「死ぬために生きている人々」の死生観とは!? インドネシアのトラジャ族の墓と葬式を現地取材/小嶋独観
珍スポを追い求めて25年、日本と世界を渡り歩いた男によるインドネシア屈指の珍スポ紹介!
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取材・文・写真=小嶋独観
珍スポを追い求めて25年、日本と世界を渡り歩いた男がフィリピン・セブ島の「キャレータ墓地」で目撃! 現代フィリピン社会を象徴する光景とは?
フィリピン屈指のリゾート地、セブ島。数多くのビーチがありジンベイザメと一緒に泳げるアクティビティが人気のリゾート地だ。日本からも近いのでさぞかし日本人観光客で大賑わい、かと思ったら日本人の姿は少なく、観光客のほとんどが韓国人だった。
……そんなセブ島だが、中心街のセブシティに観光客はまず訪れないチョット変わった場所がある。それは市の中心部にあるキャレータ墓地。巨大ショッピングモールであるアラヤセンターやSMシティからもほど近い好立地だ。
ここが変わっているのは「墓地なのに人が住んでいる」という点。
一体どういうことなのか? 墓地に家が建っているのか? 詳細を確かめにキャレータ墓地に向かった。地図で見ると墓地はかなり広いようだ。面積は東京ドーム1個分。
墓地の前の大通りは、市街地だけに交通量が多い。
そんな通りに面して、石板?がズラリと並んでいるではないか。
見ればすべて墓石だった。
お。バスケ界のスーパースターで2020年に事故死したコービー・ブライアントの墓石があるじゃないか! ……もちろんここにコービーが眠っている訳ではない。いわゆるサンプル品だ。ホラ、表札屋さんで「徳川家康」とか彫ってあったりするじゃないですか? アレと一緒です。
ちなみにフィリピンで一番人気のあるスポーツは、ダントツでバスケットボールなのだ。この辺、サッカー、特にプレミアリーグが人気の他の東南アジア諸国とは違ったアメリカナイズされた歴史を持つ国なんですねー。
もちろんキングオブポップ、マイケル・ジャクソンもいらっしゃいます。
そしてアジアを代表する有名人と言えばこの方、ブルース・リー。ブルースとイエスのツーショットが眩しい。筆者にしてみればブルース・リーの方が「神様」なんですけど。
もちろんこれから「出荷」されるリアルな墓石もたくさんある。故人の写真と、イエスとマリアのスリーショット。
こちらの神様はサントニーニョ。キリストの幼い頃の姿で、特にセブでは最古の教会がサントニーニョを祀る教会なので、その信仰は非常に盛んである。
墓石が並ぶストリートで新しい墓石を刻んでいる職人さんがいた。作業を少し見学させてもらった。
で、いよいよ墓地の入口である。入口前はバス停になっており、ひっきりなしにローカルのバスやミニバスなどが発着している。そして花やロウソクを売る店が並んでいる。
で、中に入ってみる。
あれ? お墓がない。通りにはバイクが停まっており、ごくごく普通のセブっぽい街並みだ。若干衛生状態は悪そうだが。
さらに進んでいくと人口密度は増えてくるが、お墓が見当たらない。ただし、道の舗装は剝れ、水たまりが増えてきて道路がグチャグチャになってきた。いわゆるスラムっぽい感じだ。さらに進むと、だんだん生活感が濃密になってくる。
ああ、これがお墓なのかあ。生活用品や洗濯物に埋もれて判らなかったよ……!
あっ! そうか! さっきの墓地の入口からここまで歩いてきて全然気付かなかったが、通りに面した建物、これ全部お墓だったのかー!
改めて見てみると、三角屋根の建物の中には遺体を納める龕のようなものがある。
その龕をベッドにしたりテーブルにして生活しているのだ。
あまりにもあっけらかんと生活しているので、お墓であることすら気付かなかったぞ。
なぜこのような現象が起こっているのか? ……それはこの国の悲しい現実と密接に関わっているのだ。
この国の貧富の差は激しい。ビーチリゾートでくつろぐ外国人や富裕層がいる一方で、最貧困層の人々は住む家すらままならない。そこで、家のない人々は墓地にある家形の墓に住むことになる。
これは不法占拠ではなく、墓の持ち主も容認しているようで、住まわせてもらっている代わりに墓参りの時は墓を掃除しておく決まりになっている、という。
しかし、見たところどう考えても片付けられないだろ、という状況の墓などもあり、実際のところどうなっているのかよく判らない。
この日は天気が良かったのであちこちで洗濯物が干されていた。
ちなみに、この墓地の住居は人口密度が高いので、日中歩いていてもさほど危険な感じはないが(あくまでも本人の感想です。地元の人などは危険なので絶対に行かないように! と言っていることをお含みおきくださいませ)、夜は犯罪者や麻薬組織も跋扈しているようなので、相当デンジャラスなようだ。
延々と続く墓。全ての墓に人が住んでいるわけではない。
入口の近くは結構な確率で住居に転用されていたが、奥の方になると住んでいる人もまばらだ。
やはり治安の事を考えたら、ポツンと離れたところに住むのは危険なんだろう。あと、入口の方は電線から(違法か合法化は知らないが)分電して電気を引っ張ってきている家が多かったが、奥の方は電線が来ていないので電気ナシの生活をしていると思われる。
さらに墓地の中を飲料水のタンクを卸している水屋さんが巡回している光景が印象的だった。
この墓地の住民の多くは、ロウソクを作って売っているという。墓参りに訪れた人々が捧げたロウソクの燃えカスを集めて固めて再利用している。現在、この墓地では様々な団体が住民の生活を助けるべく活動している。特に子どもの教育環境は深刻で、学校に行けない子どもを集めて私設スクールを開いたりしている。
家形の墓が並ぶエリアを過ぎると、ロッカー型の集合墓地が並ぶ。こちらの墓地の方がセブ島では一般的なようだ。
先ほど、道で見かけた平板状の墓石はここの蓋として使用されているのだ。
家形の墓はロッカー式墓地の数倍の大きさを使っている。つまり、それだけ裕福な人が入手しているのだろう。
棺一個分のスペースしか手に入れられない人、その何倍ものスペースを確保できる人、住む家さえなく、その墓に住んでいる人……。フィリピン社会を象徴する光景だった。
ただ、死者と共に生きる人たちの表情は決して暗いばかりではなかった。そこに暮らす子どもたちの屈託のない笑顔には救われましたよ。
小嶋独観
ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
珍寺大道場 http://chindera.com/
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