“両面宿儺の音声ナビ”で円空仏を知る! 旅する修験僧・円空の彫った神仏があべのハルカスに集合(4月7日まで)
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妖怪でも愛嬌あるキャラクターから人気の河童。しかし、本来、嫌なことをしでかす妖怪であり、もっと掘り下げた逸話を補遺々々すると、出るわ出るわ嫌な河童の話ーー ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!
河童は子供を溺れさせ、馬を水に引き込み、人の尻から手を突っ込んで尻子玉を抜くといった悪事を働く妖怪です。そんな残忍な行為をする化け物なのに、ゲームやアニメでは愛嬌のあるキャラクターとして描かれることが多いのはなぜでしょうか。
理由のひとつに、人間にこらしめられる話が多いというのもあるでしょう。
悪さをした河童が刀で手を切り落とされる話は各地に数え切れぬほどあります。河童は切った腕を返してもらうかわりに、二度としないという詫び証文を書かされ、秘伝の妙薬の作り方を人々に教えます。恩返しに魚をたくさんとってきてくれる話もあります。
河童に付属するその他の要素――角力が大好き、キュウリが大好物、頭に皿がある、その皿が割れたら力が出ない――などもキャラクターに面白みを与えています。
ただ、無数にある河童伝承の中には、河童を嫌いになりそうな話も少なくありません。
前回の「魔の風」に引き続き、鹿児島県川内地方の河童たちを紹介します。
飛脚をしている松田某という人がおりました。彼は鹿児島へ行く途中、串木野(県中西部)の手前にあった五反田橋付近で、河童と遭遇してしまいます。
河童は彼を見るなり、「角力をとろう」としつこく迫ってきました。
忙しい松田は「今は用事があるから帰りにとろう」と約束をしてこの場を去り、仕事を終えて帰る途中に再び橋付近にさしかかると、そこに河童が待っていました。
「さあ角力をとろう」とうるさいので、腰の刀を一閃、河童の首を落としてしまいます。
イラッとしたからだけではありません。
この土地では【ガラッパ角力】といって、一度、【ガラッパ(河童)】と角力をとると、勝っても次から次へと相手が出てきてキリがないのです。そうやって何日も角力の相手をしたために死んだ人もいます。勝つ見込みのない危険な勝負など受けることはできません。
河童の首を刀の先にさし、肩に担いで帰っていますと、他の河童たちが追ってきて、「仲間の首をもどしてくれ」と頼んできます。
でも松田はききません。無視して歩きつづけます。河童は鉄類に当たると体が腐るので、恐ろしくて刀の先にある首を奪うこともできませんでした。
こうして持って帰った河童の首は、桐の箱に入れて床の間に置かれていました。
それから1週間は河童たちが毎日毎晩やってきて、「仲間の首を返してくれ」と頼みに来ましたが、松田がまったく応じないでいると来なくなりました。
河童たちが仲間の首を返してもらいたかった理由はおそらく、河童は首を切られても1週間以内なら元どおりにくっつけることができたからでしょう。来なくなったのは、その期間を過ぎたからだと思われます。
その河童の首ですが、それからもずっと松田家に残っていたそうで、時には子供が床の間で遊んでいると頭痛で苦しめるといった祟りを起こしたそうです。
また、この家が火事になったとき、だれも運び出していないはずの河童の首の入った桐の箱が、ちゃんと庭に出ていたといいます。首だけになっても生きていたのでしょうか。
恥ずかしい祟りを起こす河童もおりました。
大小路というところに住む小牧利右衛門という人がある夜、白和という場所の土橋の上から小便をしました。
小便が落ちるあたりで、がさがさと物音がし、なんだろうと見ていると、小坊主がちょこちょこと陰に隠れるのを目撃します。河童だろうと判断しました。
その晩、帰って寝ていると、小牧利右衛門の睾丸が大きく腫れだしました。
「これは河童の祟りに違いない!」
すぐに山伏を呼んでみてもらったところ、「これは河童の祟りだ」というので、お祈りをしてもらったら睾丸の腫れは引いていったそうです。
山伏が少し胡散くさい気もしますが、この件はおしっこをかけられた河童の恨みということで片付いたようです。
河童は人とは相容れぬ化け物であると再確認できる、彼らの悍ましい性質を知ることになる次のような話があります。
串木野に住むある人が「今日はいい天気だから」と魚釣りに行きました。その人が向かった蕨越(ワラベゴチ)という場所は人家の少ないところで、いくら声をだしても人に聞こえないような寂しい場所でした。そこには小川が流れていて、上流には滝があります。
その蕨越へ行ったまま帰らないので、心配した知人が捜しにいきましたが、見つかりません。いったん帰り、大勢を連れて戻ってきましたが、それでもその日に不明者は見つからず。
やっと、見つかったのは翌朝でした。
川に近い小さな溝のなかに、落ちて亡くなっていたのです。
すぐに手輿(たごし)という前後ふたりずつで運ぶ乗り物を作り、死人を乗せて宿に連れていこうとしました。
その途中、どうも重くて仕方がありません。まるで死体の他にも、5、6人を乗せているように感じるほど重く、「ちょっと休もう」と煙草を吸ってからまた持ちあげると、今度は軽すぎる。人を乗せている感じもしないのです。
どうも怪しいと死人に触れてみると、みんなは「あっ」と驚きの声をあげます。
死人の下に血が流れていたのです。
4人は不安に駆られながら死人をなんとか宿まで運びました。
彼らの不思議な体験は、こう解釈されました。
途中で重くなったのは、手輿に載せた死人の血をとろうと河童どもが乗っていたからで、きっと担いでいる者たちを疲れさせようとしたのだろう、と。
みんなが煙草を吸っているあいだ、河童たちは死体の血を吸っていたというのです。
だから、血を吸われた死体は軽くなっていたのでしょう。
手輿を下ろした辺りは、河童の巣として知られていた場所だったそうです。
その場所は後に畑になったそうですが、家を建てると夜中に何者かが訪ねてきたり、庭に尿をしていかれたりといった怪異がよく起きたということです。
最後に、河童の無気味な「お礼」の話をご紹介します。
松下という家の下男が、川に馬を連れていったときのことです。
綱で馬を杭に繋ぐと、その杭は河童が化けたもので、馬はびっくりして走って逃げてしまいました。
綱で結ばれていた杭(河童)は、そのまま引っ張られていき、捕まって馬小屋の柱に縛られてしまいます。
河童は逃げようと一生懸命「ひーひー」と喚きます。その声が癪に触った下女は、河童に流しの水をぶっかけました。河童は頭に皿のようなものがあって、ここに水が溜まれば大変な力が出るといいます。このとき、下女のかけた流しの水が頭の皿にたまったため、河童は元気いっぱいになり、自分を縛っていた綱を自力で切って逃げてしまいました。
すると元旦の朝、松下家の台所に、血の滴る牛の首が置いてありました。
頭に水をかけて助けてくれた女中への、お礼だったようです。
参考資料
鹿児島県立川内中学校『川内地方を中心とせる郷土史と伝説』
(2022年5月3日記事を再掲載)
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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