偶然か予見か?『13月の悲劇』のシンクロニシティ/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

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    「私が見た未来」(たつき諒)よりも前に、予言のような漫画が描かれていた……? 映画『サスペリア』『フェノミナ』に先行した『13月の悲劇』は予知漫画だったのか?

    半世紀前に描かれた少女マンガの「謎」

     美内すずえといえば、いまだ未完の大作『ガラスの仮面』、あるいは「ムー」の読者なら、まっさきに『宇宙神霊記』を思い浮かべるかも知れない。僕と同世代なら、70年代少女たちを震撼させた実話系心霊譚の傑作『白い影法師』が忘れられない、という人もいるだろう。しかし僕が昔から気になっているのは、彼女がキャリア初期に手掛けたホラーマンガ『13月の悲劇』だ。
     以前にこれについて少しだけ自著に書いたことがあり、そのときもあれこれ調べたのだが、「謎」はまったく解けなかった。今回もまた新たな資料にあたってみたものの やはり「謎」は「謎」のままである。結論のない文章になってしまうが、ともかくこのモヤモヤについて書いてみたい。

    『13月の悲劇』は、こんなストーリーだ。
     世界的映画スターを父に持つアメリカ人の少女「マリー」が、著名人や有力者の娘ばかりが集まるイギリスの全寮制の学校、「聖バラ十字学園」にやってくる。異様なほど厳格で閉鎖的な校風に違和感を覚えた彼女は、危険を冒して学園の裏側を調べ、ついにおぞましい秘密を暴きだす。この学園は「悪魔崇拝者」の巣窟であり、教師たちはすべて邪悪な「魔女」だった。彼女たちは「ルシファー」をあがめる儀式のために、学園の子どもたちを生贄に供していたのだ……

    『サスペリア』のパクリじゃないか!

     映画好きなら誰でもそう思うだろう。さらに、同じダリオ・アルジェント監督の『フェノミナ』の要素も大胆に取り入れられている。
     言うまでもなく、『サスペリア』と『フェノミナ』は70~80年代に世界中のホラーファンを湧かせたイタリアンホラーを象徴する作品であり、その騎手だったダリオ・アルジェントの代表作だ。もちろん日本でも両作はヒットし、ホラーファンだけでなく、当時の子どもたちの多くもテレビなどで目にしている。
     全編が極彩色の悪夢のような『サスペリア』はその後のホラー映画に多大な影響を与え、近年はリメイクも作られた。公開時は「決して一人では見ないでください……」という宣伝文句が流行語となり、ドリフターズのテレビ番組でパロディとして用いられて子どもたちにウケまくった。また、冒頭のシーンに心霊が写り込んでいるという噂は(実際にはフェイクなのだが)、当時から今に至るまで繰り返し語り草になっている。
     一方、『フェノミナ』は一般公開前に、第1回東京国際ファンタスティック映画祭のオープニング作品としてお披露目された。僕ら世代の若者たちに主演の超絶美少女、ジェニファー・コネリーの名を広く知らしめ、当時の映画雑誌は彼女のピンナップやポスターをこぞって付録に付けた。これが映画初主演だった子役同然のジェニファーに、常軌を逸した体当たり演技をさせるアルジェントの手法も観客の度肝を抜き、彼特有の「変態的サディスティック演出」を決定づけることになる。

     これはまったくの余談だが、本作は劇場公開時、バイノーラル録音されたサウンドトラックをヘッドフォンで楽しめるシステムが採用されていた。公開前から「驚異のクランキーサウンド!」などと盛んに宣伝されたが、これが技術的な問題でうまく機能せず、企画倒れの大失敗に終わったことも話題になった。

     この2つの映画を見ているのであれば、『13月の悲劇』はアルジェントの代表作からストーリーの構成要素を「いいとこどり」し、うまく組み合わせてでっちあげた作品としか思えないはずだ。大ヒット映画を昭和のマンガが丸パクリするのは珍しくもない話だが、しかし、この場合はまったく事情が違うのである。
     『サスペリア』は1977年、『フェノミナ』は85年の公開。『13月の悲劇』はなんと71年の作品なのである。では類似が単なる偶然なのかというと、僕にはとてもそうは思えない。

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    『13月の悲劇』(美内すずえ・作/1973年/集英社)。初出は71年の『別冊マーガレット』。本作の魔術学校は薔薇十字団をモデルにしており、作中でも団の創設者クリスチャン・ローゼンクロイツについて解説されている(完全に「邪悪なサタニスト」として悪役設定されてしまっているが)。 

    あまりにも多い不思議な類似点

     少々細かい話になってしまうが、この『13月の悲劇』と、その6年後、そして14年後に公開されるアルジェント映画の2作品の類似点を列挙してみる。
     まず、アメリカ娘のヒロインが欧州の魔女学校に預けられてしまうという物語の骨子、これは言うまでもなく『サスペリア』の基本設定そのものだ。また、「魔女学校」ではないが、『フェノミナ』もアメリカ娘が欧州の異様な全寮制学校に預けられる話である。
    『サスペリア』ではドイツ、『フェノミナ』ではスイスの全寮制の学校に、主人公の少女が「異邦人」として入学する。そしてどちらの学校も、『13月の悲劇』同様、伝統と格式を誇る厳格な校風で、外交官や有名人の娘など、有力者の関係筋の子どもたちが集められている。三作品ともに、校内の雰囲気、教師や生徒のどことなく異様な様子が冒頭で不気味に描写されていく。これらの学校が『サスペリア』ではバレエ学校を隠れ蓑とした邪悪な「魔女学校」であり、『フェノミナ』では、生徒が次々と正体不明の殺人鬼に惨殺される不吉な学校として設定されている。『フェノミナ』では学校そのものに秘密はないが、登場する女性の校長、女性教師には、どことなく「ナチズム」の匂いを感じさせる異様な非人間性と冷酷さがあり(これはアルジェント監督の「北欧観」を反映している)、最終的には女教師が実は悪魔的なシリアルキラーであることが発覚する展開になっている。

    『13月の悲劇』では、教師や生徒たちの奇妙な雰囲気にとまどう主人公が、ただ一人、「まともな友人」として心を通わせるのがルームメイトの少女だ。その唯一の友人は、物語の中盤で何者かに惨殺されてしまう。この展開は『サスペリア』にも『フェノミナ』も同じだ。ルームメイトの死について学校側は、『13月の悲劇』では「自殺だ」とごまかし、『サスペリア』では「行方不明になった」と隠蔽する。その後、主人公がルームメイトのあまりにも無残な死体を発見して驚愕する場面も『サスペリア』そっくりだ。
     さらに「これが偶然の一致であるはずはない!」と思ってしまうのは、女教師の息子が槍のような武器を持った恐るべき「異形の子」だったことが発覚するクライマックス。これは『フェノミナ』の展開そのままだ。「異形の子」を生んでしまった教育者の屈折した母性が惨劇の元凶だったというオチも同じである。

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    『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督/ジェシカ・ハーパー主演/1977年)。ジャーロ映画で名をあげたアルジェントが初めて手掛けたオカルトホラー。不自然なほど強調された三原色が独特の幻惑感を生む悪夢的作品。舞台となる「魔女学校」はルドルフ・シュタイナーのヴァルドルフ学校のほか、共同脚本のダリア・ニコロディの祖母が通った「農業、ダンス、魔術」を教える実在の学校がヒントになっているという。

    「未来の映画」をパクったのか……?

     以上がストーリーの根幹部分の類似点だが、さらに細かい場面や設定の類似箇所をあげていくときりがなくなってしまうほどだ。

     僕が一番ひっかかるのは、主人公の人物設定である。
    『13月の悲劇』のヒロインは母と死別しており、世界的映画スターである父は親としての責務を放棄しているということになっているが、これはまったく『フェノミナ』の主人公と同じ。違うのは母が死んでおらず、離婚しているというところだけだ。「映画スターの娘」という物語の展開にはさして関係のないキャラクターの背景設定が、ここまで共通しているのはやはりどうにも解せない。
     夜な夜な聞こえる奇妙な「数え歌」によって誰かが校内を徘徊していることに気づくシーンは、真夜中にうごめく教師たちの足音を数える『サスペリア』を連想させるし、主人公が隠し扉を発見し、悪魔的儀式が行われる秘密の部屋へ潜入する場面も『サスペリア』のクライマックスそっくりである。
     『13月の悲劇』では校内の「反省室」の壁を崩すと、その向こう側に洞窟が広がっている。「は?」と思ってしまうような奇妙な展開なのだが、ここも『フェノミナ』を連想させる。教師の家に監禁された主人公が床にあいた穴に潜り込むと、『不思議の国のアリス』が落ちたような地下道が広がっているのだ。
    『13月の悲劇』の生徒の一人は「男の人を見たことがない。知ってる男性は門番のおじいさんだけ」と語って主人公を驚かせるが、『フェノミナ』でも生徒が「この学校で目にする男といえば、ときどき来る医者のおじさんだけ」と話すシーンがある。
     また、『13月の悲劇』では邪悪な教師たちが主人公に関して「あの子を入学させるべきではなかった。あの子はこの学校に悪影響を及ぼす」と語る。『サスペリア』にも『フェノミナ』にも同様のシーンがある。三作の主人公である三人の「異邦人」の少女は、隔絶された閉鎖的な「悪の巣窟」を解体して浄化してしまう「異物」だった、というわけだ。

    『サスペリア』の原案は監督のパートナーであったダリア・ニコロディによって提示された。彼女は欧州の「魔術関連スポット」をめぐって取材すると同時に、脚本制作にあたって古今東西の魔術関連の文献を大量に収集したという。そのオカルト関連資料の山のなかに、なぜか美内すずえの少女マンガがあった?……とはいくらなんでも考えにくいが、そうとでも思わない限り、このシンクロニシティの「謎」は解けない。
     昔からアルジェント映画は楳図かずお作品との類似点が指摘されており、とりわけ『サスペリア』の主演女優、ジェシカ・ハーパーは「楳図ホラーのヒロインそっくり」だと言われていた。『フェノミナ』も楳図の「母もの」ホラーに酷似している。それを示す証言はないが、ことによったらアルジェントは日本のホラーマンガをチェックしていた可能性もなくはない。あるいは、美内すずえがまだ制作されていない未来の映画を何らかの形で「見て」しまったのか……。
     いや、それともこれは単なる僕の考え過ぎなのか? この程度の偶然は創作のマジックとして普通に起こり得るのだろうか? 僕にはどうしても判断がつかないのだが、もしあなたが未見であるなら、このふたつの映画とひとつのマンガを、どうか見比べてみてほしい。

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    『フェノミナ』(ダリオ・アルジェント監督/ジェニファー・コネリー主演/1985年)。昆虫と交信できるESP少女が、スイスの美しい風景の裏側に潜む「狂気」に直面するミステリー。ホラー版『不思議の国のアリス』として構想された『サスペリア』を別の方向に発展させたような作品。美少女、超絶グロ、そしてヘビメタサウンドの組み合わせの異様さで、世界中のホラーファンを驚かせた。

    初見健一

    昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。

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