「能登の猿鬼」は海洋民族だった!? 古代鬼戦争の記憶を紐解く現地紀行
能登半島に広く伝承される、鬼とも猿ともつかない異形の怪物「猿鬼」の伝説。神々に背き退治されたという強力な怪物の物語が生まれた背景には、日本海をこえて渡ってきた古代海洋民族の存在が、そして人間同士の交流
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今回は、「なんとなく知ってる動物だけど、昔の百科事典だと変な能力とか性質ついて解説されていいたりする」シリーズと銘打って、サルを含む毛深い獣人たちを補遺々々しました。ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!
9月24日は、世界ゴリラの日だそうです。1967年のこの日、ルワンダにゴリラの研究センターができたからだといいます。ゴリラのような毛深い人型の怪物は世界各地で目撃例があり、よく知られているのはヒマラヤのイエティ、アメリカのビッグフット、中国の野人(イェレン)など。日本国内でもっとも注目を浴びたのは【ヒバゴン】でしょう。1970年代、広島県比婆郡の山で目撃されて一躍、テレビや雑誌で話題となった有名な未確認動物ですが、なんと令和でも目撃されており、現在このUMAを題材にした映画の製作が進められているようです。なんでも『ムー』の関係者も出演されるとか……。
妖怪にも毛深い人型のものはたくさんあります。人身御供に娘を求める大猿や白猿が、旅人や弓の名手、天敵である犬に退治されるという伝説は各地に類話があります。山で目撃される異人にも毛深い姿のものがたくさんいます。
今回は、万物を絵入りで解説した百科事典『和漢三才図会』から、サルを含めた毛深いモノたちについてお話ししましょう。
『和漢三才図会』で猿のような動物は、〈寓類 怪類〉に分類されています。
まずは、【狒狒(ひひ)】です。
この動物は中国の西南部に棲息し、大きいものは1丈余(3メートル以上)。人面で、体型も人のようであり、肌は黒く、全身に毛が生えています。唇が長く、踵が反っているという身体特徴もあり、髪は結わないでそのまま下ろしているそうです。走るのが速く、人を見ると笑うといい、笑えば上唇がめくれあがって自分の目を覆います。明らかにサル類の行動ですが、これは人を食います……。
これと同じものかはわかりませんが、490年代に献上された雄と雌の2頭の【狒狒】は、やはり顔は人に似ますが紅赤色で、毛は獼猴(びこう。猿のこと)に似て、尾があります。恐ろしいことに大変な怪力を持ち、人を捕まえるとまず笑い、それから食べるのだそうです。
この時点でただのサルではありませんが、【狒狒】は霊的な獣として考えられていたようで、人の言葉をよく発し、その血を人が飲むと【鬼】を見ることができたといいます。
また【狒狒】は別名に、【人熊】【梟羊】【野人】がありますが、中国で目撃された未確認動物の【野人】と同一のものかは不明です。

【猩猩(しょうじょう)】を辞書で引くと、このように出てきます。
① 中国の想像上の怪獣。
② オランウータンのこと。
オランウータンはボルネオ・スマトラの森林に棲む哺乳類ですが、こちらで紹介するのは中国、ベトナムの山谷に棲む動物です。
よく群れをなす動物で、屈んだ姿勢で移動します。体毛は黄色、ほぼ人に似ており、その形は猿猴(えんこう)、つまりサルに似ています。顔と足は人のもので、髪は長く端正な面立ちをしており、『和漢三才図絵』の絵を見るとなかなかの美人です。人の要素もサルの要素も強い、人とサルのハーフ&ハーフといったところでしょうか。
声は小さな子どものようで、よく人の言葉を使いますが、はっきりとした発音の言葉ではなく、鸚鵡(オウム)のようだといいます。鸚鵡がする人間の声真似のような感じでしょうか。一説には、犬の吠えるような声で、人の言葉を発することはできないといいます。
喋れたとしても、饒舌というわけにはいかず、聞きづらい言葉だったのでしょう。
ところで、この動物はすごい超能力を持っています。
なんと、未来を予知することができるのです。
ある人が、酒と草履を道ばたに置くと、それを見た【猩猩】はその人の祖先の名を呼び、罵って去っていったと言います。
おそらく予知能力で、その酒と草履が自分を捕まえるための罠だとわかったのでしょう。だから、大好物なのに酒には手を出さず、怒って相手を罵り立ち去ったのです。
ところが、しばらくして仲間と一緒に戻ってきた【猩猩】は、置いてある酒を飲んで草履をはいたところで捕まったといいます。
せっかく予知したのに、誘惑には勝てなかったということでしょうか。なんだか、憎めなくて、かわいいヤツです。『嬉遊笑覧』によると、短編小説『照世盃』には、【猩々】を捕らえる物語があるとし、「酒に酔て足駄をはきて踊る処を捕る」という一文を記しています。酔ってご機嫌で踊っているところを捕まるなんて、やっぱりかわいいヤツです。
ちなみに、先の【狒狒】の血は飲んだ者に特別な力を与えましたが、この動物はその肉に特別な効能があるようで、食べれば飢えることがなくなるのだそうです。
オナガザルは、霊長目オナガザル科の総称です。
『本草綱目』では「獣部 寓怪類」に分類し、【果然】の字をあて、コウジュンと読ませています。
普通のサルより大きいもので、顔は白く、頬が黒。毛は長くて柔らかく、細くなめらかで、大変さわり心地が良さそうです。
身体より長い尾があり、尾の先は別れています。鼻の穴が上を向いているからでしょうか、雨が降ると尾で鼻をふさぐそうです。なるほど、そのために尾が分かれているのです。
【果然】は群れで行動しますが、彼らの暗黙のルールがあり、老いたものが前を歩き、幼いものは後ろを歩きます。食べものは奪い合うことなく、むしろ譲り合い、一緒にいるものは互いに愛し合います。
ここまででも、彼らがとても清く愛情深い動物であることがわかります。
ですが彼らの真の慈愛の精神がわかるのは、死に面した時です。仲間の死に対し、彼らは大きく心を動かすのです。
人が1匹の果然を捕まえれば、彼らは群れで集まってきて、鳴きながらついてくるといいます。捕まえた1匹を殺してしまっても、彼らは立ち去らず、ずっとついてくるそうです。
【果然】という名は、必ず思ったとおりに、捕らえられた仲間のところにやってくることからつけられたのだそうです。
仁譲孝慈——情が深く、年長者を敬い、若い世代を愛し、家族や仲間との絆を大切にする、そんな素晴らしい動物なのです。
ところでゴリラで妖怪といえば、妖怪好きな方ならすぐに【ゴリラ女房】が浮かんだこと思います。この話はまた、ゴリラの記念日にでもお話したいと思います。
【参考資料】
寺島良安『和漢三才図会』東洋文庫 平凡社〈1987―94〉
寺島良安『倭漢三才圖會』吉川弘文庫〈1906〉
喜多村筠庭『嬉遊笑覧』岩波書店〈2009〉

黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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