節分の夜は便所には行かぬこと……妖怪「カイナデ」が迫る赤青の選択/黒史郎・妖怪補遺々々
2月といえば節分! そこで季節感に合わせて今回は。節分の夜に現れる妖の話を補遺々々しましたーー ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘す
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伝説のコラムを公開再録! 異色怪談ユニットが遭遇した怪奇を公開する。今回の行脚先は、徳島の心霊スポットから、大歩危(おおぼけ)の妖怪巡りへ。ヤマジチと七人ミサキの話に憤っていたら、強烈なしっぺ返しが……。 (2020年2月28日記事)
タニシ 事故物件住みます芸人・松原タニシです。
田中 オカルトコレクター・田中俊行です。
健太郎 四国高松で怪談をやってます、恐怖新聞健太郎です。
タニシ 今回は徳島県です。徳島といえば稲川淳二さんも訪れた廃墟・ホテルニュー鳴門が有名ですが、田中さん行きましたよね。
田中 行ったなぁ。入口の前に稲川さんのDVD『恐怖の現場』が落ちてた。
タニシ しかもそのDVDが「四国巡礼編」で、それこそ稲川さんがホテルニュー鳴門に行った時の映像が収録されてるやつ。
田中 あれ何のために置かれてたんやろ。それこそ稲川さんのDVD観て「来ましたよ」っていうアピールやろか。
タニシ 誰へのアピール?
田中 稲川さんへの……
タニシ 稲川さんへは届かんでしょ。
田中 それか後輩たちへ「中入る前に見とけよ」っていう。
タニシ 先人の教え、的なことですか……。ところでこの廃墟、何がヤバイかと言うと、「確実に心霊写真が撮れる」っていう噂があるんですけど、残念ながら撮った写真には「ヤバイでぇ〜」って書かれた柱の落書きくらいしか写ってなかった。
田中 あと「うんこマン」ね。
松原 「うんこマン」の落書きは大体どこの廃墟でもありますよね。ヤンキーは下ネタ好きですから。健太郎さんは徳島でヤバイでぇ〜な場所どこか知ってますか?
健太郎 今から3〜4年前くらいに徳島出身の友達が地元にヤバイ廃古民家があるって言い出して、そいつ含めて4人くらいで行ったんですよ。で、実際に現場に着いたら、古民家が見えないくらい藪が生い茂ってて、その日は小雨も降ってて濡れそうやし中には入らなかったんです。その日はそれで終わったんですが、後日別の用事で徳島に車で向かったんですよ、カーナビに住所を入れて。そのまま目的地に向かってたら、うっすらと見覚えのある風景が見えてくるんです。で、さらにドンドン進んでいって愕然としたんですけど、着いた場所がナビにいれた目的地じゃなくて、その廃古民家だったんです。
タニシ その廃古民家、僕らも健太郎さんに連れていってもらいましたよね。確か焼身自殺をした男性が住んでいた家って聞いたような。
健太郎 そうですそうです。タニシさん藪の中に入って擦り傷だらけになってました。
タニシ 進んでも進んでも藪しかなくて、どっから入ったかもわからんくなって、神隠しに遭ったかと思いましたわ。
田中 あれ、その時俺もいたかなぁ。
健太郎 田中さんは確か車の中で寝てましたね。
タニシ 田中さん、肝心な時いないこと多いですよね……。
タニシ さて、前置きが長くなりましたが、今回取り上げたいのは徳島県の中でも山間部に位置する妖怪伝承の地・大歩危(おおぼけ)です。道の駅大歩危の中には「妖怪屋敷」という妖怪ミュージアムがありまして、去年高知高松の怪談ツアーの最中に寄せてもらいました。
田中 この時は俺もいたで。あとニコ生の木村さん(ニコニコ生放送モノガタリチャンネルディレクター)と悠遠かなたさん(心霊YouTuber)もいたよね。
健太郎 僕はその時は参加できませんでした。
田中 健太郎さんは俺らと違って社会人やからなぁ。平日昼間は働いてるもん。
タニシ 事故物件住みます芸人と、オカルトコレクターの子供部屋おじさんと、白塗り社会人怪談師。
田中 ヤバイ3人やなぁ。
タニシ 妖怪屋敷には三好市山城町発祥の妖怪・児啼爺(コナキジジイ)を始め、地元の妖怪がたくさん紹介されています。ノビアガリとか、ヒダルガミとか、マドとか。なかなかマイナーな妖怪が多くて興味深い。
田中 「ブランブランしよ」も気持ち悪い。
健太郎 「ブランブランしよ」って何ですか? 「ブランブランしよ」が妖怪の名前?
田中 そう、「ブランブランしよ」が妖怪の名前。
健太郎 下ネタの妖怪ですか?
田中 いや、ブランブランしよは、「お姉さん、ブランブランしよ、なあ、ブランブランしよ」ってしつこく声かけてくる妖怪。
健太郎 ただの変質者じゃないですか。
田中 首を吊る用の紐を手に持って「ええ枝があるけん、ブランブランしよ」って、首を吊ることをしつこいくらいに勧めてくるねん。
健太郎 気味悪いですねぇ。
タニシ ブランブランしよの正体はタヌキですが、変なおっさんが後々妖怪として語り継がれることはありますよね。例えばコナキジジイも、実は赤ちゃんの泣き真似をするただの近所の徘徊じいさんっていう説があるし。
田中 夜中に歩いていると背中におぶさってくる妖怪・オバリヨンと、通行人の前にいきなり現れて「子供を抱いてください」と頼んできて、その赤ん坊を抱いたらどんどん重くなるといわれる妊婦の妖怪・ウブメと、さらに赤ちゃんモノマネじいさんが合体して「コナキジジイ」が誕生したんじゃないかというやつね。
タニシ あと「ゴギャゴギャ」と鳴いて一本足でうろつく、ゴギャナキも混ざってる。
田中 いろいろ混同されて伝わっていくもんやねんな。あとは「パチパチ」と音を出すだけの無害な妖怪、算盤小僧もなかなか魅力的やわ。
タニシ 算盤小僧は京都の妖怪ですが、算盤小僧もゴギャナキも、鳥の鳴き声じゃないかと言ってる人もいる。「鵺の鳴く夜は恐ろしい」の鵺も、正体はトラツグミだったりするし。
(『平家物語』に記述される怪物はあくまで「鵺[トラツグミ]の声で鳴く得体の知れないもの」である)
田中 何でも突き詰め過ぎると浪漫がなくなるから、ええ感じでファンタジーを残しておいた方がええよなぁ。
田中 ところで妖怪屋敷の中にある紙芝居コーナー良かったよね。
タニシ 紙芝居をモニターで見せてくれるコーナーですね。
田中 ヤマジチの話が面白かった。
タニシ 水無集落の山中に棲む怪力の大男・ヤマジチ。田畑を荒らし、家畜を奪い、村人までさらって殺し、悪さの限りを尽くしていた。そんなヤマジチを、讃岐から来た山伏が「わたしが退治いたしましょう」って言って、村人に団子と白い石を集めさせた。そしてヤマジチの棲み家に行き、目の前で団子と団子に見せかけた白い石を焼いてみせて、ヤマジチに熱々の美味しい団子を数個食べさせたあとに熱々の石を食べさせると……
田中 ボカーーーーン!!!!
タニシ ヤマジチの棲み家は大爆発。翌朝おそるおそる村人が山に入って様子をうかがうと、焼け石で喉を焼かれて長くて赤い舌をベロンと出した今にも死にそうなヤマジチと、そばに倒れている山伏を発見する。
田中 このシーンの紙芝居の構図良かったよなぁ。芸術的やった。
タニシ 村人は2人を同じ塚に埋めて白い石を積み祀ったといわれる。
健太郎 あれ、ヤマジチはまだ生きてますよね? 塚に埋めちゃったんですか?
タニシ さぁ……。そのあと息絶えたか、村人がとどめ刺したのかは謎。
健太郎 あと、何で焼けた石食べたら爆発するんですか?
タニシ それは、僕にもわかりません。それにヤマジチより先に山伏の方が先に死んでるというね。
田中 あと、俺気になってることがあって。ヤマジチの犠牲者が村人5人と犬2匹で、それを「七人ミサキ」として今でも手厚く祀ってるらしいねんけど。
タニシ 七人ミサキは七人組の妖怪で、出会ってしまうと見た人は魂を抜かれて自分も七人ミサキの一人となってしまうという、地獄先生ぬ〜べ〜でも倒せなかった恐ろしい妖怪ですが。
田中 そやねん。俺らもさ、七人ミサキについては結構調べたからわかるねんけど、まさかヤマジチとセットで出てくるとは思わんかった。
タニシ まあ一番有名な七人ミサキは戦国武将・長曾我部元親の家臣・吉良親実が、家来7人と共に切腹させられた恨みから誕生した話ですが、ただ、他にもいろんなパターンの七人ミサキが全国にいますからね。
田中 いや、いろんな七人ミサキがいるのはわかるねんけど、渋谷には援助交際で妊娠した女子高生が中絶した子供に取り殺される「渋谷七人ミサキ」ってのもあったりするから。でもな、このヤマジチの話での七人ミサキはちょっと強引じゃない? そもそもこの人たちは殺された被害者やけど、別にその怨みで誰かを取り殺そうとしたわけじゃないのに「七人ミサキ」って言われてるし。
タニシ まあそりゃあそうなんですけどね。
田中 で、どうしても納得いかないのが、百歩譲ってこの人たちを七人ミサキと呼ぶとして、村人5人はわかるねん。けど犬2匹って(笑)。犬入れたらあかんのちゃう。七人ミサキのルールブレブレじゃない? 七人って言うてもうてるし犬は数える単位が匹やからな。
健太郎 たしかに。
田中 でも今回の犬2匹はな……いや犬が悪いって言ってる訳じゃないねんで。そこいじったらなー、何でもありになるから。もしこのヤマジチに殺された人たちが七人ミサキとなって、生きてる人間を取り殺す存在になってたとしても、だって犬は犬を狙うって事になるやんか。それはもう「5人+2匹ミサキ」やんか。
健太郎 田中さん怒ってますねー。
田中 まあ、その柔軟さがこういう伝説の面白いところでもあるねんけどな。
タニシ そんな事より、紙芝居見たあとに妖怪屋敷のスタッフさんから大歩危周辺の地図を貰って、ヤマジチが実際に居たとされる里が存在することがわかったんですよね。
田中 そうそう、その里には実際にヤマジチの墓と、ヤマジチ倒した山伏の碑と、犠牲者の5人と犬2匹の塚があるらしく、見に行こうと言う事になったんです。
タニシ 妖怪屋敷を出て車に乗り込もうとした時、気持ち悪い事がありました。車の後部座席の外側にビシャーと赤茶色の液体がかかってて。
田中 最初はコーヒーでもこぼしたのかと思ってんけど、その時コーヒーは誰も飲んでないし、コーヒーの色とは少し違う……これは後々ゾッとする事になるねんけどな。
タニシ とにかく車でヤマジチの里に向かいます。
田中 結構山の上の方まで登ったよね。
タニシ はい、なかなか車がないと行けないような場所に集落があって。でも妖怪屋敷でもらった地図は、アバウトにしか場所が記されてないからお墓がどこにあるのかなかなか見つけられない。
田中 そしたら里に住んでるおじさんがめちゃくちゃいい人で、快くヤマジチの墓の場所を教えてくれた。
タニシ この集落一帯の人たちは、それこそヤマジチの被害に遭った村人の子孫なんですよね。
田中 そうそう。ヤマジチの墓も、山伏が祀られてる神社も、5人と2匹ミサキの塚も実際にちゃんとありました。
タニシ 驚いたのが、ヤマジチが焼け石を食べて爆発したヤマジチの棲み家が、実際に隣の山にあるという話。
田中 今は土砂崩れとかで通行不可になってるみたいやけど、その現場がほんまにあって、おじさんも行ったことがあるという。
タニシ しかもヤマジチの棲み家からは今でも赤い水が流れ出ているという話が凄いですよね。
田中 この山自体が水が湧くような山じゃないのに、どういうわけかその場所から水が流れ出ている。しかも何かしらの赤色の成分を含んだ水が。
タニシ これって、「焼け石で喉を焼かれて長くて赤い舌をベロンと出した今にも死にそうなヤマジチ」の赤い舌を表してるんじゃないかと……
田中 そう! ここで繋がってん! こういう妖怪伝説ってのは、当時の人間では理解できない自然現象を物語に組み込むことによって納得しようとしてたんじゃないかって。
タニシ ヤマジチが実際に存在したかどうかはわからないけど、もしかしたら自然災害などによって亡くなった人たちの話かもしれない。実際に亡くなった被害者の塚が七人ミサキの塚としてあって、その子孫が今でも里に暮らしている。
田中 でもタニシくん、俺はヤマジチは実際におったと思うで。だって、車の後ろ側にかけられてた赤茶色の液体……
タニシ ヤマジチの棲み家から流れる赤い水……
田中 ヤマジチは俺らがここまで辿り着くことを知ってたんやと思うで。
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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