水中や空気中から生物のDNAを採取できる話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2024年6月号、第482回目の内容です。

    ドラキュラ王朝

    「正体を明かせば、私は実在したあの吸血鬼ドラキュラのはるか遠い親戚に当たるんですよ」
     イギリスの現国王チャールズ3世(ウィンザー朝第5代君主)はとある宮殿レセプションで、招待客の中にいた近作映画『ドラキュラZERO』でドラキュラ伯爵を演じた俳優のルーク・エヴァンスに、真顔で打ち明けた。
     実際そのとおり、英国の作家ブラム・ストーカーの怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』(1897年刊)のモデルとなった15世紀ワラキア公国の君主〝串刺し公〟ヴラド3世は、チャールズ3世のいとこのはとこの……ざっと16代も遠く離れた縁戚に当たるという。
     ちなみに〝串刺し公〟の異名はオスマントルコ軍との戦いで敵兵2万人を串刺しにしたとの逸話からだが、真偽の程は定かでない。
     実際チャールズ3世の血筋を遡れば、ウィンザー朝を開いたジョージ5世の妻でチャールズ3世の曾祖母にあたるメアリー王妃を経て、ヴラド3世の異母兄弟ヴラド4世に突き当たるとか。
     そういわれてみれば、確かにイギリス王室は〝ドラキュラ王朝〟と称してもおかしくないかも?

    ナチスサンタ

     ドイツ・ツヴィッカウ市の警察は、いわゆる〝ナチスサンタ〟の扮装をした39歳の男を逮捕した。
     男は鉤十字を飾りつけた樅の木や暦やナチス軍服の胸像などを生産する工房を開業していた。
     ドイツでは現在、いかなるナチス関連商品の生産や売買も、法律で厳しく禁止されている。

    カナダ罪

     地元民の私有地を区切る木製フェンスの柱数本を盗んだ窃盗犯について捜査していたカナダのポーキュパインプレイン警察は、それがビーバーたちが川に作ったダムに使用されているのを発見した。
     同警察のスポークスパーソンはこの窃盗事件を評して――
    「きわめてカナダらしい、といえばカナダらしい犯罪ですね」

    火遊び

     フィンランドのスルンティオでヤンネ・ポロネン氏(仮名)が庭にいる蛇を退治しようとして、まずガソリンをぶっかけてから、火を点けようとした。
     ところが、作動中の自動芝刈り機にも火が点いて芝生にまで燃え広がり、ついには木造の母屋にまで延焼して焼け落ちてしまった。

    空中DNA

     生物学に最近〝環境DNA学〟と呼ばれる新たな分野が、どうやら誕生したようだ。
     世界で初めて環境DNAに着目したのは、フランスのグルノーブル・アルプス大の研究チームで、2008年に論文を発表し、ウシガエルのオタマジャクシが水中に存在さえしていれば、たとえ姿は見えなくても〝生命体の設計図〟とされるそのDNAの破片、つまり環境DNAが流出するとした。
     そして目には見えないほどの微量でも環境DNAが水中から発見できれば、ウシガエルの存在が証明されると主張したのだ。
     生物の細胞由来のDNAが、河川や湖沼の淡水や海中の塩水から見つかれば、たとえいくら微量でもその塩基配列を超高速で解読する先端装置を使って解析できる。
     例えば、琵琶湖の淡水や瀬戸内海の塩水を、それぞれバケツ1杯汲み上げて分析すれば、琵琶湖と瀬戸内海に棲息する全魚種がそれぞれ判明するのだ。場合によっては、思いがけず新種発見というオマケがつくかもしれない。
     だが、話はこれだけでは終わらない。まだその先があるのだ。
     日本からは遥か遠い北欧の国デンマークと、イギリス及びカナダに拠点を置くそれぞれ独立した2チームに、話は飛ぶ。
     デンマークはコペンハーゲン大学グローブ研究所のクリスティーナ・ボフマン准教授のチームは、コペンハーゲン動物園内で、なんと水中ではなく空気中から採取したごく微量の環境DNAを解析して、哺乳類30種を含む脊椎動物49種を検出することに成功した、と2022年1月に発表した。
     ただ空気中では水中に比べて環境DNAが希釈されるため、観測の難度がだいぶ高くなるという。
     ホフマン准教授は発表した声明の中で、次のように振り返る。
    「研究結果を見たときには驚いた。わずか40のサンプルから、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類を含む49種が検出されたのだから!」
     コペンハーゲン大チームは、巨大なファン(送風機)を使って動物園や周辺の空気を吸い込み、フィルターにかけてDNAを抽出する方法を採用した。こうした空気の中には呼気や唾液、羽毛、体毛、空中を浮遊するあらゆる微小物質由来のDNAが含まれている可能性があるからだ。
     一方、イギリス・カナダ共同チームの発表論文の筆頭著者、英ヨーク大の生物学者エリザベス・クレア助教によると、イギリスのハマートン動物園内で調査に当たったチームは、トラやライオン、キツネザル、ディンゴを含む25種の動物の環境DNAを、空気中から検出することに成功した。
     クレア助教は説明する。
    「実験地点から数百メートル離れた場所にいる動物でも、大幅な濃度低下なしに空中から、環境DNAを収集して特定することに成功した。密閉された建物からでも屋内の動物のDNAは外に漏れ出るので、問題なく採取できた」
     再び話を日本に戻せば、つくば遺伝子研究所と広島大生物学部、広島市安佐動物公園の3者が共同して、昨年、北日本で過去最悪の人身被害をもたらしたツキノワグマの存在確認と行動予測を、環境DNAの新顔、空中DNAの採取と追跡によって未然に防ぐ画期的なプロジェクトを計画している。

    シン・ジョーズ

     ブラジルのジャボアタオドスグアララペスのプレダデビーチでへべれけに酔っ払ったマルセロ・ロチャ・サントスさん(53歳)は、いくら捜してもトイレが見つからないので、やむなく胸の高さまで海中に入ってから用を足した。
     だが、その直後に獰猛なホオジロザメに襲われ、同ビーチにおけるジョーズの13人目(まさに不吉な!)の犠牲者となってしまった。

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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