河童は温泉街にいる! 遠野、日光、定山渓、箱根などから辿った発見した「かっぱ天国」の謎/山下メロ

文・写真=山下メロ

    バブルをまたいだ平成は、いわゆるオカルト事象がやんわりと世に受け入れられていた時代でもある。「ファンシー絵みやげ」研究家の山下メロが、当時を彩った”UMAみやげ”の世界をご案内。 今回は、岩手・栃木・北海道の「河童」を追う!

    2020年4月21日、5月26日記事を再編集

    地方キャラの元祖「河童」

     イッシー、クッシーなどの湖沼UMA、人魚や海坊主などの海洋UMA……ほかに日本の河川UMAとしては、河童が有名です。

    『水虎十弐品之圖』には多彩な河童の姿が描かれている。(国立国会図書館蔵)

     河童(カッパ)は、頭に皿を持ち、亀のような甲羅と、水かきのある手足、嘴のような口……といった姿で描かれます。河童は妖怪として語られることも多いのですが、実際には目撃談も多数あるのです。

     岩手県遠野市には河童の顔ハメ看板があります。遠野の河童は赤いのが特徴なので、左は赤……いやピンク。右は緑になっちゃってます。

    いたるところに河童が使われています。ちゃんと赤い……いやピンク。

     遠野市の公式キャラクターもカッパの「カ」と、旧・遠野市の花リンドウの「リン」を組み合わせた名前の「カリンちゃん」という河童モチーフ。しかし、もともとはファンシー絵みやげキーホルダーなどで使われていました。

    カリンちゃんは遠野のキャラなのに緑色……ただし「くるりんちゃん」という赤……いやピンクの女の子キャラが後に生まれました。

     もともとこのイラストのようにリンドウの花を持っていて、背景は南部曲り家でしたが、2005年に旧・宮守村との合併があり、旧・宮森村の花・ヤマユリが遠野市の花となり、現在ではヤマユリ持っていて、背景はSLがメガネ橋を渡っているイラストに変わっています。

     他にも、かつて売られていたファンシー絵みやげのキーホルダーを見てみましょう。

     遠野だけでこれだけ見つかっています。実際にはもっともっとあったことでしょう。かつてのカリンちゃんも、いろんなタイプのキーホルダー展開をしていたことがわかります。しかし、どれも緑色です。他の地域の河童イラストを流用してしまったのでしょうか……。

    いざ、かっぱ渕へ!

     遠野で有名な河童スポットは「かっぱ渕」でしょう。

     常堅寺の奥へ進むと……

     かっぱ渕橋を越ると……

    「かっぱ渕」にたどり着きました。遠野市はカッパ捕獲許可証を発行するなど「河童による町おこし」に意欲的に取り組んでいます。その重要な場所が、盛岡バスセンターの2階でした。その重要な場所が、かっぱ渕でした。しかし辺りを見回しても河童が見当たりません。

    かっぱ渕に置かれた河童の像。塗装がかなり落ちているようですが、顔のあたりにほんのり赤銅色が残っています。

     唐突に「この先にかっぱさんは居ないようです」という表記。そこまで河童の生態を把握できているのでしょうか。

    「まぶりっと(守人)」による手書きの注意喚起もあります。

     しかし、かっぱそのものは、まったく見つかりませんでした。

     それでも、ファンシー絵みやげの捕獲には成功しました。カリンちゃんの星型キーホルダーは、なんと現地で購入できたのです。緑色ですが。

    岩手県遠野市のミニ提灯。遠野に伝わる河童は体が赤いのが特徴なのですが、イラストはほぼ緑です。

     このように遠野では河童をモチーフとした土産品が多数存在します。他にも「ファンシー絵みやげ」のフォーマットで描かれたものもありました。

    河童野郎と書かれているミニ提灯。

     ある意味「未確認観光地みやげ」になりかけているほどに見つからないファンシー絵みやげ。UMAを探すような気分で探してみてはどうでしょうか。

    日光と札幌に温泉河童がいる!

     では、他に河童の伝説がある場所はどこなのでしょうか。

     全国に河童ないし、その仲間は分布していますが。調べてみると、栃木県日光市の湯西川温泉に河童の伝説が残されているとわかりました。まずは手持ちの湯西川温泉のコレクションを見てみましたが……

     クマ、そして忍者のファンシー絵みやげキーホルダーのみでした。河童モチーフの商品があったかどうかは、今後の発掘調査で明らかにしていくしかありません。

     さらに同じ温泉でいえば、今度は北海道札幌市の定山渓(じょうざんけい)温泉にも河童伝説があるということで行ってみました。

    「かっぱの宴」という貼り紙が見えます。
    ピンク色の爪切り。「Jozankei」の英字の配置方法が凝っています。
    二頭身にデフォルメされた立体のキーホルダーです。

     このように、確かにありました。しかし自分の定山渓温泉コレクションを見ても他はヒグマやキタキツネといった北海道定番キャラクターばかりです。

    箱根「かっぱ天国」での出会い

     そんなこんなで、神奈川県の著名な観光地である箱根に「かっぱ天国」という場所があることをキャッチしたので現地に赴きました。

     着きました。箱根湯本駅すぐ目の前にある「かっぱ天国」。かわいい河童のイラストがお出迎え。ですが、どうも居酒屋の看板風です。さらに奥へ行ってみましょう。

     露天風呂の文字! ここは温泉施設でした。やはり温泉と河童は関係が深いのですね。右にあるフロント案内看板にも「KAPPA TENGOKU」とローマ字日本語表記があります。これはファンシー絵みやげ的にも期待が高まるところです。しかし、箱根湯本にも河童伝説があるのでしょうか……

     そして、我々調査班は現地でとんでもないものを目撃しました。

     なんと栃木県・湯西川のペン立て! コレクションにもなかった湯西川温泉のファンシー絵みやげは実在したのですね! そして岩手県遠野市のかっぱ栓抜き(ヘン抜き)キーホルダーも一緒に。「かっぱのふるさと」と「民話のふるさと」。遠く離れた岩手県、そして栃木県のものが神奈川県西部に……

    「かっぱ天国」の謎は深まります。

    「かっぱ天国」の手がかり

     箱根湯本駅すぐ目の前にある「かっぱ天国」。どうも居酒屋の看板風です。さらに奥へ行ってみましょう。

     露天風呂の文字。右にあるフロント案内看板にも「KAPPA TENGOKU」とローマ字日本語表記があります。これはファンシー絵みやげ的にも期待が高まるところです。
     ということで、さっそく露天風呂でひとっ風呂浴びたあとで、驚きの光景に出会いました。

     なんと、壁にある棚に、ぎっしりと河童アイテムがディスプレイされています。ここ「かっぱ天国」の店主は無類の河童マニアなのでしょうか。箱根に河童伝説があるというよりは、河童マニアの方が経営されているから「かっぱ天国」なのかもしれません。

     ここで思わぬ出会いがありました。

     棚の上にある河童のぬいぐるみを見ると、前かけをしています。そこに書かれた文字が「飛騨」と「古牧」なのです。古牧……確かに青森県・古牧温泉のファンシー絵みやげに河童のモチーフが描かれているのを見たことがあります。

     それがこちらです。

     かわいいブルーの河童です。ピンク色の魚をぶら下げており、そこに「古牧温泉」と名入れがされています。しかし、なぜ古牧温泉で河童なのでしょうか。さらに他のキーホルダーも見てみましょう。

     いずれも同じイラストですが、方位磁針つき、ロケット付き、鈴つきとそれぞれ形態が異なります。そして背景には特徴的な建物……と……噴水のある池……。これはまさに古牧温泉だけのイラストになっているのです。

     古牧温泉は巨大な敷地面積を持つ温泉リゾート施設。温泉だけでなくホテルやプールなどを内包するひとつの大きな温泉レジャー施設なのです。その中には古牧温泉渋沢公園という場所があり、そこに「かっぱ沼」があります。
     この「かっぱ沼」。そしてその噴水。さらに南部曲家や旧渋沢邸など歴史的建造物をイラストに描いてあるのです。まさに、古牧温泉でしか売ることができない河童モチーフのファンシー絵みやげというわけです。

     さらに敷地内には岡本太郎記念公園もあり、太郎カッパ神像という重要な河童キャラクターに会うことができます。

    かっぱ天国の最深部へ……

    「かっぱ天国」の数々のコレクションを見て、河童伝説のあるところでは、河童グッズが見つかるのではないかという気持ちになってきました。

     しかし、次の手がかりは思わぬ場所で見つかりました。
     それは北海道のとある食事処です。

     荒れ狂う北海道の冬の海を前に、寒さに耐えきれず入ったラーメン店。そこで私は驚きの光景を目にしました。

     なんと、それは見渡す限りの観光提灯コレクションでした。観光提灯のイラストは渋いものがほとんどですが、ここではいくつかファンシーなイラストが見つかりました。それは、これまでこの連載で紹介してきた場所ばかりです。

    左が北海道の定山渓温泉。青森県の渋沢公園は古牧温泉のある公園で、同じキャラクターがつかわれている。

     いずれも河童のファンシー絵みやげイラスト。やはり、これまでの調査は間違っていなかったのです。

     そして、河童伝説を調べていくと、なんとペンションやスキー場の多い長野県の、女神湖にも河童伝説があるということで、行ってみました。

     しかしファンシー絵みやげになっている河童は見つかりませんでした。
     そして、ファンシー絵みやげとしても見つかったのは、これだけでした。

     なんと、サントリー缶ビールのCMキャラクターに非常によく似ているペンギンです。むしろ長野の湖に、サーフボード(?)を持ったペンギンみたいな生物がいるほうが未確認生物では!?

     河童調査、続けます!

    山下メロ

    平成レトロの提唱者。ファンシー絵みやげなどバブル時代周辺の懐かし文化を紹介する。著書に「平成レトロの世界 山下メロ・コレクション」(東京キララ社)など。

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