顔のない怪談「むじな」と紀伊国坂/小泉八雲の怪談現場・赤坂
「ばけばけ」で注目の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、日本各地で怪談や民話を採集した。名作「むじな」の舞台は東京・赤坂の紀伊国坂だが、「顔のない」怪談は世界共通の不安として知られるようだ。
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都市伝説には元ネタがあった。今回は、あなたのそばにもきっといる、おかっぱ頭のあの子ども。
「オフィスわらし」を知っているだろうか。
これはその名の通りオフィス、すなわち会社に出現する子どもの姿をした存在とされ、このわらしが現れる会社では、子どもの笑い声が聞こえる部門は売り上げが伸び、それが消えると業績も落ちると伝えられている。
また似たような存在に「コンピューターわらし」というものがいる。これは東京の大手総合商社に入社した新人が出会う存在とされ、パソコンの操作を間違えていると後ろから的確なアドバイスをして消えていくため、オフィスをあげて可愛がっているのだという。
そしてこの「オフィスわらし」や「コンピューターわらし」といった、「〇〇わらし」という呼び名は何かを連想させないだろうか。そう、現在も頻繁に目撃されている子どもの姿をした妖怪「座敷わらし」だ。
近年、座敷わらしは岩手県二戸市にある「緑風荘」、同県盛岡市の「菅原別館」、群馬県利根郡みなかみ町にある「生寿苑」、新潟県柏崎市にある「和心」など、岩手県をはじめ、全国各地の旅館や民宿などの宿泊施設に出現すると語られるものが多く、飲食店に現れるという話も散見される。
またこれらの座敷わらしと出会った人は幸運が舞い込む、良縁に恵まれる、出世できる、金運を得るなどと伝えられ、座敷わらしに出会おうと多くの人々がこれらの場所を訪れている。
一方、会社にオフィスわらしが出現したように、現代のわらしたちは旅館にばかり出現するわけではない。オフィスが大人たちの世界とすれば、子どもたちの世界である学校に出現するわらしもいる。
「学校わらし」ともいうべきこの存在は、学校の肝試しの際に現れて子どもを脅かしたり、子どもたちと一緒に遊び、座敷わらしに肩を叩かれるとラッキーなことが続くなどという。宿直室に4人も現れ、宿直している先生の布団の角を持って回転するいたずらを行う、といった話もあるようだ。
さらに子どもたちのもとに現れたわらしにはこんな話もある。
ひとりの少年が、友人たちとともにあるメッセンジャーアプリでグループをつくり、たがいにメッセージのやりとりを楽しんでいた。ある日、その少年はグループの中に見知らぬ女の子の名前が加わっていることに気づいた。その女の子は頻繁にメッセージを送ってきたため、少年と画面上でよく話すようになり、仲よくなった。
しかしあるとき、この女の子はいったいだれの知り合いなのだろうということが気になり、グループに入っている友人たちにたずねてまわった。
しかし知り合いがだれもいないどころか、皆口をそろえてそんな女の子は知らないという。そこで少年が自分のスマートフォンを起動して確認すると、すでにアプリから女の子の名前が消えていた。それから女の子がアプリの中に現れることはなかったという。

さて、ここまで現代のわらしたちの話を紹介してきたが、そもそも「座敷わらし」という妖怪が登場し、人々に知られるようになったきっかけは何かといえば、民俗学者である柳田國男が明治時代に書き記し、1910年に刊行された『遠野物語』だろう。
ここに書かれた座敷わらしは、現代のように人間個人に幸運を授ける存在とは語られていない。『遠野物語』の座敷わらしで特徴的なのは、その存在が人間個人の幸運ではなく家の盛衰にかかわる点だ。座敷わらしが現れた家は栄えるし、いなくなれば没落する。
たとえば同書にはこんな話が載せられている。
旧家の山口孫左衛門の家には幼い少女の神がふたりいると古くから伝えられていたが、ある年、同じ村の何某という男、町から帰る途中、留場の橋のほとりで見馴れないふたりの娘に出会った。そこで男が「お前たちはどこから来たのか」と問うと、「おらは山口の孫左衛門のところからきた」と答える。そこで「これからどこへ行くのか」と聞けば、「どこそこの村の何某の家に行く」と答える。その何某はやや離れた村の人物で、豪農であった。
それよりほどなくして、山口孫左衛門の家の主従二十数人がキノコの毒にあたって1日のうちに7歳の女の子ひとりを残して死に絶えたという。
この他、同じく柳田國男が記した『妖怪談義』(1956年)には1920年7月ごろ、岩手県遠野市の土淵村小学校に座敷わらしが出現し、1年生の生徒にのみその姿が見えたという話がある。この話は佐々木喜善の『奥州のザシキワラシ』(1920年)にも載っており、同書には他にも小学校でかぶきり頭で白い服を着た6、7歳の子供が毎晩9時ころとなると玄関から入ってきて教室のほうへ行って遊んでいたが、あれは座敷わらしであったのだろうと記されている。
このように、座敷わらしは近代にはその存在が語られていた。そして現代になり、その出現場所を増やしていった。かつての座敷わらしが自身の住む家の盛衰に関わっていたことを考えると、旅館の座敷わらしは現れることで彼ら目当てにやってくる客を増やし、その旅館を繁盛させ、オフィスわらしはいるだけで会社の業績を左右する。またいつの間にか子どもたちの間に交じり、遊んでいるという性質は学校わらしやメッセンジャーアプリに現れたわらしがそれぞれ請け負っている。現代のわらしたちは、名前や出現場所は変われども座敷わらしの性質をそれぞれで受けついでいる。
これからもわらしたちは新たな場所に現れるだろう。そしてそのとき、彼らはまた新しい名前を背負い、活躍することになるのかもしれない。


(月刊ムー2023年8月号掲載)
朝里樹
1990年北海道生まれ。怪異妖怪愛好家。在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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