尋常ではない数の“ミニ石祠”に秘められた人々の念とは? 千葉の「道祖神」密集地帯を行く!
この道25年、すべてを知る男による全国屈指の珍スポット紹介! 今回は千葉県北部の道祖神。尋常ではない数の石祠が奉納された驚異的光景の背景にある人々の思いとは?
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取材・文・写真=小嶋独観
珍スポ巡って25年の古参マニアによる全国屈指の“珍神社”紹介! 今回は茨城県行方市の山ゆり稲荷神社をレポート! およそ神社とは似つかない施設の内部とは……!?
霞ヶ浦と北浦に挟まれた茨城県行方市。その霞ヶ浦からやや内陸に入った台地に、西連寺という寺院がある。この寺は桓武天皇の勅願寺(天皇の発願により創建された寺院)であり、関東最古の銀杏の巨木がある事で地元でもよく知られている古刹だ。別件で霞ヶ浦に取材に来たのだが、折角なので寄ってみることにした。私は珍寺や珍スポットばかり巡っているわけではなく、普段はこうした古刹や名刹もちゃあんと参拝しているのだよ。
境内の銀杏や桜を見て、美しい仏堂や仏像などを堪能して清らかな気持ちになっていたのだが、どうしても入口にあった建物が気になって仕方がない。境内を散策していてもどうしても気になってしまって、結局途中で引き返してしまった。
その建物の外観。樹齢1200年の銀杏を観に来た観光客や参拝者も若干伏し目がちになってしまうであろうアナーキーな外観。これが国指定重要文化財である仁王門の目の前にあるのだ。凄くないですか? スマホの地図を確認してみると、山ゆり稲荷神社とある。そうか、神社なのか。
これは本当に神社……なのか? 思いっきりバーベキューというノボリが立ってますけど。しかしその奥には観音像や五重塔らしきものも見える。え? 神社なのに?
恐る恐る近づいてみる。焼き芋もやってるんだあ。かき氷、生ビール、ふむふむ。なかなか多角化経営をしていらっしゃる……って違~う! 私はここに神社があるというから来たのだ! 生ビールとかどうでもいいんだ! どうでも! いや、あればあったで頂戴するのはやぶさかではないが……。
入口の看板に「笠間稲荷神社から来た神様」と書かれている。そうか、笠間稲荷の末社なのか。
敷地内にそ~っとお邪魔してみると。オーナーのヤマダさんが開店(神社なのに?)の準備をしていた。挨拶をして中に入れてもらう。
赤い鳥居には確かに山ゆり稲荷神社とあるし、赤い太鼓橋の先には真っ赤な祠が建っている。確かに稲荷神社に間違いはなさそうだが……。
鳥居の手前には謎の生き物のオブジェが立っている。てっちゃんっていうのかあ。頭をなでると幸運が訪れるらしい。
後から見てみると、両手を身体の後ろに回してセルフハグをしているような恰好。あれ? でも正面からも手が見えた、ということは手が3本あるということなのか?
うむー。一体ココは何なんだろう? 神社と称するにはあまりにもフリーダム過ぎるじゃないか。テーブルとか並んでるし。余りのカオスっぷりにしばし呆然としていると背後からヤマダさんが説明してくれた。いわく、ここの施設は全てヤマダさんが独力で造り上げたのだという。神社部分だけでなく、建物全体を、である。聞けばかつては鹿島で技術者をされており、その後、建設業を営んでいたらしい。今は仕事を引退してこの店(?)を運営されているという。2階も見て行ってよ! と言われたので2階に上ってみる。
2階は見事なバーベキュー場であった。薄々感じていたが、つまりここはバーベキュー施設の中に神社がある、ということのようだ。
何といったらいいのだろう。ここはヤマダさんの頭の中に浮かんだ好きなものを片っ端から具現化したヤマダ式脳内楽園なのだ。
従って、この場において神社と観音とバーベキューは全てヤマダさんの脳内バロメーターにおいて等価なのだ。仏教が肉焼いて喰ってお稲荷さんにお参りしても、ヤマダさんの脳内で整合性が取れていればそれは誰も口出しできないのである。観音像の向こうには霞ヶ浦が蜃気楼のように見えていた。
下を見ると、ヤマダさんが開店の準備に勤しんでいた。その頭の中から湧き出てきたパラダイス、しかとこの眼に焼き付けさせていただきますぞ!
稲荷神社を上から見る。様々な立札が乱立しているのがお判りだろうか? どうやら縁結び関連の文言が並んでいるようだ。
再び下に降りて神社に近づいてみる。太鼓橋の袂には恋こい池コインを投げれば……とある。ちなみに逆サイドには恋こい橋ベルを鳴らせば……。
キツネの台座には「婚」の字が。
鉄骨のフレームのゲートの頂きには「結」の字がある。
五穀豊穣、夫婦円満、婚活成功など思いついた目出度そうな四字熟語が並んでいる。
キツネの何とも言えない表情。前掛けはヤマダさんが掛けたのだろう。
これが山ゆり稲荷神社の本社、ということになる。注連縄からぶら下がっているのはプラスチック製のチェーンだ。社の前に結界のように建つパイプからも黄色と黒のプラチェーンがぶら下がっている。ホームセンターで買ってきたのかな。基壇には山ゆりの写真が掲げられている。すっかり忘れていたが、ここのメインは山ゆりなのだ。この敷地の北面が斜面になっており、そこにたくさんの山ゆりが栽培されている。7月には山ゆりまつりが開催され、一応ここの施設の最大のイベントになるそうな。
祠の前の賽銭箱。お願いしますって。
で、この施設で一番目立っている観音像。東日本大震災で亡くなった方の冥福と復興を祈念して建立したとの事。入魂は西連寺の住職が行っている。倒壊防止のためか首に巻き付いたワイヤーが物々しい。
記念碑には鎮魂と復興を祈念する女神と記されていたのにいつの間にかオマタの神様になっちゃってるじゃないか! 一寸だけジーンとした俺が馬鹿だったよ。
五重塔の基壇にあった賽銭箱。書かなくてもいいのに、とも思うがこれがヤマダさんの親切心というか蛇足魂というか。まあ、そこがこの施設の魅力といえば魅力なんだろう。
壁に掛けられたミニギャラリー。あまり関連性はないようだ。
神社やバーベキュー場や山ゆり栽培を含めた全体の施設名は「なめがたの夢舞台」。山ゆり稲荷神社はこの施設の一部、ということ。
「チベットの仏像です」ってここに書かなくても……。
ヤマダさんに礼を言って立ち去ろうとしたら、詰所のプレハブ小屋の入口に暴走族や旧車会やバイクサークルのステッカーがたくさん貼られていた。ヤマダさんに聞くと「あぁ、何かああいう子たちはここが好きみたいでよく来るよ」と言っていた。恐るべしバイクネットワークの情報収集力。
最後に北側にある斜面を見てみる。今はほとんど何もないが、時期になると山ゆりがたくさん咲くのだろう。きっとテラス席やバーベキュー席などからは山ゆりがよく見えるのだろう。山ゆりと大勢の人たちに囲まれながら幸せそうな表情を浮かべるヤマダさん。そんな光景を勝手に夢想しながらこの地を後にするのであった。
小嶋独観
ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
珍寺大道場 http://chindera.com/
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