エクソシストが疲労困憊している話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2023年12月号、第476回目の内容です。

    犀の頭ミステリー

     米ペンシルヴェニア州のピッツバーグ市警察は、同市内のアスピンウォール街の人通りの多い街頭に、わざわざ貴重な犀の頭の剥製を捨てた者がどこのだれなのか、目下懸命に捜査中だ。
     半世紀以上前に製造されたとおぼしい剥製で、警察は防犯カメラの映像をしらみつぶしに調べて、投棄者を必死に捜している。
     犀の頭部はとくにその角が、昔から漢方薬の市場で需要があり、近年ますますその需要が増大しているため、価格がどんどん吊り上げられている。
     他方では、野生の犀の頭数が密猟のおかげでどんどん減少する一方のため、最近は博物館や私的なコレクションに収められた犀の角までが、窃盗犯に狙われる危機に曝されているそうだ。

    死のフェイスブック

     2年前の10月、フェイスブックは親会社を〝メタ〟と改名した。
     イスラエル人はインターネット上でひとしきり大はしゃぎした。ヘブライ語では、メタは〝死〟を意味するからである。

    プリンセスの声

     エリザベス2世女王の国葬が行なわれた2022年9月19日の午前11時近く、テレビで葬儀を見守っていた英国全土の視聴者は、だしぬけに画面から聞こえてきた不思議な音声にびっくりした。
     画面は折りしもウインザー城に向かう霊柩車を、ドローンのカメラが上空から映し出していた。
    「この死は不可逆的であり、彼女が捉われたという事実は——」
     いかにも上流階級らしい上品な女性の声だった。だが、その声に被せるように、男性のコメンテーターが喋り出した。
    「おわかりのように——」
     ここでいったん途切れた。女性の声に気づいたのか? だが、しばらく沈黙が続いたあと、コメンテーターは再び喋り出した。
    「おわかりのように、ここロンドンでは天気晴朗のうちに、霊柩車が出発しました——」
     先ほど聞こえた不思議な女性の声には、最後までまったく触れずじまいだった。
     このエピソードはひとしきり、ソーシャルメディア上で大きな話題となった。
     多くのメディア投稿者がプリンセス・ダイアナの霊の干渉説を支持したが、その一方、放送スタジオで無関係なマイクを入れてしまった操作ミス説や、それでもこれほど状況にドンピシャリなコメントを拾ったのは「偶然にしてもできすぎ!」と評価されている。

    ライオン画

    「ライオンが村内に潜んでる!」 との通報で、武装した野生生物保護官3人が、ケニヤのキナヤ村に急行した。
     だが、保護官たちが銃を構えて問題のライオンに恐る恐る近づいて発見したのは、牧草地の生け垣に引っ掛かったショッピングバッグに大きく印刷されているライオンのカラー写真だった。
    「BBCニュース」紙2022年5月5日付によれば、村人のだれかが、アボカドの種子の乾燥を防ぐために、バッグに入れて野外に放置しておいたものと判明した。

    悪魔祓いブーム

     イタリアはローマのカトリック系大学、教皇庁アテネウム・レギナ・アポストロルムが国内のエクソシスト(悪魔祓い師)120人を調査した結果、彼らが〝悪魔に取り憑かれた〟人々の大量急増で労働過多に陥り、極度の疲労困憊状態にあることが判明した。
     エクソシストによっては日に30件から50件もの件数を請け負いながら、地元の神父たちの助けはほとんど得られないという。
     また、悪魔に憑かれた人と、たんに精神を病む人を区別するには、精神医学者の協力が必要だが、これもなかなか得られないそうだ。
     カトリック教会のスポークスマンによれば、悪魔に憑依された人は異様な嘔吐、異常な力技、ラテン語やヘブライ語やアラム語など知っているはずのない古い言語を突然ぺらぺら喋りだすという。
     シチリア島のベニーニョ・パリッラ神父の話では、現在イタリアでは、エクソシストの需要が毎年50万件は下らないので、悪魔祓いの儀式に不慣れな神父や、自称や独学のエクソシストたちがそのうちとんでもない過ちを犯さないかと気が気ではないそうだ。 

    神の子の心臓

     サッカー界で神の子と絶賛された伝説の英雄、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナは、2020年11月25日、60歳の誕生日を迎えた直後に突然、心不全で亡くなってからも、新たな伝説を残した。
     新刊本『ディエゴの健康』の著者ネルソン・カストロ医師によると、マラドーナがブエノスアイレスにある両親の墓の隣りに埋葬される直前、その遺体から密かに心臓を抜き取る措置が施された。
     これは熱狂的なフーリガン(暴力的ファン)が墓を暴いて遺体から心臓を抜き取りにくる、との不穏な噂が流れたためだった。
     さらにカストロ医師によれば、この機会を利用してマラドーナほどの卓越したスポーツマンの心臓が、どのように他人のそれと異なるのかも密かに調査された。
     普通人の心臓は平均300グラム前後だが、摘出されたマラドーナの心臓は、なんと約500グラムもあったそうだ。
     それでも健康な心臓なのか、それとも心不全の原因だったのか、残念ながら現在の段階では、それ以上明らかにされていない。
     マラドーナにはもうひとつ、UFO関連の伝説もある。
     その死の前年、スポーツ専門放送局のインタビューの途中で、ふと何気なく訊かれた。
    「UFOの存在を信じますか?」
     するとマラドーナは真面目な顔で、こう答えたという。
    「若いころね、酒をめちゃくちゃ飲んだあと、自宅からUFOに連れ去られて、3日間行方不明になったことがあるんだ。宇宙人に誘拐されたんだけど、これ以上詳しいことは喋りたくない」
     いわゆるUFOアブダクション体験だが、これが事実とすれば、世界のUFO研究に新しい1ページを加えることになる。もっと詳しく訊き出せなかったのが残念だ。

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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