人類が伝えていたもので、「カタカムナ」とは、この文明の根拠となる特殊な原理のことである。
楢崎の教えを継承した相似象学会によれば、カタカムナとは、日本上古代民族の〈サトリ〉であり、宇宙のあらゆる現象事象を発現させている、目に見えぬ「潜象」の存在を「直観」した物理であり、その内容を歌の形で記したものが『カタカムナノウタヒ』なのである。
カタカムナ人たちはこの特殊な原理に基づき、時間と空間が連続しているという一般相対性理論や、素粒子が粒子と波の双方の性質を持っているという量子力学の考えまで理解しており、さらには「ミトロカエシ」と呼ぶ元素転換の方法まで知っていたらしい。
さらにこのカタカムナの技術を用いれば、核兵器を無力化する反電磁場や、人間と同じものを食べて動くロボット、あらゆる廃棄物を元素還元して再利用するゴミ処理施設、苦痛を与えずに無尽蔵の肉がとれる植物化した家畜なども生みだすことができるという。
蘆有三が八鏡の文字と呼んだ、丸と十字から構成される文字は「カミツ文字」、あるいは「カタカムナ文字」とも呼ばれており、イロハ48文字に対応するが、その構成要素は、16進法の数字に置き換えることができることから、超古代文明のコンピュータで用いていたプログラム言語だったという説もある。
楢崎が満州時代に気づいた、植物が実る場所と荒れ地の関係についても、カタカムナの原理で説明されていた。
カタカムナ文明では、土地に植えられた農作物の成長や住む人の健康に良い影響を与える「イヤシロチ」と、その正反対の作用を持つ「ケガレチ」なるものが想定されており、こうしたケガレチをイヤシロチに変える方法もあった。
そこで楢崎はケガレチをイヤシロチに変え、農薬・化学肥料を使わずに安定した収量を得られる「植物細胞電位変動波農法」、略して「植物波農法」を開発、さらには「人体波健康法」と呼ぶ独特の医療技術も考案した。
こうしたカタカムナの秘密の技術については、当初楢崎によって、その死後は弟子の宇野多美恵(1917〜2006)率いる相似象学会機関誌『相似象』によって順次公表されてきたが、2006年、宇野が軽井沢の別荘の火事で焼死して相事象学会は活動を停止、以後関連情報の公開は途絶えている。この別荘に保管してあった関係資料も、すべて消失したらしい。
もっともカタカムナ文明の存在については、楢崎自身や相似象学会の資料以外に確認できないのも事実だ。しかも『相似象』には、生前楢崎が言及していなかった内容も多く記されており、これが本当に楢崎から伝わったものかどうかも確認できない。
また楢崎によれば、カタカムナ文明は10万年前から日本で栄えていたというが、今のところこの時代の日本列島に人類が居住していた痕跡は確認されていない。
さらにカタカムナ文字はイロハ48文字に対応するが、数万年前の、縄文人や弥生人とも違う人種が、現代人と同じ音節を用いていたということは言語学的には考えにくく、現在の歴史学界では、漢字渡来以前の日本に固有の文字が存在したことも認められていない。
そして楢崎の語るいくつかの固有名詞の中にも、この話が創作ではないかと疑わせるものが散りばめられていることも確かだ。
たとえば、かつて『カタカムナノウタヒ』を書写したアシアトウアンという人物名は、平安時代の陰陽師・蘆屋道満とよく似ているし、楢崎が籠もっていた穴の近くにあった狐塚は、この道満の墓ともいわれている。
あるいは、楢崎は金鳥山で何らかの幻視体験をしたのかもしれない。
実際、楢崎自身も晩年、「あれは現実だったのか幻だったのか今でもわからなくなるときがある……あの平十字さんというのはキツネだったかもしれんよ」と述懐したことがあるという。
ともあれ、21世紀になってもカタカムナという言葉は存続し、さらなる発展と進化を続けているようだ。最近では『カタカムナノウタヒ』、あるいはカタカムナ文字それ自体がカタカムナと呼ばれる傾向も見られる。
それぞれの文字には言霊が宿るとして、『カタカムナノウタヒ』を音読すると病気が治るという者もいる。カタカムナの名を冠した健康グッズも、何種類も販売されているそうだ。
謎めいた文字と隠された古代の叡智。現代人はその神秘性に感性を刺激され、時代を経てもなお惹かれつづけるのかもしれない。
●参考資料=『謎のカタカムナ文明』(阿基米徳著/徳間書店)、『相似象』第3号(相似象学会)、『日本トンデモ人物伝』(原田実著/文芸社)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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