四国怪談「七人ミサキ」! 比江村と久礼に現場を追う/松原タニシ・田中俊行・恐怖新聞健太郎の怪談行脚

文=松原タニシ・田中俊行・恐怖新聞健太郎

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    事故物件住みます芸人・松原タニシと、オカルトコレクター田中俊行、そして高松で活動する怪談バンドマンの恐怖新聞健太郎——3人の異色ユニットが、行く先々での怪奇体験を公開する。 今回のメインテーマは四国怪談「七人ミサキ」取材2連発! 健太郎の涙、田中の腹にも、ドラマがある。

    2020年12月28日記事を再編集

    泣いた白塗り

    タニシ 事故物件住みます芸人・松原タニシです。
    田中 どうも、オカルトコレクター…………田中俊行です。
    健太郎 四国の怪談は俺が守る、恐怖新聞健太郎です。

    タニシ お、健太郎さん、やっぱり四国の怪談を守る気になったんですね。
    健太郎 はい。元々僕がバンドでよく出演させてもらってる高松TOONICEの店長・井川さんに「やってみなよ」って言われて始めた怪談だったんですが、今までは何となく「イベントが決まってるから怪談集めないと」って思ってたんです。でも先日のOKOWAで敗退してホテルに戻った時に、自分では気づいてなかったんですが鏡を見たら泣いてたんですね。

    田中 健太郎の涙!
    タニシ 白塗りの涙!

    涙はスコッティで拭いた。

    健太郎 それで、「あ、俺は今悔しいんだ」ということに気づきまして。このままじゃいかんなってことで、もっと自分から動いていかないとと思ったんです。
    タニシ なんじゃその熱いエピソード!
    田中 ついに健太郎さんに自我が芽生えた!
    健太郎 はい、28歳にしてようやく自我に目覚めました。

    冬になり、着こむことでキノコ度が増していくタニシ。

    比江村の「七人ミサキ」

    タニシ さて、今月は12月2日に高知、3日に高松、4日に広島で久しぶりにこの3人での怪談ツアーがありました。
    田中 久しぶりやったなぁ。ほんま1年ぶりくらいちゃう?
    タニシ 僕は初日の高知のイベント前にとある場所に行ってきたんですけど、やっぱり追いかけてしまうんですね、七人ミサキを。

    田中・健太郎 出た、七人ミサキ!

    タニシ 七人ミサキは以前の記事でも触れているんですが、まだまだいろんな七人ミサキがいるんですよね。(参考)(参考)
    田中 そうそう。七人ミサキの話だと吉良親実の話が有名やけど、俺はもう一つの有名な「比江村七人ミサキ」が気になるねんなぁ。
    健太郎 それはどんな話なんですか?
    田中 比江村七人ミサキは長宗我部元親に後継を巡って吉良親実とともに諫言した比江山親興のお話。
    親興は元親の叔父の息子。つまり従兄弟。元親の甥である吉良親実とは同族やね。比江山親興が元親に切腹を命じられた時、家来に耳打ちをして妻と5人の子供を新改村の長福寺へ逃して匿ってもらったんやけど、金に眼のくれた植田の百姓達の裏切りに遭って元親の追手に捕まって処刑されてしまったのが始まり。

    比江村七人ミサキの墓のある比江山神社で調査する田中。

    健太郎 比江山親興と合わせて7人ってことですか?
    田中 いや、比江山親興とは別で、妻子たちを匿ってた長福寺の住職を合わせて7人。
    実は妻子たち6人が処刑される時に、小さな末の女の子がお母さんの方を見て泣き続けてたんやけど、その時に匿ってたお寺の住職がやってきて「このうちに植田の者はおらんか、なんと云う人非人じゃ、こうして成敗をせられようとしておる者が、可哀そうじゃないか、この怨みはどうしても忘れんぞ」って言いながら目の前で切腹するねん。それと同時に泣いてた女の子の首を執行人が刎ねるという、壮絶な現場だったみたい。
    そしてその夜からその付近に火の玉が飛び出して、村人が道端で急死したり、発狂したりと、変なことが立て続けに起こり出した。特に「この恨み忘れんぞ」と住職が言った「植田の者」にその奇怪が多かったという。
    これがもう一つの有名な「比江村七人ミサキ」の話。なので、比江山親興の妻子たち6人と切腹した住職を合わせて七人ミサキ。
    高知県出身の作家・田中貢太郎が言うには、少年の時に恐れた七人ミサキは、この「比江村七人ミサキ」のことらしいわ。

    比江村七人ミサキの墓のある比江山神社。

    健太郎 へぇ——、そうなんですね。
    タニシ 追手が寺まで来たから寺で妻子らを自害させ、住職が自ら火を放ったあとに燃え盛る寺に身を投げたって書かれてるのもありますし、匿ったとされるお寺は長福寺だったり正福寺だったり勝福寺であったり、文献によって内容は若干違いますね。
    田中 とにかく逃げきれなかった妻子、幼い子供の死、農民の裏切り、住職の恨み節、また殺され方含めて壮絶、相当な呪いがかけられてるんじゃないかと。
    また、明治になってからも二人の男が、妻子らの墓地へ入って黒い蛇に追いかけられる話もあったり。

    カモンサマ

    タニシ 比江村七人ミサキの墓、去年の夏に行きましたよね。
    田中 そうそう。雰囲気凄かった。
    タニシ お墓があるのは香美市土佐山田町新改にある比江山神社。田んぼの隅に小さな神社があるんですけど、草が鬱蒼と茂ってました。なかなか訪れる人は少ないんでしょうか。だから余計に念のようなものが籠ってそうな感じはありましたね。
    田中 めちゃくちゃ強い蚊に刺された記憶あるわ。
    タニシ この地が「新改」という地で、元々は「蚊居田」という地名だったそうなので、地名にするくらい昔から蚊が居たんでしょうかねぇ。
    田中 そういえば「七人の怨霊はカモンサマの火玉としておそれられ」って看板に書かれてたけど、「カモンサマ」ってなんなんやろな……。
    タニシ なんなんでしょうね……。

    掃部介親興(かもんのすけちかおき)の世継ぎ問題に由来する怨霊なので、「カモンサマの火玉」ということ……?

    タニシ まあカモンサマについてはまたいつか調べるとして、実は比江山神社はもう一つあって、それが比江山という山の中にある比江山城跡にあるんですよね。比江山城は比江山親興が城主だった城で、その城があった場所に比江山親興夫妻と子供たちを祀る神社が建てられました。それがもう一つの比江山神社。
    田中 こっちは比江山親興も祀られてるんやね。
    タニシ そうそう。ただ、行ってみてわかったことが、台風などの土砂崩れによってなのか、ネットで確認したら存在してた案内板がなくなってるんですよね。なので、その神社が比江山神社であるとわからせるものが一切ない。ほぼ、廃神社と化してしまってます。
    田中 祟りを鎮めてたはずの神社がもう管理されてないとなると……これはまずいな。
    タニシ 平成20年に撮られた写真にはまだ案内板が残っていたので、この10年ちょっとの間に廃墟化したんでしょうね。
    田中 カモンサマの火玉が再び現れる時が来るかもやな。

    廃寺と化した比江山親興と妻子を祀っている比江山城跡の比江山神社。

    久礼の「七人ミサキ」

    タニシ さて、今回行ったのは吉良親実の七人ミサキでも比江山親興の七人ミサキでもなくてですね、高知県の南西に位置する高岡郡中土佐町の久礼という場所ですね。ここには「久礼七人ミサキ」の話がありまして、戦国武将ではなくて女遍路が謂れの発端なんですね。
    健太郎 ほんと七人ミサキはいろんなところにいますね。
    タニシ 久礼の七人ミサキは、海なんです。海岸に石地蔵が建てられてあるらしいと。
    そもそもこの海岸に女遍路が行き倒れていて、発見した村人が海へ葬ってあげたんですけど、女遍路の遺体はまた同じ場所に漂着してしまう。結局その場所に遺体を埋葬するんですが、その上に一本松が生えてきて、その周りを火の玉が飛ぶようになるんです。そしてその前を通ると必ず病気になってしまい、結果7人の遍路が次々に死んでしまったという。なので女遍路の魂を鎮めるために石地蔵が建てられたと。
    ——それが久礼七人ミサキの話です。

    タニシ ただ、その石地蔵の場所が地図には一切載っていないんですね。なので地元の人に
    「七人ミサキの石地蔵の場所知らないですか?」
    って聞き込み調査をするんですが、
    「七人ミサキなら知っちゅう」
    って言われるんですよ。
    田中 知っちゅう?
    タニシ 「知ってる」という意味です。土佐弁ですね。
    それで
    「七人ミサキはご存知なんですね。あの7人組の妖怪の……」
    って言ったら、
    「いや、七人ミサキはこのまま浜の方に出て、海岸沿いをずっと左に歩いたらある」
    って言われて。
    健太郎 ある?
    タニシ そう。久礼の人達にとって「七人ミサキ」は妖怪じゃなくて場所。つまり「七人岬」ってことなんですよ。
    田中 なるほど。地名なのか。
    タニシ でも「七人岬」という地名は地図には一切載ってない。地元の人達だけが呼んでいる通称なんです。
    健太郎 へぇーーー

    この先が久礼七人岬。行き止まりになっている。

    タニシ 他にもドーナツ屋さんのおばちゃんにも聞いたんですが
    「あんた七人岬に行こうとしちゅうんか? こわいで〜、ひっぱられんようにな」
    って言われまして。
    あ、恐い場所っていう認識がちゃんとあるのか!って。
    それでいざ言われた通りに行ってみたんですが、あいにく七人岬へ行く道は土砂崩れのため通行止めになってて行けなかったんですけど。
    で、ドーナツ屋のおばちゃんに再び聞いたら、七人岬は崖になってて、その崖を降りたら小さな砂浜があったと。そこで小さいころよく遊んでたそうですが、浜辺の大人たちからは「そんなとこで遊んだらダメ」って言われてたそうです。
    田中 へ―――、やっぱり実際行ってみないとわからんことってあるんやなぁ。
    タニシ 七人ミサキは他にも泥を塗りつけてくる早乙女ミサキや、狂った山伏を弔った広島の狂塚、正月に女が死ぬと次々に他の女が死んでいく正月女など、いろんなパターンの怪異が「七人ミサキ」として語られてるから、まだまだ興味深いですね。

    手前に地蔵らしきものがあって、さらに地蔵の右下に女性をかたどった何かが。もしかして「女遍路」を表しているのか……?

    タニシは死ぬのか? 田中は産むのか?

    タニシ さて来年はいよいよ僕も余命宣告からのラストイヤーとなるんで、思い残すことのないようにムーの連載も頑張ろうと思うのですが、田中さん、先月言っていた龍の子供を産む話はどうなったんですか?
    田中 あ、あれな、全然なんもないねん。
    健太郎 え? そういえば11月末にはもう産まれるはずですよね……
    田中 そやねん。でもな、最近なって下っ腹がちょっと出てきて、お腹が張ってきたような気はしてるねん。
    タニシ え!? ということは……
    田中 ちょっと遅れてるだけかもしれへんな。

    食べづわり、なのかもしれない。

    松原タニシ

    心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。

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