君はBARBEE BOYSとネッシーの行方を案じたことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」新2回(第22回)

文=大槻ケンヂ イラスト=チビル松村

    webムーの連載コラムが本誌に登場! 医者から「オカルトという病」を宣告され、無事に社会復帰した男・大槻ケンヂの奇妙な日常を語ります。

    ミュージシャンも不思議好き

     前号で夏フェスに「ムー」を持っていってほかのミージシャンから3度見される話を書いた。でもミュージシャンに不思議な話が好きな人は多い。たいがい心霊系か「ツアー先で泊まったホテルで深夜……」などの都市伝説なのだけど、なかには「ん? マニアックなとこ行くなぁ」という方もいる。

     YMOの細野晴臣さんのラジオを聴いていると、たまにボソッと「マッドフラッドっていうのがあってね」などとおっしゃったりする。えっ? と耳をすますと「いや……この話はちょっとやめておこう」サッと引っ込めるあたりも一筋縄ではいかない奥深さを感じる。さすがは細野さんである。いつかお話を伺えたらいいな〜。

     細野さんの「マッドフラッド」以上に、僕がミュージシャンの口から発せられて驚いたことのあるオカルト用語は「モケーレ・ムベンベ」である。アフリカ・コンゴのテレ湖に生息しているといわれる首長竜タイプのUMAのことだ。そんなものにとても〝興味がある〞とおっしゃったのはBARBEE BOYSの杏子さんであった。KONTAさんとのツインボーカルで知られたあの最高のバンド、バービーの杏子さんである。ロック界1といってもいいくらいの優しい女性で尊敬している。その杏子さんからまさかの……

    「え? 今、杏子さんモケーレ・ムベンベっていいました?」
    「そう。ムベンベ。原地ではモケレ・ムベンベって呼ぶのよね。私ムベンべ好きなの」

     打ち上げかなにかで、杏子さんが最近UMAを捜す旅行記を出したという話になり、「UMA……ネッシーですか?」と尋ねたところ「そう、でも最初はモケーレ・ムベンベを捜すはずだったのね」と仰天の答えが返ってきたのだ。20年くらい前の話である。そのころにムベンベのことを知っている奴なんてよほどなにかをこじらせた輩か「ムー」の読者以外に日本にはいなかった。だから「え、なんでムべンべ?」と思わず聞き返してしまったものだ。昔見た『恐竜伝説ベイビー』という映画のセリフに「ムベンベ」と出てきて、そこから気になりはじめたのだそうだ。

     それから時がたって90年代前半に、BARBEE BOYSを解散しソロ活動を始めるにあたって旅行記を書かないかと出版社から話が来たとき、杏子さんは「アフリカのコンゴに行きたい」と即答した。
    「モケーレ・ムベンベを見たいんです!」
     だが杏子さんの切なる願いに対し編集者は「ナニッ!? モンペのババアがどうしたって?」と聞き返してきたそうだ。
     そして、そんなムベなんちゃらなんてだれも知らないからネッシーにしておかないか? と提案されたとのこと。ネッシーにも興味があった杏子さんはこれを了承し、行き先はネス湖に変更。そうして杏子さんは93年に旅行記『伝説の水路─ネッシーを探して─』を上梓した。

     ムベンベ捜しのはずがネッシー探索に……。最近知人のUMA研究家がカナダの未確認生物オゴポゴをテレビで紹介したところ、放送を見たらテロップがネッシーに変えられていた、というオゴポゴ・カックン話を聞いたばかりなのだが、それもムべンべからネッシーへの変更と同じようなUMAの無名有名問題によるものだったのだろう。
     しかし結果的にミュージシャンによるネッシー探索旅行記が世に登場したということはUMA研究史に記憶されるべきことかと思う。

    UMAは心の拠り所!?

     杏子さんがとても真面目にUMA探索に取り組んでいることは『伝説の水路』を読むとわかる。現地取材、ネッシー目撃者たちとの直接面談、そのほかにも、杏子さんが73年の興業師・康芳夫らによる石原慎太郎も参加した「ネス湖怪獣国際探検隊」に対して、アレは「遊び半分」で「なんとも腹立たしい」と憤りを表すところなど、ネッシーに対する愛と本気が感じられる。

     何より僕が本書を面白いと思ったのは、大人気ロックバンドを解散したひとりのミュージシャンが、これからの自分を見つけるための旅をしようというときに、自分捜し、ならぬ、ネッシー捜し、を始めたという、心の拠り所としてのUMAの側面なのである。もし杏子さんが、未確認の何かをはるばる捜しにいくことで、無意識のうちに己自身の未来を探索しようと試みていたと仮定するならば、それは何かカール・グスタフ・ユングがいうところのUFOの正体「人は己の不安を空に投影して空飛ぶ円盤として見る」という〝UFO心理投影説〞のような心境にあったのではないか。
     杏子さんは、ソロ活動への不安と期待をネッシーに投影して、UMAに置き換えることで物質的存在として認識し、それを確認することによって一回自分をリセットしたかったんじゃなかろうか、とか僕は思うんだけどどうなんでしょう?

     結局、『伝説の水路』はネッシーを発見できないまま日本に帰国して終わっている。だが奇妙なことに旅の終盤ではUFOを目撃もしているのだ。ムベンベを捜すはずがネッシーとなり、UMAではなくUFOを見てしまう。不思議な話である。でもじつはみんな同じことなのかもしれない。

    UMA捜しの旅はまだまだ続く

    『伝説の水路』の出版から十数年後のある日、いつものように「ムー」を書店で買った僕はぶっ飛んだ。「UMA極秘レポート」としてムベンベの最新情報が載っていてこうあったのだ。

    「密林の恐竜モケーレ・ムベンベ捕獲!!」

     マジかよ!?  3度見した。記事によればムベンベは〝すでにアメリカ軍が捕獲しているというのだ!!〞とのこと。99年、米軍はムベンベの〝体に発信機を埋め込むことに成功〞それから3年後の2002年、ついに2頭を捕獲して、軍用大型ヘリで吊るし上げてアメリカまで運んだのだそうだ。だれかに途中で見られなかったのだろうか? その後2頭は軍事施設で飼育されているらしい。
     驚くべきことに記事には、麻酔を打たれてボンヤリしているちょっとかわいいムべンべの顔写真さえ掲載されていたのだ。今読み直したらこの記事を書いたのは「飛鳥昭雄+三神たける」とのことで「このころからおふたりは飛ばしているよなぁ」と呆れる……いやレポ力に感心するばかりなんだが、それよりなにより僕としては「このことを知っているのか!? 杏子さんは!?」という問題である。世紀のムベンベ・スクープを伝えたいではないか。99年に『幻の怪獣・ムベンべを追え』を書いた作家の高野秀行さんにはこのレポの事を伝えたところ「いやぁー、そうですか、あはは」と苦笑されていた。

     杏子さんにはその後に何度も会っているがなかなかムベンベの話を出す場がなかった。
     今回「ムー」でエッセイを書くにあたって、今こそ杏子さんにムベンベ捕獲の件を伝えようとしたのだ。でももう連絡先がわからなくなっていた。
     人づてに知ろうとしたけれど今のところまだ繋がるに至っていない。ついにはスガシカオさんにまで聞いてみたんだけどわからないですとのこと。でもスガさんから「『ムー』、ぜひ今度ご紹介してください」とメッセージをいただきました。お伝えします!
     先日「え? BARBEE BOYS? あ、面識あるよ」というミュージシャンに会った。「本当ですか!?」「うん、後でLINEするよ」と彼はいってくれた。これでようやくわかりそうだと思っていたら彼から後日一枚の写真が送られてきた。楽屋だろうミュージシャンのツーショットであった。彼と、そしてその隣には杏……杏子さんじゃない! こ、これは……。

    「……これは、KONTAさんだ!」

     バービー違いである。
     ムベンベの伝説への水路は遠いのだろうか。杏子さんを探して──。

    (月刊ムー2024年2月号より)

    大槻ケンヂ

    1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
    筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。

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