赤ちゃんに唾を吐き、新郎新婦に排泄を禁じ、少女に鍋を被せ…! 話題の古書店主が語る世界各地の奇祭

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    遺体を掘り起こしてみんなで踊る

    ――今回は藤井さんから“世界の奇習”をご紹介いただきます。

    藤井慎二(以下、藤井)  まず、入門書として『世界の奇習と奇祭:150の不思議な伝統行事から命がけの通過儀礼まで』(原書房)という本をご紹介します。

    『世界の奇習と奇祭:150の不思議な伝統行事から命がけの通過儀礼まで』(原書房)

     最近の書籍のため、書店で手に入りやすく、内容も興味深いです。生まれたばかりの赤ちゃんの幸運を祈り、赤ちゃんの顔に唾を吐きかけて悪魔を遠ざけるギリシャの奇習などが紹介されています。

    ――さっそく驚きの風習ですね。

    藤井  新郎・新婦に三日三晩排泄を禁じるという東南アジア・ボルネオ島の奇習も面白いですよ。花嫁と花婿の両方が排泄を72時間我慢できなかった場合、不妊や幼児の死亡、離婚といった恐ろしいことが起きると信じられているそうです。

    ――願掛けなのでしょうけど、3日間はハードすぎです。私は頻尿気味なので、半日で離婚の危機です。

    藤井  また、死に関する奇習も豊富です。数百年前から続くマダガスカルの風習には、埋葬されていた遺体を掘り起こして、新しい綺麗な服を着せたり、香水を振り掛けたりして、死者と一緒に踊る奇習があるようです。

    ファマディハナの光景 画像は「Wikipedia」より引用

    ――「ファマディハナ」という儀式ですね。遺体を掘り起こして感染症など大丈夫なのだろうかと思っていたら、やはりペスト感染のリスクがあるようです。ちなみに、この本では日本の事例も紹介されているのですか?

    藤井  もちろん。日本の即身仏が取り上げられていますね。

    ――即身仏は全国に20体もいないので、かなり稀な風習だと思いますけどね……。

    “風紀の乱れ”を案じて始まった滋賀の奇祭

    『日本の奇祭』(青弓社)

    藤井  次にご紹介するのが『日本の奇祭』(青弓社)という書籍です。特に興味深いのが、滋賀県・筑摩神社の「鍋冠まつり(なべかんむりまつり)」です。

    ――数え年で8つの少女8人が、狩衣姿に張子の鍋を被って、数百人の行列と一緒に歩くお祭りです。お鍋を被った女の子の行列はかわいらしいですね。

    画像は「米原市」より引用

    藤井  起源には諸説あるようですが、本書によると、もとは女性が交わった男性の数だけ鍋をかぶって街の通りを歩くというお祭りだったそうです。

    ――どうして、そんなことを……。

    藤井  平安時代から行われていたようです。この地域の風紀が乱れているとされ、女性の不倫を戒めるとの理由から始まったとか。

    ――ひどい話だ……。プライバシーもへったくれもない。

    藤井  本書には、かつてこの祭りが未婚の女性に「かなりのプレッシャーをかけていたことがわかる」という記載があります。ある女性は実際より少ない数の鍋を頭に乗せ、行列に加わったところ神罰が当たり、鍋が破れて落ち村人の笑い物になったと……。しかも、恥ずかしさのあまり池に飛び込んで、この女性は亡くなってしまったという逸話もあるそうです。

    ――神罰、ですか……。

    藤井  最終的には同地の藩主が「不幸な者を見せしめにするような祭りは、神の心ではない」として禁じたそうですが、村人たちが「鍋冠りがなくなるのは寂しい」と願い出て、「七つ八つの幼女ならばよかろう」という許しが出ました。以来、幼女たちが街を練り歩く祭りになったようです。

    とにかく“痛い”奇祭も

    『アジアの奇祭』(青弓社)

    ――ちなみに、海外の奇祭にフォーカスした書籍もあるのでしょうか?

    藤井  『アジアの奇祭』(青弓社)では、「グッドフライデー」というフィリピンの祭りが紹介されています。イエス・キリストが十字架に磔にされたといわれている聖金曜日(復活祭前の金曜日)に、男性の手に本物の釘を刺し、磔にする儀式が行われるお祭りです。

    ――なぜ、そんな痛そうなことを!?

    藤井  本書では、家族の病気を治してほしいという願いを込め、自ら磔にされた男性が紹介されています。手に打ちこまれた釘が抜かれると血が噴き出し、消毒液を大量に振りかけられたものの、止血用の脱脂綿を握らされて包帯が4〜5回巻かれただけだった……と記述されています。

    ――ひいっ……。奇祭は奇祭でも痛みが伴うのはキツいですね。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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