セブ島最大のパワースポット「シマラ教会」を徹底レポート! マリア愛がほとばしる未完の巨大施設/小嶋独観
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珍スポ巡って25年の古参マニアによる全国屈指の“奇祭”紹介! 今回は奈良県のオンダ祭りをレポート! 見た目は怖いが幸せをもたらす呪(まじない)物とは――!?
きっかけは大阪の国立民族学博物館で見た一体の人形だった。
世界中の奇天烈な民俗神をコレクションしている民博の中でもトップクラスに強烈なこの神様、キャプションを見れば「若宮 奈良県大宇陀」とある。
それにしてもこの異様な姿はどうだろう。真っ黒い翁の面、麻布で覆われた身体、そして何よりも目を引くのは全身のあちこちを縛っている無数の紐。本当に日本の神様なのか? なんだこのチマキの親分みたいな神様は? 迫力あり過ぎじゃないか!
……調べてみると、奈良県宇陀市大宇陀の平尾水分神社のオンダ祭りに登場する若宮さんという神様なのだという。
一気に言ってしまったが、色々と説明が必要であろう。まず、大宇陀の場所は各々調べていただくとして、水分神社って何だ? というハナシになろうかと思う。水分と書いて「みくまり」と読む。この神社は大阪や奈良の一部にしか存在しない珍しい神社なのだが、主に水の分配を司る神を祭神としている。米作農家にとって水の分配はコメの出来高など暮らしに直結する重要な案件だ。かつては日本中で用水の分配をめぐり様々な揉め事が起きたり、場合によっては村ぐるみの大騒動にまで発展したという。それだけ米作農家にとっては大事なのだ。なので、水分神社は主に米作が盛んな地域に設けられることが多い。
次にオンダ祭りだが、これは御田祭りとも表記されることもあるように日本全国で行われている田植え祭りのひとつだ。1年で一番重要な農業行事である田植えを再現して、その年の豊作を祈願するものなのだ。
奈良でオンダ祭りといえば、人々の目の前で天狗とお多福が交わりはじめる明日香村の飛鳥坐神社の奇祭、おんだ祭りが有名だ。天狗とお多福の件ばかりが強調されるこの祭りだが、ちゃんと田おこしや田植えをするシーンもある。交わりはあくまでも五穀豊穣、子孫繁栄を表現したものだが、ヘンな取り上げられ方をされて奇祭扱となってしまったのだろう。
話を戻す。
そんな平尾水分神社の祭りに行ってみた。真冬の大宇陀は寒く、それ以上に街路灯もあまりないのでとにかく暗い。真っ暗な道を歩いて行くと神社が見えてきた。日が暮れて気温が下がり、空気が張り詰めて来た頃、祭りは始まる。
神前に設けられた舞台の上には、祭りを司る大当とそのサポート役の小当、そして後るに座るのは5人の子供たち、彼らはショトメ(早乙女の意)と呼ばれる。
最初に大当が鍬を打つ仕草をする。これは田おこしを意味しているのだろう。それと同時に、唄のような祝詞のような不思議な節回しの口上を述べる。
やや高いトーンの口上に対して、舞台を囲むように立っている氏子の人々が合いの手を入れる。ゆっくりしたペースではあるが、まるでライブのコール&レスポンスのようで見ていて面白い。しかも時々、合いの手の方々が変な調子で返したりアドリブを入れたりして、周囲の笑いを誘っている。
調べてみると、どうもこの周辺のオンダ祭りは農耕行事を再現しつつ、笑いを交えるのが特徴のようだ。例えば他の神社のオンダ祭りでは、ヒシャクで肥やしを撒く作業をする時にフェイントを入れて観客の方に撒こうとしたりして場を盛り上げる。先程述べた飛鳥坐神社の件も、そういった観衆を楽しませるアトラクションの一環だったのだろう。この地域のオンダ祭りの本質のようなものがこういう部分に見え隠れしているように思える。冬が明けて春が近づいてきて米作りが始まる。基本的にみんな嬉しいのだ。
口上は延々と続く。中でも「良い事は此処へ~、悪い事は西の海へ~」というフレーズが何度か繰り返され、印象的だった。
次に大当が米を撒いた。
見上げれば真上には雲の間から月が顔を出していた。何とも神秘的な光景だった。
7人がおもむろに立ち上がり、鍬を持った大当を先頭にグルグル回り始めた。そろそろ田植えの舞もフィナーレっぽい。
時々笑いもあったが、全体的には静かで厳かな雰囲気の舞であった。
――とその時、社務所のような建物の中から小当を務めていた人が「何か」を抱えて出てきた。
おおお、いよいよ若宮さんのお出ましか! 抱えられた若宮さんは手足をだらんと垂らし、抱えられてきた。やはりその姿は奇妙奇天烈なものだった。
「よ〜のなかがよければ〜 わかみやさんがまいられた〜 」という唄と共にその姿を表した。
何という姿だろう。全身を紐で縛られており、心なしか面の表情も苦痛に満ちた感じだ。
何かを封じているのだろうか、黒魔術の呪術に使う人形みたいだ。
まな板のような台に横たわった若宮さん、一体何が始まるのかと思ったら、いつの間にか行列ができているではないか!
見れば皆さん「足」とか「腰」とか「目!」などと言っている。
これは参拝者が身体の悪い部分に縛られている紙紐を持ち帰ると病気が治るというシステムらしい。
先程まで静々と舞っていたショトメの子たちも我先にと若宮さんの紙紐を貰っていた。
ほぼ全員が「足!」と言っていた。足が速くなりたいとかサッカーが上手くなりたいとかそんな感じでした。子供っぽくて大変結構じゃないですか。
折角なので私も並んでみた。大当さんが「どこにしましょう?」と聞かれたので即「肝臓でっ!」と。
ではこの辺で、と腰回りの紙紐を頂いた。よし、これで肝機能アップだぜ。
こうして希望者に大方紙紐が行き渡ると若宮さんの退場である。
再び抱えられながら社務所に入っていき、箱に納められた。
今年の出番はこれでお終いである。お疲れ様でした。
そんなわけで祭りも終了である。それにしても若宮さんのビジュアルの破壊力は半端なかった。しかも見た目、完全に黒魔術チックなのに人々の病を治す善き神様だったとは意外だった。
いま、世間では呪物がブームである。しかし恐ろしい呪物だけでなく、ここの若宮さんのように人に幸せをもたらす呪(まじない)物も沢山あるのだ。見た目は怖いけど。
「のろい」と「まじない」。同じ字だが随分印象は違う。でも一見相反する概念だが、人々の現世的な欲望を叶えるデバイスとしては案外同じ抽斗に入っているものなのかもしない。だから同じ字が充てられているのだろう。
小嶋独観
ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
珍寺大道場 http://chindera.com/
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