神の機械「ニュー・モチーブ・パワー」が無限のエネルギーをもたらす!? 19世紀心霊テクノロジーの到達点

文=比嘉光太郎

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    人間の女性と接続して無限のエネルギーを得る!? 神の御業に挑んだ、とある機械について。

    人類を進化させる永久機関?

     かつて、神の力で動く機械が実在した。こう言うと、読者の皆様は驚くだろうか。機械の名は「ニュー・モチーブ・パワー」。1850年代、一人のアメリカ人牧師が開発したものだった。

     一体それは何なのだろうか。開発した牧師、ジョン・マレー・スフィアーはこう語ったという。

    「この機械は無限のエネルギーを人にもたらす。これによって人は労働から解放され、新しい時代がやってくる。それだけでなく、この機械の霊的な力によって人類の意識は更なる進化を遂げるのだ――」

     いわゆる永久機関に近いものと考えていいだろう。ただし、この機械のアイデアは人間の思いつきではない。なんと、霊界からもたらされたものだった。スフィアー牧師は霊界と交流を果たし、世界を改革する使命と共に、機械の設計図を授かったのだ。

     永久機関として過去に作り上げられたものの多くは、物理的な側面のみで役に立つとされてきた。一方、スフィアー牧師の開発した機械はそのレベルに留まらず、世界を変えるほどの霊的な力があるという。彼が霊界からアイデアを授かった経緯はあとで述べるとして、まずは機械が本当に動いたのかどうか、その結果について見てみよう。

     1854年、マサチューセッツ州リンのハイロックタワーにて、機械の開発が行われた。スフィアーの弟子や賛同者たちによって作業は続けられ、かかった費用は現代の日本円にして772万円ほどだったとも伝えられる。多くの労力を経て、機械は完成した。

    復元され、現在もまだ訪れることができるマサチューセッツ州リンのハイロックタワー。https://alchetron.com/High-Rock-Tower-Reservation

     後述する理由から、機械は後に破壊されてしまったため詳細な原理は明らかにされていないが、霊界から無限のエネルギーを引き出す仕組みだったと伝えられている。機械は亜鉛と銅を主な材料としつつも、人間の体の内臓などを機械で再現したものだったという。ここからも、これが通常の機械に留まらないものであったことが伝わってくる。

    人間の女性による霊的な仕上げで完成する

     スフィアー牧師いわく、「この機械には生命を吹き込むことが可能であり、生命活動を始めると霊界から力を引き出すようになる」ものだという。こうした構造のみならず、機械が駆動するための最後の手順もまた、輪をかけて奇妙なものだった。

     そう、機械の駆動には、最後の仕上げ作業が必要だった。驚くべきことに、最後は人間の女性が機械と霊的に繋がり、機械に魂が宿る手助けをしたのだ。まるで、神の子であるイエス・キリストが、人間であるマリアの体を通して誕生したように、この「神の機械」もまた人間の母親が必要だったのだ!

     この母親の役割を果たしたのは、スフィアーの弟子である女性、サラ・ニュートン。彼女は機械のもとに何日も付きっきりで、その霊的な使命を全うしようとした。すると、ある日突然、妊娠していないはずのサラに陣痛が始まった! サラは2時間ほど陣痛に苦しみ、最後に機械に手を触れた。すると機械は鼓動を始めたーー!! 神の機械、またの名をニュー・モチーブ・パワー(新たな動力源)と呼ばれる革新的機械の誕生である

    霊的に神の機械の出産に携わったサラ・ニュートン。画像はJohn Benedict Buescher『Revisiting John Murray Spear』より

     しかし、新しいものに対して怪しげだと反発する人がいるのも世の常。スフィアーとその賛同者たちが神の機械をニューヨーク州ランドルフに移動し、そこで稼働させようというとき、事件は起きた。スフィアーを快く思わない住民が暴徒と化し、機械を粉々に壊してしまったのだ。バラバラにされた破片は地元の工場の池に投げ込まれた。

     この機械を通して世界を改革する。そんなスフィアー牧師の目標は達成されることなく散ってしまったのだった。

    謎の牧師、スフィアーとは何者か?

     霊界と交信する牧師であり、神の力で動く機械を開発した男、ジョン・マレー・スフィアー。彼は一体何者だったのか? どのようにして霊界に接触したのだろうか?

     スフィアーは1804年頃に誕生したと伝えられ、その人生の多くを牧師としての奉仕活動に捧げた。彼は信仰生活に重きを置くのみに限らず、女性の権利回復や奴隷制廃止、死刑制度の撤廃を訴えるなど、先進的な活動を行った人物でもあった。
     ただ、当時としては彼の主張は受け入れられなかったのかもしれない。1844年にメイン州ポートランドで講演を行った際、彼の説教を聞いた聴衆が怒り始めたことがあった。そして、なおも聴衆との対話を望んだスフィアー牧師は暴徒に殴り倒され、昏睡状態に陥ってしまったという。

     スフィアーの真摯な態度が伺えるエピソードであるが、彼の霊界とのコンタクトはこの時から始まったのだった。昏睡状態の中で、彼は神秘体験を果たした。いわゆる臨死体験とも近いものかもしれない。
     以後、彼は霊界に興味を持ち始め、神秘思想家アンドリュー・ジャクソン・デイヴィスと交流するようになる。デイヴィスは催眠術の基礎ともなったメスメリズムの手法によって催眠状態に入ることでも知られ、スウェーデンボルグなどの過去の偉大な神秘思想家とも交信した人物だった。

    「やがて、あなたも霊界と交信するときがくるでしょう」。デイヴィスはスフィアーに対し、こう告げたという。

    アンドリュー・ジャクソン・デイヴィス。画像=Wikipedia

     はたして、その通りになった。スフィアーは1852年には自動筆記を行うようになったのだ。のみならず、ジョン・アダムズ、ベンジャミン・フランクリン、トーマス・ジェファーソンなど、アメリカ建国の父と呼ばれる偉人の霊とコンタクトし始めたのだった。こうして彼は、神の機械のインスピレーションを授かることになった。

     ここで興味深いエピソードがある。機械の設計について一番詳細なアドバイスをくれたのが、ベンジャミン・フランクリンの霊だったという。フランクリンは雷が電気であると証明したなど、科学的功績を多く残した人物であり、霊魂となっても機械の設計に詳しかったのもうなずける。

    ニュー・モチーブ・パワーは実在した!

     2019年、コロラド州グリーリーにて新しい発見があった。なんと、スフィアーの開発した機械らしきものが発見されたのだ。

     とある夫人が亡くなったあと、その遺品が整理された。
     その夫人はアンティーク品の収集家で、近所でも変わり者と噂された人物。晩年は大量の収集品に囲まれて過ごしていたという。家族がいなかった彼女は、自身のコレクションをオークションにかけ、その売り上げをペット保護団体に寄付するよう遺言で指示した。この奇妙な機械が発見されたのは、オークションのための収集品の整理中のことだった。

     はたしてmこれはスフィアーが開発した実物なのか? 本物は粉々に破壊されたのではなかったか? 「New Motive Power」とわざわざ書いてあるのは怪しすぎないか? 

     ネット上では多く議論が交わされた。
     ただ、この機械を実際のスフィアー牧師が作ったものと仮定すると、色々と符合する点もあるのも確かだ。先に述べたように、神の機械は人間の内臓の仕組みと似た構造だったと伝えられている。これを踏まえると、夫人の屋根裏から発見された機械の構造もそのように見えてくる、ともいわれた。中央の円筒状のガラス管から左右対象に二つの部品が並んでいる様子は、まるで人体の内臓が脳を中心に、左右対象に配置されている様を想起させる。この機械が実際に駆動したのならば、左右に伸びるスピーカー状の部分から空気を取り入れて呼吸したのではないか……そんな光景も目に浮かぶ。

     仮に、発見された機械が模造品であったとしても、それが作られるほどまでに彼の後世への影響力は強かったという証拠に他ならないだろう。

    「New Motive Power 」。機械にはそうはっきり記されていた……。画像は「Dan Baines」より

    目に見えないものと、目に見えるものの間で

     多くの謎を歴史の影に残したジョン・マレー・スフィアー。たとえ、明らかな業績が歴史に残せなかったからといって、彼の行動や「神の機械」をとんでもないものとして片付けることができるだろうか? それは絶対にちがう。私たちは彼を通し、時代の変革期の片鱗を見てとることができるのだ。

     1800年代中盤は、科学的進歩の時代だった。1834年には実用直流モーターが開発され、1851年には電信用海底ケーブルが英仏海峡に敷設されている。人々は多くの工業製品に囲まれ、都会で暮らし始めた。技術の差こそ大きくあれど、現代とそう変わらない生活のあり方が生まれた時代だった。

     一方、全く反対のオカルト的事件も起きていた。

     1848年、ニューヨーク州のハイズヴィル村にて3人の姉妹が霊とコンタクトをとり始めた。後にハイズヴィル事件として後世まで語り継がれるこの事件は、世界中に大きな波紋を与えた。多くの人が霊界の実在を信じ、霊魂とコミュニケーションを図る運動、すなわち心霊主義のとりことなったのだ。このブームは、科学的な考え方が世に広まった結果、これまで皆が信じてきたキリスト教の価値観が揺らいだ反動だとも言われている。これまで自分たちが信じてきたキリスト教の神秘的な世界への願いを、霊界との交信に託したのだ。

    フォックス姉妹。画像=Wikipedia

     スフィアーに影響を与えた神秘思想家アンドリュー・ジャクソン・デイヴィスもまた、その心霊主義の流れをくんだ人物だった。

     科学的な価値観が主流になる一方、霊的な世界への欲求が高まった時代。ここにおいて、スフィアー牧師の神の機械はその中間に位置付けられるものなのではないだろうか。

     スフィアー牧師の作ったものは、霊的な力の現れでありつつ、機械という科学の世界に属するものでもあった。
     科学の時代において、霊界という目に見えない世界は評価の外側にある。だが、機械という形となった以上、科学の範疇で評価される可能性も出てくる。人は目に見えないものを信じたい願望がありつつ、目に見える確かさを欲しがる。筆者にとって、スフィアーの機械は、この両方の需要に答えようとした結果のように思えてならない。私たちはここに、スフィアーの「神の機械」を通して大事なことを再確認させられるのではないだろうか。

    https://www.danbaines.com/blog/john-murray-spears-mechanical-messiah-discovered-in-colorado-attic/3/7/2019

    出典:
    John Benedict Buescher『Revisiting John Murray Spear』
    (いずれも2024年4月19日閲覧)
    The Living Machine of John Murray Spear – Strange New England
    John Murray Spear’s ‘Mechanical Messiah’ Discovered in Colorado Attic — Dan Baines
    The New Motor | Encyclopedia.com
    https://www.mentalfloss.com/article/571569/spiritualist-god-machine?a_aid=45307
    John Murray Spear’s ‘Mechanical Messiah’ Discovered in Colorado Attic — Dan Baines

    比嘉光太郎

    「未確認の会」主宰。第2回日本ホラー映画大賞豆魚雷賞『絶叫する家』などオカルト、ホラーの研究、実践制作で活動する。

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