妖怪好きは民話を集める…「ひどい妖怪を語る会」に至る”お化けの縁”/村上健司
ムー公式web最長連載「妖怪補遺々々」が100回を通過! 記念企画として「ひどい民話を語る会」とのコラボ対談を実施した。お化け盟友・村上健司が黒史郎を語る。
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無気味な姿形の正体不明の謎の生き物UMA。UMAと遭遇し、恐怖の体験をした人は多い。忘れようにも忘れられない、そんな恐怖体験の数々を紹介しよう。
この話は今から20年近く前、K子さんがまだ20代半ばのころだった。
当時つきあっていた彼氏が熊本県の山奥にある社宅に住んでいた。あたりは険しく建物は林のくぼんだ崖の下にあり、車で行くのもなかなか厳しい場所だったが、彼の勤めている工場には通いやすい場所にあった。
(よくまあこんなところに工場と社宅を造ったな)
そう思いながら、K子さんは土日の週末になると彼のもとを車で訪ねていた。
彼女が住んでいた場所は熊本県の市街地にあったため、中距離恋愛ではあったが、当時は彼氏と一緒にいるのが楽しく、通うのはそれほど苦にならなかった。
六畳ふた間の狭い社宅の部屋ではあったが、ふたりでテレビや借りてきたビデオを見たり、彼の好きなゲームをしたりと、一日中部屋にいても飽きることはなかった。
寝るときは1枚の布団に2枚の毛布をそれぞれにかけ、その上から大きな掛け布団をかけるのがふたりの定番になっていた。
その週末もK子さんは彼の家に行くと、ふたりで一緒に週末を過ごした。
夜になって寝ようという話になり、居間に布団を敷き、戸締まりをして寝ることにした。頭側にある掃き出し窓の鍵を閉めカーテンを引くと、電気を消してふたりで布団に潜り込んだ。しばらくすると隣から彼の寝息が聞こえてきた。
「……もう寝ちゃったんだ」
寝る前にふたりで話をしたいと思っていたK子さんにとっては少し拍子抜けだったが、彼女も目をつぶるとまもなく眠りに落ちた。
眠ってからどのくらい経ったころだろうか。突然部屋の掃き出し窓の扉が「カラカラカラ……」と開く音が聞こえ、部屋の中に風が吹き込んでくる気配がした。その物音に気づいたK子さんはとっさに(泥棒だ!)と身構えた。とはいえ、怖さから目を開けることができない。
自分の枕元には、お金を入れた財布が置きっぱなしになっている。このままでは盗まれてしまうと思った彼女は、そっと布団から手を出して財布に手をかけようとした。
ぽすっ!
次の瞬間、布団に寝ていた彼とK子さんの間に、それまで枕元にいた泥棒が飛び乗ってきた。上にかけていた厚手の掛け布団がその重みで、ぼこりとへこんだ。
ぽすっ、ぽすっ、ぽすっ!
やがて泥棒は布団の上で足踏みを始めた。ところが、なぜかその感覚が不思議だ。はじめは足踏みと思っていたが、どうやら泥棒は片足で布団の上を飛び跳ねている様子だった。
そのときK子さんの脳裏には、片足で布団の上を跳ねている男のイメージが浮かんだ。
「いったい何をしているんだろう?」
そう思いながらもK子さんは、気づかれないように布団の中の足を伸ばすと、目を覚ますようにと彼の足を何度か蹴った。しかし彼氏は高いびきをかくばかりで、一向に起きる気配がない。
どうしようもなくなった彼女はそーっと薄目を開けると布団の上の泥棒を見た。部屋の中は真っ暗で詳しいディテールはよくわからなかったが、片足だけの人のシルエットがそこに見えたという。
彼女はぎゅっと目をつぶると「泥棒にしろ、妖怪にしろ、お願いですから頭の上の財布だけは持っていかないでください……」と祈った。相変わらず布団の上では何かが跳ねていたが、やがて彼女は再び深い眠りに落ちていった。
翌朝になってこのことを彼氏に伝えたが、寝ぼけたんだろうと取り合ってはもらえなかった。
しかし部屋を見ると、閉めたはずの掃き出し窓は少し開かれており、掛け布団の上には泥のついた右足の足形が残っていた。幸いなことに、枕元に置いていた彼女の財布は盗まれていなかった。
あとで知り合いに聞いた話では、「一本だたら」という一本足の妖怪の伝説がこのあたりに伝わっているということだった。古来、製鉄が盛んだった場所に伝わる妖怪で、炉の鞴を踏みつづけ片足を壊してしまった作業員のことを揶揄したものだといわれている。
果たして彼女が見たものが、その「一本だたら」かはわからないが、あの夜確実にそれは布団の上に乗っていた、と彼女は語ってくれた。
西浦和也
不思議&怪談蒐集家。実話怪談の調査・考察を各種メディアを通じて発信。心霊番組「北野誠のおまえら行くな。」や怪談トークライブ、自身のYouTubeなどで活動する。
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