ツチノコを追う9年間で再発見した、怪蛇の幻と自分自身の記憶…ドキュメンタリー映画「おらが村のツチノコ騒動記」
幻の怪蛇ツチノコを追うドキュメンタリー映画が5月18日公開! ツチノコの村出身の監督が捕まえたものとは一体なんだったのか?
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UMAをはじめ、動物、昆虫から妖怪、中国の古典に至るまで、さまざまな分野の著書を持ち、日本における動物研究に大きな影響を与えたレジェンドの実像に迫る。
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今さらあらためて述べるまでもないが、「UMA 」とはUnidentified Mysterious Animals」の略で、「この地球上のどこかに、たぶん、いると思われるのだが、標本という実体(証拠)がないので、まだ、いるとはいえない動物」(『UMA EMA読本』より)、つまり未確認動物を意味する和製英語である。
日本生まれのこの言葉は、今では世界にも浸透しつつあり、さほど超常現象に関心のない一般の人々までもが、見知らぬ奇妙な動物を見たときにこの言葉を口にする。UMAに分類される動物の数は年を追うごとに増加し、テレビ番組でもしばしば特集が組まれるほどになっている。
こうした状況も結局は、實吉達郎氏が1976年にスポニチ出版から出した『UMA謎の未確認動物』という一冊の本に始まるといってよいだろう。つまり實吉氏こそ日本で、いや世界で初めてUMAという言葉を公にし、世間に広めた張本人である。
UMAという言葉がこうして何十年も生き残り、広まった背景として、實吉氏本人は「それまでは目撃はされているが確認されていない動物についてふさわしい名称がなかったところ、私が名案を出したので、それで通るようになったのではないだろうか」と述べる。「ユーマ」という響きそのものも、何かしらミステリアスで、それでいて発音しやすいことも、世人の口に頻繁に登場する原因となっているのではないだろうか。
(↑昔から世界各地でたくさんの未確認動物が目撃されてきたが、「UMA」という名前を与えられたことで、一気に身近な存在になったといえる。)
また、實吉氏は最近では「EMA(Extinct Mysterious Animals)」という新しい言葉も提唱している。これは「絶滅したことになっているが、生存説もある動物たち」を意味する言葉で、ニホンオオカミやマンモスなど、従来はUMAの一種とされていた動物たちがこれに該当する。
本誌との関係では、實吉氏は早くも創刊第3号にあたる1980年3月号に「古代ロマン巨人伝説」と題する特集記事をひっさげて登場し、世界中の巨人伝説について解説している。
続く第4号の特集記事「ムー恐怖館狼男」は、実在した狼男だけでなく、アフリカや南米に伝わる、ライオンやジャガーに変身する人間についても触れている。その後も動物に関するミステリアスな話を何度も掲載しているが、こうした記事を見るだけでも、實吉氏の関心がUMAだけにとどまらないことは明らかだろう。
動物学を専門としながら、他のさまざまな分野にも通じる實吉氏は、これまで何十冊もの著書を執筆しているが、その中でUMAという言葉をタイトルに含むものは、意外にも『UMA謎の未確認動物』『UMA解体新書』『UMA EMA読本』、それに『タブー討論このUMAは実在する!?』の4冊だけのようだ。
もっとも、タイトルにUMAという文字こそ使ってはいないが、『謎の雪男追跡』は代表的なUMAであるヒマラヤの雪男に関するものであり、『世界のもう獣と怪獣』や『世界の怪動物99の謎』にも、UMAとされる動物が多数掲載されている。『世界空想動物記』や『中国妖怪人物事典』『妖怪大百科元祖』は主として妖怪を扱ってはいるが、妖怪の中には最近UMAに分類されるものも多く、これらも関連図書といえなくもない。 實吉氏の著作において大部分を占めるのは、やはり本来の専門である動物学関係のものであるが、1971年の『クルングの冒険』や、1973年の『大氷河は去った』は少年小説であるし、日本シャーロック・ホームズ・クラブ所属のシャーロキアンとして推理小説にも造詣が深く、ホームズ関係の著書も何冊かある。
中国の古典に関しても、『豪傑水滸伝』や『封神演義大全』など何冊も著書があり、『三国志V 武将ファイル』などは、コーエーから発売されたコンピューターゲーム「三国志V」のキャラクター解説書となっている。
かと思えば、1966年の『王妃物語』は、木花咲耶媛やトロイのヘレナなど、古今東西の神話や伝説、歴史の中から、奇体な運命に翻弄された高貴な女性たちを網羅し、『本朝美少年録』に至っては、実在した森蘭丸や天草四郎から、お嬢吉三や弁天小僧菊之助といった架空の人物まで、日本で知られた美少年について、男色にも触れつつ論じるという奇書でもある。
このように實吉氏の関心は、UMAや動物に限定されるものではない。つまり實吉氏は、自らの好奇心に導かれてさまざまな分野に関心を抱き、いったん興味を持った事象については関連事項を掘りさげ、関係書を読みあさり、徹底的に探求していく“知の巨人”なのである。
今回、ムー編集部は實吉氏本人に直接面談し、貴重な話をいろいろとうかがってきた。そうした取材の成果も交えて、次項から“UMAの父”實吉達郎の全貌に迫ってみる。
まずはそのルーツ、ファミリーヒストリーから話を始めたい。本人はほとんど口にすることはないが、實吉氏の一族は、じつは天皇家にも誼を通じるかなりな上流家庭だったりする。その實吉家の隆盛は祖父・安純に始まる。
安純は、嘉永元(1848)年、薩摩藩士実吉安福の次男に産まれた。薩摩藩といえば、長州藩と並んで明治維新の中核となった雄藩であり、戊辰戦争でも長州藩や土佐藩と並んで、薩摩藩が新政府軍の中核をなした。
維新の十傑に数えられる西郷隆盛と大久保利通、それに小松帯刀はいずれも薩摩藩士であった。他にも第2代内閣総理大臣となった黒田清隆、第4代および第6代内閣総理大臣の松方正義、初代陸軍大臣の大山巌、大警視(現在の警視総監)の川路利良など、明治新政府で要職を占める人物の多くが薩摩藩出身者である。
安純も薩摩藩士として、19歳で戊辰戦争に従軍している。その後は医学を志して、明治2(1869)年6月に、まず私塾の順天堂に入塾、東京大学医学部の母体となる大学東校が設立されるとこちらに移って研鑽に励んだ。
明治4(1872)年からは海軍軍医として海軍病院で勤務を始め、明治9(1876)年に大軍医に昇進、明治12(1879)年からはイギリスに留学するなど、順調にキャリアを重ねるとともに、日清戦争や日露戦争にも軍医として従軍した。そうした功績が認められて明治33(1900)年に男爵、明治40(1907)年には子爵を叙爵され、貴族院議員も務めた。
安純のように、江戸時代の公家や大名家出身ではなく、国家に対する貢献を認められて華族に叙せられた者は勲功華族、あるいは新華族とも呼ばれるが、幾多の勲功華族の中でも實吉家の人脈は相当華麗なもので、安純の子どもたちもさまざまな分野で名を残している。
昭和22(1947)年に華族制度が廃止されるまで子爵位を引き継ぎ、貴族院議員も務めていた長男の純郎も父・安純と同じく医者となり、東京慈恵会医科大学教授や同会医院次長、同内科部長、医薬制度調査会委員などを務めた。
安純の次男・敏郎は海軍大佐となり、昭和17(1942)年には上海におけるユダヤ政策を担当する上海海軍武官府特別調査部部長を務めた。
五男・雅郎は実業家となり、日本揮発油株式会社(現在の日揮ホールディングス)の初代社長を務め、六男・捷郎はトーマス・マンなどの日本への紹介に功績のあったドイツ文学者である。實吉氏の父である八男・金郎は東京帝国大学を卒業後、海軍の航空機技師となった。父やその兄弟たちについて、實吉氏自身は「みんな優秀なのが揃っていてかなわない」と苦笑する。
さらにこうした兄弟の結婚相手が、名にし負う名家の出身者ばかりなのである。次男・敏郎の妻は、文化勲章も受章した、日本を代表する小説家のひとり、志賀直哉の腹違いの妹・英子である。
五男・雅郎の結婚相手は、日本揮発油株式会社設立時の会長である島徳蔵の長女・富であるが、この富の妹・光の嫁ぎ先が、経済企画庁長官も務めた政治家の野田卯一である。そして、卯一の孫娘に生まれ、のちに養女となったのが、初の女性首相候補としてしばしば名の挙がる衆議院議員の野田聖子である。
六男・捷郎は日野資秀伯爵家に婿入りし、一時期日野伯爵家を継いでいた。岳父である日野資秀は、鎌倉時代から続く藤原北家日野家の分流にあたる柳原家の第21代当主・柳原光愛の実子であり、実の姉の柳原愛子は明治天皇の側室のひとりとなり、大正天皇を産み落としている。
さらに、安純の次女・ユリの夫である実業家・山田武雄は、やはり薩摩藩出身で維新三傑のひとり、大久保利通の妹・スマの孫にあたる。
つまり實吉家は、天皇家や大久保利通の家系にも連なり、野田聖子議員とも縁続きになるのだ。また、大久保利通の孫娘を娶った吉田茂や、利通の玄孫にあたる麻生太郎元内閣総理大臣とも遠縁という、目を見張るほどハイソな一族なのである。
實吉安純子爵の孫にあたる實吉氏は昭和4(1929)年、父・金郎の勤務地である広島県呉に生まれた。しかし、当時の華族の子弟の常として、幼稚園から東京の学習院に通った。
当時の女子学院幼稚園は、女子学習院に付属しており、明治天皇の皇后である昭憲皇太后自身のお声がかりで設立されたものだ。皇太后自身も、自らが設立したという自負があるのか、比較的足繁く視察に訪れたという。
もちろん實吉氏もそのお姿を何度も拝見したというが、まだ幼かったこともあり、皇太后については「柄つきの片眼鏡をかけた、なんだかこわい人」という印象しかなかったようだ。
(月刊ムー 2024年9月号)
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