「すずめの戸締まり」呪術的考察(1)土地神と人間の切ない交感はいかに描かれたか?
新海誠監督の最高傑作の呼び声も高い新作「すずめの戸締まり」。本作の基本テーマとして描かれるのは"土地鎮め(地鎮)"だ。 では、土地鎮めのプロフェッショナルは、本作をどう観るのか? 各地で地鎮を実践する
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月刊「ムー」でもおなじみの神仏探偵であり、神木探偵の本田不二雄氏が書く神木の世界。今回は、杉の大杉(高知県長岡郡大豊町)です。
ありえないモノを目の当たりにすると、人はたいてい、ア行の音声を漏らして絶句する。
何よりその大きさ。スギという見知った樹種の、見たことのないスケールの2柱(南大杉、北大杉という)が根元を同じくして天を衝いている。
大きさのみならず、筋張って凸凹した幹に、凄まじい樹肌の風合いに、いくつもの巨木が分岐したような枝に、見上げても頂が見えないその樹高に、驚きあきれ茫然自失となる。
この木は一体どれぐらいの歳月を生きてきたのだろう。
パンフレットには、「樹齢三〇〇〇年 日本一の大杉」と大書されている。3000 年の根拠は何かと思えば、どうやらスサノオ尊が植えたという伝承にあったらしい。科学的とはとてもいえない根拠だが、あえて「スサノオ尊が」とするのは、尊がこの国に最初にスギを植えたと伝わる『日本書紀』の記事(「乃(すなわち)鬚髯(ひげ)を抜き散らす。即ち杉と成る」巻一第八段一書第五)に対応するのかもしれない。
だとすれば、このスギは、神によってこの国に植えられた最初のスギだったのだろうか。
そんな、神話の時代にさかのぼる時間を体現する存在を前に、たかだか数十年のちっぽけな人間に何がいえるというだろう。
あえて言葉にすれば、「魂が抜かれるような体験」だったのかもしれない。そんな話をある知人としていたところ、「私の場合は、抜かれるというより、自分の魂があらわになった感覚でした」という。
建築デザイナーである彼女は、「『杉の大杉』に啓示のようなものを受けた」という。
「向こうから話しかけられたんです。メッセージがバシバシ入ってくる。それは脳が聞いているのか、体で感じたことなのか……私の場合、要は『根っこを伸ばせ』と。これまで私は枝葉を伸ばすことばかりあくせくしていた。でも、そうじゃないだろうって」
以来、彼女は建築士としての自分の使命をはっきりと自覚するようになったという。「結局、自分の無意識が出てきたんでしょうね。意識はしていなかったけれど、本当はこうしたい、こうありたいと思っているんだろうと」
ある種の巨樹と向き合うことは、ときに本来の自己と出会い、導きを得る神秘体験そのものだったりするのかもしれない。彼女はいう。
「木と“話せる”人はけっこういるし、その人、あると思います」
そのあたりはスピリチュアルな感性に乏しい筆者には何ともいえないが、巨樹が発する膨大な情報にふれることで、茫然自失することもあれば、そのヴァイブレーションと感応し、ある種の気づきを得ることもあるのだろう。特別な木が御神木として崇められる理由の一端はそのあたりにあるのかもしれない。
「実はもうひとつ(気づきが)あったんです」と彼女は告白する。
「そのとき、封印していた自分の性的衝動があふれてきてしまって……。どうにも興奮して、その日はまったく眠れませんでした。自分の内面が暴かれてしまったんですね」
筆者は以前、日本の民俗信仰とその術法を継承したという人から、「御神木に近づくと自分が丸裸にされる」という話を聞いたことがある。やや意味を推し測りかねる言葉だったが、要するに、千古の歴史を経てきた大先達(御神木)の前では、一切のごまかしは利かない、素の自分があらわになる、ということなのだろう。
「だから、『杉の大杉』に会うのは、覚悟したほうがいいかもしれませんね」
DATA
国指定特別天然記念物。樹齢3000 年(伝承)、幹
周り15.6m(南大杉)/ 11.4m(北大杉)、樹高
57m(南大杉)
住 所:高知県長岡郡大豊町杉794
アクセス:JR土讃線「大杉」下車、徒歩16 分、高知自動車道
大豊IC から車で5 分、駐車場あり
メ モ:境内拝観には、200 円(施設整備協力費)が必要。
大杉は「神代スギ」「夫婦スギ」の異名のほか、「出世杉」とも呼ばれる。
これは当時14 歳だった美空ひばりが願掛けをしたことにちなむ。
境内脇には美空ひばり遺影碑もあり。
立ち寄りスポット
奥大田渓谷(「杉の大杉」より車で30 分)、大歩危展望台(同35 分)
地球の歩き方「W24 日本の凄い神木 – 全都道府県250柱のヌシとそれを守る人に会いに行く」本田不二雄(著)より抜粋。
本田不二雄
ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。
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