目からビーム、ときどき火を噴く! 江戸怪奇実録本「荒木家妖怪絵巻」のUMAを愛でる(後編)

文=BeːinG(びいいんぐ)かわかみなおこ

    昨夏放送のお宝鑑定番組で大注目された、みんな大好き(?)荒木家所蔵の妖怪絵巻。そこには、妖怪というよりもUMAでは……?と思われるような、あまりに具体的な目撃談が多数記されていた!

    大注目の「妖怪絵巻」はUMA目撃情報の宝庫だった?

     2023年夏放送の某お宝鑑定番組にて注目された、荒木家所蔵の妖怪絵巻。2024年3月号のムー本誌でも特集されるとのことで、読むのが今から楽しみだ。

     さて、こちらの絵巻の特徴は、あまりに具体的な目撃談がまとめられている点。その具体性に、眺めているうちにこれは妖怪というよりもUMAでは……?という思いが湧きあがった。

     前編、はおまりこ担当回に続いて、かわかみが担当する今回は、40種以上いる妖怪たちから、とりわけユニークだと思ったお気に入りUMAたちをご紹介。凶悪なヤツから可愛い子まで、目にも楽しい魅力的な異形たちをお楽しみあれ。

    目からビームで村を燃やすひとつ目毛むくじゃら」のUMA

     寛政3年(1791年)の夏、相模国淘綾郡(現在の神奈川県大磯付近)にある村で星が光ると、不審な火災が起こることがあった。この星は山や野で光るのが目撃され、丑の刻に赤く強く光ると、たちまち何里も離れた村がひとつ燃えてしまった。このような火事が、この年の5月中旬から6月中旬までみられた。
     6月中旬、伊豆国三浦郡の藤井村というところに古森丹下という武士がいた。この星を見定めようと光のあるところに行ってみると、そこにいたのは星ではなく目の光る異獣だった。丹下が木に登って異獣の足をとらえ力任せに投げつけると、異獣は目を光らせ苦しそうに這いずり回る。するとあたりの小笹が焼けた。丹下は少しも恐れずに化物の上に飛びついて取り押さえて生け捕った。人に見せようと目の下をしっかりと握ると目から光を出せなくなり、ついに異獣は死んだ。その異獣は、丹下の家でミイラとして伝わっていると、光林寺の僧が聖福寺で語った。

     星だと思った光が、なんと目からビームを出して村を燃やす化物だった……。相当危険な存在だと思わせる、強烈なエピソードだ。人が引きずり下ろして捕まえられるというところで、大きさはおそらく人間くらいだろうか。その大きさに対して村をひとつ燃やすというエネルギーは大変なものだ。

     毛むくじゃらの身体で、ピンポン玉のようなひとつ目がぬっと長く伸びている。その下を掴むと光を出せなくなって死ぬということは、丑三つ時にエネルギーを吐き出さないといけなかったのだろうか。無差別に村を燃やす凶暴性と、深夜に活動するという特徴。類似するUMAの存在をご存知の方がいたらぜひ教えてください!

    古墳を守るヌシか?大きな黒い怪物

     但馬国出岩近くの岩村という里のそばに、中央に古墳のようなものがある広野があった。いつ作られたかわからない古墳だった。村人が4、5人で草刈りに行くと、その古墳の後ろからざわざわという音がして、化物が這い出してきた。
     長さは4、5尺(1.5メートル前後)、色は真っ黒で腹の色が白く、太くて長い4本足が生えている。前足は二股に分かれており、鳴き声は牛のようだ。怒っているような目をしており、飛びかかってきそうな様子だったので、村人は肝を冷やして逃げようとした。しかし足はしびれて腰が抜け、立ちあがることができなかった。
     ところが化物は人を襲おうともせず、虫をとって食べているだけだった。村人の目の前にきても、特に何もせずそのまま山に入っていった。村人たちは正気に戻り、家に帰ってからこの姿を描いた。それを伝えた同国のむさ要介という役人が持っていたものを写した。

     虫の節ような手足を持った珍妙なフォルム。この絵巻の中でも群を抜いてユニークな姿を持つ大きな黒い化物だ。特徴的な二股に別れた足は、鎌のようにも蹄のようにも見え、あまり他に例がない描き方に見える。目つきが悪かったのか、怒っているかと思ったら実際はおとなしかったようで目撃者は肝を冷やしているのが滑稽だ。

     絵巻では「出岩」という地名だがおそらく「出石」のことではないだろうか。この辺りには確かに古墳が多く存在するようだし、もっと後の時代のことはあるが、近くに隕石が落ちた場所もある。墓とUFOは切っても切れない関係性なので、もしかするとこの化物は宇宙人から派遣された番犬のような存在だったりして……などと考えるのであった。

    食べられるUMA 「チョコサイ〜小さくて可愛い危険なヤツ〜

     四国の海中に群れて生息する。八丈が島と松前で多くみられる。とても小さく愛らしい。四国では「チョコ」とよび、松前・八丈が島では「チョコサイ」という。
     串に刺して塩を降って食べるとスルメのようで、これを食べようと群れに泳いでいくと命を落とすことがあったという。昔、天明3年(1783年)、松前にチョコサイの群れを見つけて、食べるために捕まえようと船を漕いで行ってみたところ、人間に吸いついて襲っていた。
     伊予国宇摩郡名切村むさの蘇像という者が、筑前にきた際に絵を描いて話したことがある。珍しい名前だと尋ねれば、「私は今年68歳で死にそうになったことが3回ある。一度は播州播磨の沖で嵐にあって船が壊れたこと、一度は越後で雪の松から落ちかかって埋まったこと、もう一度は松前の小浜で泳いでいた時にチョコサイに刺され、体が腫れて治るのに1ヶ月かかったことの3回だ。この3回の危難を逃れたので、この名前をつけたのだという。今はチョコサイに刺されたとして、辛油をつければ立ち所に治るが、当時は妙薬も知らず何日も苦しんだ」といった。

     見た目が可愛くて話題になったチョコサイ。串刺しにされて美味しくいただかれるだけかと思ったら、群れに突っ込むと刺されて下手したら命を落とすというそれなりにデンジャラスな生き物だった。 小さいタコのような見た目はイイダコを思わせ、一番現実味がある。そういう意味でも最も観測される可能性の高いUMAとも言えよう。もしかすると、四国の海で泳いだらチョコサイの群れに出くわしてしまう日が来てしまうかも!? その時は辛油を忘れずに。

    お酒大好き鳥さん酒盗鳥

     伯耆国会見郡(現在の鳥取県米子周辺)松枝村の百姓で金次郎という、独身の男がいた。少しの耕作とさまざまな細工をしてお金を貯め、貸すなどして暮らしていた。妻を娶ることを友達が勧めても聞き入れなかったが、柔和な性格で、酒好きのため常に酒を絶やすことはなかった。
     ある時、近所の子供に留守を頼んで畑に行ったところ、程なくして留守番の子供が慌ただしく呼びにきた。何事かと尋ねれば、美しい鳥が家に入り込み、来るなと追いかけたんだけどこちらに向かってきたので恐ろしくて逃げ出してきた。窓からちょこっと覗くと、金次郎の酒を戸棚から引き摺り出していたのが見えたので、知らせに走ってきたという。
     金次郎は急いで帰宅しこっそりと入ると、袴を着た鳥がいた。追いかけると一度逃げたが、酒と徳利に執心したのか、一度戻って盗って飛び去った。金次郎は、棒を取りに行ったすきに酒を盗まれたのだった。珍しい変な鳥だという心持ちになった。酒を飲む鳥、すなわち酒盗鳥だ。
     この日、谷川の土手に酔って伏せっているのを遠くからみた人がいたという。鷲くらいの大きさで、見た目は美しいオシドリのようだと、同郡菰川村生まれの藤七というものが武蔵寺で話したのを描く。文政年間の頃だという。

     酒好きの独身男性の家に入り込んで酒と徳利を盗んでいった美しい鳥。絵にもある通り、羽はカラフルで見た目が美しいのに、最終的に土手で酔い潰れているところがこれまた愛しい。烏帽子のようなものを被っておめかしをしているあたり、オシドリの妖怪といったところだろうか。こちらは絵巻の中ではUMAというよりも妖怪らしさの強い存在だが、鳥の姿のままの妖怪は珍しいように思う。また、人に近い行動は知性の高さが伺える。いやしかし、酒好き同士なんだから仲良く酒盛りをしてほしいものだ。

    ぬいぐるみのような見た目で火を吹く不思議なUMA「天狸

     信州諏方の湖水に、捕らえられた「天狸」というものがいた。小賢しくて捕まえ難く、捕まえても人に噛みつくなどした。大きさは頭から尾まで8寸(25cmくらい)で丸く、背中が平らで腹は黒く、手足は一枚骨に板を貼ったようだ。鍋のような形で、同国の高遠の城主内藤殿の秘蔵の生き物だった。常に江戸のお屋敷のそばに置いていたが、安政4年(1857年)の火災で焼死したため、ある大名に35両で買い上げられた。
     珍しい獣で、月の前半は丘に上がって火を吹き、この間は雨に濡れることも嫌がる。後半は雨が降る時は前日から腹を上にして寝て、晴れになる時には背を下にして寝る。何日も雨が降ればこのように、晴れが続いてもこのように前述のように晴雨によって上を向いたり下を向いたりした。とても強くなんでも食べ、越後慮木川、上総鷹見川にいた。

    「よし、今お屋敷からメスを探して連れてきたものは、金子50両をやろう」と命じられ、45人が前述の2ヶ所に数日滞在して色々手を尽くしたが見つけることはできなかった。5人のうちの半蔵という者が、湯町で話していたのを描いた

     内藤氏とは、おそらく時代的には内藤頼寧(よりやす)と思われる。博学多彩だったというから、そういった珍しい生き物を抱えていたとしても自然だろう。この絵巻では、不思議な生き物を見せ物にしようとしたり、偉い人が捕まえて抱えるケースがいくつか書かれている。この天狸は、天気によって寝相が変わる可愛らしい動物だが、時期によって火を吹くというのはいささか危険で、火災の原因はこの子だったのではないのかと邪推してしまう。狐火ならぬ狸火か。(狸火は提灯火でもあるが)

     耳もなくギョロッとした目を持ち、手足は短い。モルモットあるいは狸のようであり、鍋のような丸みのある輪郭は、是非ぬいぐるみにしてほしい。商品化、待ってます。

    終わりに

     荒木家所蔵の妖怪絵巻に登場する異形の数々は、ご覧いただいた通り、とにかくビジュアルが強い。そのなかでも個性が強いと思った妖怪たちをピックアップした。江戸時代に描かれた妖怪は、キャラクター性やおかしみ、怖さを絵師たちの個性として表現されることも多くあったが、この絵巻では化物たちが妖怪ともいわれず、ただ実録として淡々と描かれているのが非常に興味深い。古墳の化物を始め、全く思いつかないような形状でありながら具体的な情報は「UMA」と呼ぶに相応しいのではないだろうか。この先も、この絵巻調査の動向から目が離せない。

    同人誌「BeːinG」には「荒木家妖怪絵巻」の全編が収録されている。
    絵巻の全貌を掲載!

    Be:inG(びいいんぐ)

    怪異とあそぶマガジン『BeːinG』びいいんぐ。はおまりこ、かわかみなおこの2人ユニットで、怪異・妖怪・怪談をテーマにZINEを編集制作している。

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