水中や空気中から生物のDNAを採取できる話など/南山宏のちょっと不思議な話
「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2024年6月号、第482回目の内容です。
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事故物件住みます芸人の松原タニシが「超人」を目指す新シリーズ開始。 初回は「中井シゲノ」の足跡をたどる!
先日の「ムー民感謝祭」で発表され、「ムーライブ」でスタートした新企画「松原タニシ超人化計画」。
これは、事故物件すみます芸人・松原タニシが、歴史上の霊能者や超能力者など〝人間を超越した存在〟を独自に研究。その足跡をたどることで自らも超人となり、最終的には「事故物件すみつつ超人になります芸人」を目指すという体当たり企画だ。
超人への道のりの第一歩目としてとりあげるのは、日本屈指のシャーマン・中井シゲノ。
シャーマンとは、トランス状態に入って神様や精霊、死者などと交信することができる人物のことで、東北のイタコや沖縄のユタなどもシャーマンの一種。
中井シゲノは稲荷信仰系の「オダイ」とよばれるシャーマンで、神のみを降ろす巫女である。
そんな中井シゲノの足跡をたどるためにタニシが向かった先は、奈良県の廃神社「白高大神」だ。
この名前、奈良県に住んでいる人ならば、一度は耳にしたことがあるだろう。いまや怪談愛好家、ホラー好きでなくても知っているほどの、奈良県屈指の心霊スポットといわれる場所なのだ。
ここにまつわる怪談は、数え上げたらきりがないほど。
たとえば、肝試し気分で白高大神を訪れ、その後に大けがをした人が大量にいるという話。あるいは、旧神社境内の防空壕跡地(洞窟)で、恐ろしい幽霊を見たという話。
なかでも、面白半分で洞窟に入った16歳の少女が悪霊に取り憑かれ、老婆のような姿になりはてて精神を崩壊させてしまった……という話はあまりにも有名だ。
実際に、地元住民からは「本当に危険な場所」として恐れられ、避けられているほどなのである。
白高大神が廃神社となったのは平成3年と意外に最近のことで、そのため鳥居をはじめとして、神社が現役だった頃の形を保ったままに残されているものも少なくない。
そのたたずまいは、静謐でありながらも、どこか不気味。
その「不気味さ」は、単に廃墟として怖い、気味が悪いということではない。実際に修行に使われていた滝つぼ、今でも祈祷のあとが残る祠、生々しい歴史を物語る防空壕、そして朽ちた鳥居と、首の落ちたキツネの像……。
そんな信仰の遺物が、山中のそこかしこに残されているのだ。霊感のない人であっても、ここではなにかを感じずにはいられないだろう。この場所には確かに、奈良県屈指の心霊スポットといわれるだけの何かがある。
白高大神が全国的な知名度になったのは、あの稲川淳二が「奈良の廃神社」として紹介したのがきっかけだといわれるが、しかし、静かな山奥にひっそりとたたずむ廃神社が、なぜこれほどに人を惹きつけ、今日まで特別な空気を残しているのだろうか。
その謎の答えになる人物こそ、今回とりあげる中井シゲノなのである。
白高大神は、中井シゲノが創始した神社で、あの伏見稲荷大社とも関わりが深く、昭和の時代には多くの悩める人々が救いを求めて通い詰めた、正真正銘の聖地だったのだ。
シャーマン、霊能者と呼ばれる人々は昔から数多く存在している。そのなかで中井シゲノが「日本屈指」とまでいわれるのはなぜなのか。
その壮絶な人生を、彼女を取材、研究した宗教民俗学者アンヌ・ブッシィの著書『神と人のはざまに生きるー近代都市の女性巫者』を手がかりに追いかけてみよう。
中井シゲノがこの世に生を受けたのは、日露戦争が始まる前年の明治36年(1903)。奈良県の農村に生まれた、ごく普通の少女だった。13歳で母親を亡くしたシゲノは、村のオダイだった大叔母・ヤエに育てられ、その修行を間近にみながら少女時代を過ごすことになる。
この大叔母ヤエがたいへんな力をもつと評判のオダイで、その霊力は「臨兵闘者皆陳列在前」と九字を切るだけで風呂のお湯が沸き立った……との伝説まであるほど。
シゲノはそんなヤエの修行を見るのが好きで、一緒に過ごすうちに自然と見よう見まねで滝行をおこなうようになっていた。
やがてシゲノは18歳で結婚し、2児を授かる。ところが22歳のときに長女の足が目に入るという不慮の事故に遭い、両目の視力を失ってしまう。2年の入院生活ののち、現在の医学レベルでは治ることがないと宣告されたシゲノは、幼い頃ヤエに連れられてよく訪れていた奈良県の霊場・滝寺に篭り、滝行をはじめる。
滝寺には、その昔天皇の眼病を治したとの伝説が残る観音菩薩を祀る、霊験あらたかな滝つぼがある。ここで来る日も来る日も滝行をし、その水で目を洗うという修行の日々を過ごすうち、シゲノは失明したはずの自分の目の前を白いキツネが走り抜ける姿を何度も「目にする」ようになる。
そして修行生活が3ヶ月を過ぎた頃、医学的にも回復不能といわれていた左目が光を取りもどしたのである。
この奇跡を目の当たりにしたシゲノの親戚とヤエの弟子たちは、神様へのお礼として護摩焚きを行おうとした。ところが、儀式の準備も整いあとは護摩を焚くばかりとなったとき、シゲノは突然「護摩焚き無用」と周囲を制止する。
そして合掌した手を高々と頭上に振りかざし、
「シラタカ!」
と絶叫したのである。
まさにこの瞬間、シゲノのもとに白狐・白高の神が守護神として降り立ったのだ。
ところがシゲノはこの前後のことを一切記憶しておらず、いあわせた4人はその様子をみていよいよ「ほんまもんや」と言い合ったという。
シゲノが白高の神を感得したこの滝こそが、のちに「白高大神」となる場所なのだ。
この日以来、シゲノのシャーマンとしての能力は格段に向上。すさまじいパワーと伝説を生み出す「超人」としての人生を歩みはじめることになるのだ。
*参考文献
『神と人のはざまに生きるー近代都市の女性巫者』(アンヌ・ブッシィ著、東京大学出版会)
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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