大ウナギや本家ネッシーと共演する池田湖のアイドル「イッシー」の根強い人気/山下メロ・平成UMAみやげ
日本全国の湖を賑わせたネッシー型UMAのひとつ、「イッシー」の姿を平成みやげから読む! 「ファンシー絵みやげ」研究家の山下メロが、平成を彩った”UMAみやげ”の世界をご案内。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、巨大な怪生物が棲むという伝説のある鹿児島県の池田湖で、多くの目撃報告が相次いだ水棲UMAを取りあげる。
未確認動物UMAについては、日本国内からも数多くの報告が寄せられている。
謎の怪蛇ツチノコは、北は青森県から南は鹿児島県まで、各地に目撃談がある。ヒバゴンは1970年代から80年代初頭にかけて、広島県の比婆郡西城町(現在は庄原市)を中心に目撃された、全身毛に覆われて人間のように二本足で歩くUMAである。
公式には絶滅したとされているニホンオオカミも、近年まで何件もの目撃例があり、四国の剣山や広島県の蛇円山には大蛇を見たという話も残る。
こうした数ある日本のUMAの中には、単に目撃されるだけでなく、何度も写真やビデオカメラに撮影された存在もある。それが、鹿児島県指宿市にある池田湖に棲む、通称「イッシー」と呼ばれるUMAである。
池田湖は鹿児島県の薩摩半島南東部にあり、周囲約15キロメートルの九州最大の湖である。水深は233メートルで、水底には火山の火口が存在することも確認されている。
そして、この池田湖には古くから奇妙な生物が棲むという伝説が伝わっている。たとえば江戸時代に薩摩藩が編纂した『三国名勝図会』によると、ある農夫が湖の近くを歩いていて、草むらに人間の頭を持ち、身体は龍のようなものが横たわっているのを見たという話が記されている。
農夫が短刀でその首のあたりに切りつけると、その生物は血を流して湖に逃げてしまったのだが、その晩、農夫は突然病で亡くなり、その妻が狂ったように「われはこの湖の龍王である。われを殺した報いとして子孫をことごとく絶やしてやる」といいだした。
そこで親族が「社を建てて罪を償う」と謝罪すると、龍王は怒りを静め、妻の狂気も収まったという。
また1942年発行の『薩摩半島・史跡名所写真帖』によれば、湖南地方のとある集落には、ときどき大きさが3尺もあるコイが、胴体の中央から切断されて打ち寄せられることがあるという。また雨のそぼ降る夕暮れになると、湖水の中央に畳10枚敷きくらいの島が突然現れることもあるとされる。
住民たちは、これは何千年もこの池に棲んでいる大ガニで、雨の夜になると甲羅を水面に現すのではないか、また大きなコイが胴体の真ん中から切断されているのは、このカニがハサミで切っているのではないかと噂したという。
さらに、池田湖で水死した人間の死体は、決して浮かびあがらないともいわれ、住民たちは、湖底の怪獣が死体を食べるからだと信じている。
長らく伝説的存在だった池田湖のUMAが認知され、全国的に知られるようになったのは、1978(昭和53)年9月3日の目撃がきっかけである。
この日の午後6時すぎ、当時11歳の川路洋人君と6歳年上の従兄、川路諭君が湖岸でキャッチボールをしていたとき、湖面に黒いコブ状の物体がふたつ浮かんでいるのが見えた。ふたりはすぐに洋人君の自宅に駆け込み、「池の主が出た」と知らせた。
川路家ではちょうど、親類縁者20人ほどが法事のために集まっており、外に飛びだした大人たちも、長さがそれぞれ5メートル、高さ40〜50センチのふたつのコブが5メートルくらいの間隔で浮かんでおり、湖面を400〜500メートルほど進んで水中に没するのを見た。
同じころ、少し離れた別の湖岸でも、5人の高校生が湖面に異様な物体を目撃している。
この事件はすぐに地元の噂となり、じつは自分も目撃したことがあるという人物が次々と名乗りをあげた。その数は200人以上といわれている。
その年の10月4日にも、農協職員など数人が湖面にコブのようなものを目撃したこともあって、怪物の存在は日本全土に知られるようになり、いつしかイッシーと呼ばれるようになった。
イッシーは体長20〜30メートルくらい。背中にふたつの黒いコブ、あるいは背びれのような突起がある。クジラのような尾ヒレを見たという証言もあるが、頭部は確認されていない。ただ、現在湖畔に設置されているふたつのイッシー像はいずれも、クビナガリュウのような形で造型されている。
事件をきっかけに、地元の指宿観光協会はさっそく「イッシー対策特別委員会」を設置、湖畔の展望台に無人のカメラをすえつけて24時間体制で監視するとともに、イッシーの写真を撮影した人物に10万円の賞金を提供することにした。
そして、早くも同年の12月16日、鹿児島市の自営業、松原寿昭氏が、イッシーの姿を写真に収めた。松原氏は以前から池田湖の伝説に興味を持っており、12月14日から16日にかけて撮影のため池田湖を訪れたのだ。
最初の2日は何も現れなかったが、最終日の16日午後1時半ごろ、湖の中央付近が突然、渦を巻きはじめた。しかし、渦はすぐに消えてしまった。
その後、湖岸近くの夫婦岩付近にカメラを向けてピントを合わせていたところ、カメラのファインダー一杯に、白いものに包まれたかのような物体が広がった。それが急に沈みはじめたため、急いでカメラのシャッターを切った。
後日現像した写真には、得体の知れない物体が沈もうとする一瞬が捉えられていた。しかも物体の中央付近には、3つの黒い帯状のものも写っていた。
指宿観光課はこの写真を鑑定し、検討の結果、イッシーの体の一部であるとして、松原氏に賞金10万円を贈った。
写真は後日、アメリカのUFO研究団体GSWに送られ、詳しい分析が行われた。GSWは現在は活動を停止しているが、当時はUFO写真のコンピューター分析で知られていた。GSWはこの写真をさまざまな手法で分析し、偽造されたものではないと判断したが、残念ながら物体の細部までは識別できなかった。
1979(昭和54)年5月9日から15日にかけては、テレビ東京が番組製作を兼ねた「イッシー探査」を実施した。
このときは、魚群探知機が水深10メートルのあたりに、長さ3メートル以上はあるふたつの物体をキャッチした。また5月14日には、夫婦岩から沖へ約400メートルのところで、船上から水深30メートル付近に水中スピーカーを下ろしていたところ、湖底から激しい振動が伝わってきたという。
その後しばらく目撃報告が途絶えていたイッシーであるが、1990(平成2)年10月21日には、その姿がビデオカメラで撮影された。
撮影したのは、鹿児島県串木野在住の河野和夫氏で、母親とともに展望台から池田湖の湖面を見下ろしていたところ、コブのような黒いものが連なって移動していくのが見えたという。
さらに1991(平成3)年1月4日にも、福岡市で飲食店を経営する富安秀明氏の長男・隆志君が、波間を左から右へ移動する物体をビデオカメラに収めた。このときは、右から左へ移動する別の物体も現れ、ふたつの怪物体は一体化するように接近し、そのまま右に移動して、数秒後に沈んでいったという。
この映像が2月2日にテレビで放映されたこともあり、翌日から湖畔には大勢の人々が詰めかけた。その後、目撃証言は多いときで日に10件から20件に達し、ビデオの映像も次々と寄せられ、写真も相次いで撮影された。
指宿市役所は13年ぶりでイッシー対策本部を復活させ、イッシーに特別名誉市民の称号を与えた。また、地元の青年グループが「イッシー特捜隊」を組織して、捜索に乗りだした。
しかし、1993(平成5)年10月25日に8ミリビデオで撮影されて以来、イッシーの目撃はほとんどなくなり、2007(平成19)年5月17日に4つの突起物が湖面で目撃されたのを最後に、イッシーの出現は途絶えている。
とはいえ、これほど大勢の目撃者がおり、しかも数多くの写真やビデオ映像が残るイッシーである。池田湖に何かが潜んでいることは確かだろう。
ただ、これが生物だとすると不思議なことがある。池田湖は、約6400年前に起きた一連の噴火によって陥没した場所に、雨水が溜まってできたカルデラ湖で、池田湖に流れ込む河川はない。
現在、池田湖には体長2メートルにも達するオオウナギやワカサギ、スッポン、ナマズ、コイなど多様な魚類が棲息しているが、それらはいずれも人為的に放流された生物だ。こうした魚類は、生物学上20メートルもの大きさに成長することは考えられない。
それでも地元では、イッシーの正体はオオウナギという説が有力らしい。実際、20メートルものオオウナギを見たという証言もいくつかあるのだ。
たとえば、イッシー騒動が起こる3年前の1975(昭和50)年、指宿スカイラインから湖に通じる湖岸道路脇で休息していた猪倉マツさんは、湖面に非常に長い生物が浮かんでいるのを目撃した。
この話を聞いた猪倉さんの親類、小浜為吉氏は、1943(昭和18)年の秋、友人たちと池田湖でボートに乗っているとき、頭がドラム缶ほどの大きさで、体長20メートルはあるオオウナギに遭遇したと名乗りでた。
また、あるとき湖底調査のため潜ったダイバーふたりが、大口をあけて牙をむき出し、襲いかかってくる生物に遭遇したという話も伝わっている。
だが、ウナギに牙はないし、ウナギのような魚類は水面を泳ぐとき、水平方向に蛇行するような動きをするのに対し、イッシーの目撃例ではこのような動きは報告されていない。だとすると、猪倉マツさんらが見たものは、ウナギに似てはいるが種類の異なる生物という可能性がある。それが何なのか、どのようにして池田湖に棲みついたのかは謎だが、この生物こそイッシーの正体なのかもしれない。
そのイッシーも、なりをひそめてかなりの期間が経過しているが、指宿市では今も「イッシーバス」という愛称で呼ばれているコミュニティバスが運行されている。また、駐車場にイッシー像を設置している湖畔のドライブイン池田湖パラダイスでは、漫画家の手塚治虫や松本零士が描いたイッシーのイラストも展示されている。
地元の“イッシー愛”はまだまだ健在なのだ。
●参考資料=『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎著/学研)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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