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誰かにとっては怖い幽霊も、ある人にとっては親しい懐かしい人。そういうこともありますが、でも本当に、それは〝ご本人〟ですか……?
墓地や神社、廃墟にトンネル、そして〝出る〟と噂の心霊スポット。そういった場所を訪れると何を見聞きしたわけでもないのにゾクッと背筋が冷たくなり、腕には鳥肌が粒立つ。この〝寒気〟は不安などからくる精神的なものもあれば、湿地や日陰といった場所の低気温がもたらす体感もあるだろう。もちろん、それだけではない場合もある。
Mさんは以前の勤め先の先輩が住むワンルームに足しげく通っていた時期があった。
「彼女は私のひとまわり年上なんですが、同世代みたいに話題が合うんです。歳の近い姉がいたらこんな関係だったかもなって」
敬語もいらない、変な気遣いも必要ないので思ったことはざっくばらんに話せる。大変居心地の良い友人だった。まだ残暑の厳しい9月の晩。いつものように仕事終わりに酒とつまみを買って先輩宅へいった。
「おっ、またいっぱい買ってきたね~」
「だって明日から連休だし。つか、さむっ。冷房ききすぎじゃない?」
先輩の部屋は冷蔵庫のなかのように冷えていた。
「え~、ちょうどいいよ。そんなに温度下げてないし」
「いやいや、キンキンに冷えてるって。あんた歳だから感覚にぶってんじゃない?」
と、エアコンの温度表示を見るが確かにそこまで下げてはいない。
「風邪ひいてるんじゃないの? どれどれ。んー、別に熱はないね」
Mさんの額から手をはなした先輩は、「あっ」と何かを思い出したような表情になる。
「じゃあ、おばあちゃんきたかなあ」
「えっ」とMさんは顔をしかめた。先週、先輩の祖母が亡くなっていたのだ。91歳、家族に看取られての大往生。先輩はずいぶんかわいがってもらっていたという。
「三姉妹の末っ子だからいちばん甘えさせてくれたんだよね。最近、通り魔とか物騒でしょ。わたしがひとり暮らししてるのが心配だったみたいだし。だから、きちゃったかな~」
何でもいえる関係といってもさすがに「こわいよ!」とはいえなかったが、Mさんはこの手の話が大の苦手で、どんなに温かい人情物語でも幽霊が出てくるなら見るのも聞くのも嫌だった。酔って忘れようとかなりのペースで飲んだが、この日に限ってなかなか酔えず、しかも先輩は早い段階でコロンと倒れて鼾をかきだした。
心なしか、さっきよりも部屋の温度が下がっている気もする。テレビのない部屋なので何かで気を紛らわせようと視線を巡らし、本棚に並ぶ少年漫画のコミックスに手を伸ばした。
「ひゃっ」と手を引いた。本棚の前が異様に冷たい。
もう一度手を伸ばす。やはり、ここだけ空気が冷たい。冷気の塊があるようだ。そのあたりを手でまさぐりながら(まさか、おばあちゃんが座ってるなんてことないよね)と考えたらぞくぞくしてきた。コミックスも取らずに手を引くと、Mさんは上半身の前面に異様な冷たさを覚えた。目の前の冷気が自分に覆いかぶさってきたような感覚だった。
そしてその瞬間、声を聞いた。「えあぁ」か「うわぁ」という、言葉になっていない人の声で「渋谷なんかで若い男がはしゃいでるみたいな」とても不快な声だったという。
少なくとも、おばあさんではなかったそうだ。
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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