無数のカエルで埋め尽くされた高知「おみろく様」に驚愕! 秘められた物語と人々の願い、御本尊はどこに?

取材・文・写真=小嶋独観

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    珍スポ巡って25年の古参マニアによる全国屈指の“珍寺・珍神社”紹介! 今回は高知県土佐市の「おみろく様」をレポート。境内を埋め尽くすカエルたちには、ただのカワイイでは済まされない人々の切実な願いが宿っていた!

    神仏習合の霊場にまつわる逸話

     四国を代表する仁淀川。今や仁淀ブルーといわれるほど、透明度の高い清流として多くの観光客が訪れるスポットだ。そんな仁淀川の河口近くにある仁淀川大橋の近くに、こじんまりとした神社? お寺? がある。

     その名は「おみろく様」。正式には「弥勒大明神」という。弥勒で大明神? と疑問に思う方も多かろう。しかし、ここは民間信仰独特の神仏習合の霊場なので仏教とか神道とか細かいジャンル分けは全く意味を成さないのである。

     重要なのは、このおみろく様が近在の人々の篤い信仰を集めている事。その証拠に、とある奉納物が大量に納められているのだ。

     おみろく様の外観。鳥居が並んでおり、外からは神社風だ。背後には仁淀川の土手が見える。参拝後、土手から仁淀川を眺めてみたが河口まで5キロとは思えないほど透明度の高い水が流れていた。正に四国の秘宝といえる清流であった。記念碑によると明治32年の台風でこの辺りの堤が決壊した際、近在の人が堤近くで流された祠を発見し、個人的に倉の中で祭ったのだという。その後、信仰する人が増えてきたため昭和55年に近在の人々で氏子を組織し、運営するに至ったのだ。

     左右に鳥居があるが、左側の鳥居を見てみる。鳥居には愛媛県の人が奉納したと記されている。高知のローカルな民間信仰(そもそも個人的に祀られていた神様だし)かと思ったら、案外広い信仰圏を有していることが判り、チョットびっくりした。

     で、右側の鳥居を潜るとそこにはにわかに信じられない光景が飛び込んできた。さして広くない境内のかなりの部分が、カエルの人形に占拠されているのだ!

     いったい何がどうしてこうなったのか。まったく判らないままに、ただただ唖然とカエルの人形を眺めるばかり。中にはミニ鳥居まで奉納してある。ここが神仏習合、というより神でも仏でもどっちでもいい、いわばカエル教とも言うべき特殊な信仰の場なのだ。

     境内には幾つかの棚があり、そこにも溢れんばかりのカエルの人形や置物がうず高く積まれている。

     それにしてもカエルの人形やぬいぐるみ、置物にこんなに種類があるとは思わなかった。恐らく奉納されているカエルはほとんど既製品と思われる。中には手作りのぬいぐるみもチラホラあるが、ほとんどは街のファンシーショップなどで売っているようなものばかりだ。改めて世の中にたくさんのカエルグッズが流通していることを実感しましたよ。

    カエルに込められた人々の願いとは?

     なぜ、このようにカエルグッズがたくさん奉納されているのか? 実はこのおみろく様はイボに御利益がある神様とされているのだ。川から流れてきた社を倉で祭っていた頃、家族に「いびら」(土佐の方言でイボの事)が多く出ていたという。その時、倉に祭ってあった御神体から「仁淀川近くに祭って欲しい」とのお告げがあったので今の場所に社を造ったら、家族のイボが平癒したという言い伝えがある。その後、おみろく様は「いびらの神様」として人々の間に知れ渡るようになったのだという。

     陶器のカエルが大量に奉納されている。元々はこの陶器のカエルの奉納が多かったのだろう。イボ取りとイボガエルを引っ掛けて、イボが治った人が奉納したのがきっかけとされている。このような民間信仰の奉納物には深い意味はない場合が多い。ここのカエル奉納も最初は軽い駄洒落ノリだったと考えられる。

     棚にびっしり並んだカエルの置物。駄洒落だろうが何だろうが、イボに困っている人にとっては切実な思いを抱えている事には違いない。恐らく本当にイボに困った人が藁をも掴む思いでここに参拝に来たのだろう。

     カエルの群れを過ぎると祭壇のようなものが現れた。コレがかつて洪水で流れ着いた社なのだろうか。綺麗になっていたので作り直されたのだろう。

     祭壇の中には石像が祭られていた。コレがおみろく様なのか……と思ってよく見たら、阿弥陀って書いてあるじゃないの! 普通、祭壇があって石仏があったら名前からして絶対に弥勒菩薩が祭られていると思うじゃないですか。なのに、なぜ阿弥陀サマなの? 割り切れぬ思いで祭壇の前でしばし呆然とする。民間信仰、フリーダム過ぎるぞっ!

     祭壇の脇にはたくさんの赤い布が下がってていた。これも願いが叶った御礼に奉納されたものだろう。

     奉納されたカエルはどんどん増殖している。それにしても、同じカエルがほとんどないのが凄い。

     こちらもカエルのモッシュ状態。一応屋根は架かっているものの壁はないので、強い台風などが来たら吹き曝しになってしまうであろう。それでもぬいぐるみなどが腐食していない、ということは定期的にお焚き上げのような事をしているのだろうか? それともおみろくパワーで傷まないのだろうか?

     こうしてみていると、ある時期から日本のカエルグッズが茶色から緑色に変化していることがよくわかる。

     もともとイボガエルやウシガエルのような種類がメインだったのだろうが、今ではアマガエルなど緑色の種が人々のイメージするカエル像となったのだ。と同時にファンタジー色が強くなり、人々にカワイイ生き物と認識されるようになったのだ。

    難病から生還したお礼の手紙も多数!?

     ミニ鳥居の奉納。カエルグッズばかりが目立つが、先程の赤い布やこのミニ鳥居などオーソドックスな奉納物も残っているのは、カエルが奉納される以前はこのような奉納物がメインだったからだろう。

     一番奥には応接室のような休憩所のようなスペースがあった。

     その一画にはたくさんの手紙が貼られていた。「お披露目」とある。全国からの感謝の手紙なのだ。

     癌が治った御礼の手紙。今やおみろく様はイボだけでなく癌の神様としてもその名を馳せているのであった。確かにイボよりも癌の方が深刻な問題だ。してみると、ここにあるカエルグッズの多くは癌が治った御礼に奉納されたものなのだろうか?

     一見、ファンシーで微笑ましいカエルグッズの群れだが、その奥には真剣な願いが込められていたのかも知れない。と思うとカワイイカエルの表情も少し違って見えてくるから不思議だ。

     改めてうず高く積まれたカエルの山を見てみる。それにしても御本尊のおみろく様はどこにいるのだろう?

     もしかしてもしかしたら……このカエルグッズの山の中に埋もれていたりして……(個人の妄想です)

    小嶋独観

    ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
    珍寺大道場 http://chindera.com/

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