昭和子ども交霊術ブームと「脱法コックリさん」の進化/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録
昭和の時代、少年少女がどっぷり浸かった怪しげなあれこれを、“懐かしがり屋”ライターの初見健一が回想する。 今回は、古典的交霊術が小学校カルチャーに適応して育まれた「コックリさん」を振り出しに、その派生
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都市伝説には実は、元ネタがあった。今回登場するは、なつかしの不幸の手紙。
「このメールを〇〇人にまわしてください。そうしないと、あなたのもとに不幸が訪れます」
このような文章で終わるメールが若者たちの間で大流行したのは、1990年代後半から2000年代のころだった。携帯電話が普及し、電子メールによるコミュニケーションが盛んになると、そのなかに奇妙なメールがまぎれはじめた。
それはチェーンメールとよばれ、先述したように本文中に同じ内容の文章を一定以上の人数に転送するように記されたメールのことで、種類はさまざまだった。
テレビ番組の企画を騙り、メールの伝達速度を調べているなどともっともらしい理由をつけてメールの転送を促すものや、なにかしらの危険を訴え、注意喚起のために拡散を促すものなどがあった。
そして転送をおこなわなければその人間になにかしらの不都合なことが起きると脅すものがあり、その種類も豊富だった。たとえば最初に書いたような霊を使った脅し方だ。その例としては「菊地彩音」のチェーンメールがある。
これは菊池彩音なる少女が書いたという体裁でつづられるメールで、彼女は生前両親からの虐待や学校でのいじめを受けていた。あるときクラスの男子に片目を潰され、さらに両親に残った目を潰される。しかしその恨みからまず両親の目を潰し、殺害するに及ぶが、その翌日クラスの男子3人によって殺害されたと語る。
しかし霊と化した彼女は自分を殺した男子を3人とも殺害し、そして友だちになってくれる人を捜してメールを送っているのだという。もし彼女と友だちになりたくない場合は、彼女が指示する人数に3日以内にメールを転送しなければならない。そうしなければ殺されてしまうのだと記される。
このメールのように霊が登場するメールは霊自身がメールを送ってくるという体裁になっているものもが多く、もし拡散しろという言葉に従わなければその霊がメールを受信した人物のもとに現れ、何らかの悪行を働くと語られる。
また、もうひとつ多いパターンとしてだれかの復讐のためにメールを送っているという体裁のものがある。これは「橘あゆみ」などに代表される。
メールの内容はあるとき、橘あゆみという女性が複数の男に暴行され、殺された。メールの文章を作成したのはその親友であり、妊娠していた橘あゆみの下腹をめった刺しにして殺した犯人が許せず、犯人を殺害するためメールを送っているという。
もしこのメールを見た場合、24時間以内にある人数以上に転送しなければならない。メールを止めた人間を犯人とみなし、居場所を突き止めて殺害する、という内容になっている。
このように電子の海の中でチェーンメールは増殖を続けたが、SNSの普及により人々のコミュニケーションの場が移りはじめると、今度はそちらに対応しはじめた。Twitterであれば「この話をリツイートしないと」LINEであれば「この話を〇〇人に回してください」というようにそれぞれに合わせた形式の文章が拡散している。
しかし、このチェーンメールはもともと電子の世界に生まれたものではない。その前はFAXでも似たようなものが拡散していたし、話を聞いた人間のもとに現れて体の一部を奪っていくが、同じ話を一定人数以上にすれば回避できるとされる「カシマさん」や「テケテケ」なども同様の性質を持っている。
創作の世界でも鈴木浩司の小説『リング』やその映画化作品に登場する幽霊「貞子」は「呪いのビデオ」によって呪いを拡散するが、同じビデオをダビングして他の人間に見せることで呪いを回避できるという感染する幽霊として語られた。この「貞子」は『着信アリ』の「美々子」など後輩たちにも大きな影響を与えた。また、「美々子」も携帯電話から携帯電話へと感染する厄介な性質を持っている。
しかし、実はチェーンメールは現代になって現れたわけではない。そしてこれらの伝染する怪異にはさらにその祖先となったともいうべきものが存在する。それは「幸福の手紙」や「不幸の手紙」と呼ばれる手紙だった。その歴史はなんと大正時代までさかのぼる。
1922年1月27日、「東京朝日新聞」にて謎の葉書についての記事が掲載された。その葉書は24時間以内に9枚の葉書を書いて出すと9日後に幸運が巡るが、出さなければ悪運がまわってくるという内容だったという。この葉書はある米国の士官から始まり、すでに地球を9度回っているといった旨の文章が書かれていた(丸山泰明『「幸運の手紙」についての一考察』)。
それ以降、この類いの手紙が流行と沈静化を繰り返すようになった。これらの手紙はイギリスやアメリカなどの海外から渡ってきたもので、日本に入ってきた際にだれかが日本語に翻訳し、流布したために日本国内でも広まったものと考えられる。
そしてこれら幸運の手紙は後に「幸運が訪れる」という要素が消失し、「不幸が訪れる」という部分のみが残ったものが流布した。これが「不幸の手紙」だ。この伝染する不幸は1970年前後に広まり、人々を恐怖におとしいれた。
幸福の手紙や不幸の手紙は手書きで書き写さねばならない都合上、文面に大きな変化は少なかった。1990年代には「不幸」の字が手書きゆえに「棒」と読めたために「同じ手紙を広めなければ棒が訪れる」という一見意味不明かつ無気味な「棒の手紙」が広まった例もある。
しかし先述した「カシマさん」や「テケテケ」のように口頭で広まるタイプのものはさまざまなバリエーションが現れた。
これは紙に書くよりも伝達が容易だったことも理由のひとつだろう。そして電子メールの時代になると簡単に文面を複製できるためか、やはりバリエーションは多様化した。同じように文面を複製できる電子掲示板などでも、同様の文面をコピー&ペーストして広めるよう脅迫するものも確認できる。
大正時代、海外から日本にやってきた幸福の手紙は、時代とともに姿を変えて広まってきた。今後、また人類に情報の伝達手段が増えていくならば、それとともにチェーンメールも姿を変え、われわれの間で広まりつづけるのだろう。
月刊ムー2023年4月号掲載記事
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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