呪物クマントーンと生き人形ルクテープ、黒衣の幽霊に地獄寺…心霊大国タイ「ピー」の実話怪談/髙田胤臣
タイの呪物市場で取引される人形にもピーは宿っている。ピーにまつわる奇譚、怪談を紹介する。
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知る人ぞ知る古参「呪物」コレクター、相蘇敬介。今回は相蘇さんの持つ膨大なコレクションから、思い入れの深いいわくだらけの「呪物」を紹介してもらう!
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特殊造形師という本業のかたわら、誰に頼まれるでもなく「いわくつき」のふしぎな品々を集め続けて10年という、ベテラン「呪物」コレクターの相蘇敬介(あいそけいすけ)さん。
お札(ふだ)や神像から、葬礼用具、世界各国の仮面に人形と、そのコレクションは多岐にわたり自宅一室を埋め尽くすほど。今回はそのなかから、とくに思い入れの深い「呪物」を紹介してもらった。
相蘇さんの「呪物」蒐集のきっかけとなった記念すべきコレクションが、タイのクマントーン。
クマントーンは、妊婦の腹をきりさいて取り出した胎児を素材につくる守り神といわれ、持つものの現世でのあらゆる欲望を成就させるという。が、もちろんそれは都市伝説的なもの。相蘇さんの持っているのは胎児をかたどったレプリカだ。タイではわりと簡単に手に入るもので、「呪物コレクターならたいていは持っている」という業界メジャーなものらしい。
東南アジアでは胎児の遺体を守護霊にするという伝承が広く残されていて、おなじようなものにラオスのトヨールがある。
相蘇さんが立ち会ったわけではないが、これは術師によって霊込めの儀式がされたものだという。「トヨルに着せられている黒い服は決して脱がしてはいけない」そうだ。
こちらもタイではメジャーな呪物人形。
持つと幸運がもたらされるというものだが、そのためにはあたかも人間そのもののように扱わなければならない。というのも、この人形にはこどもの霊魂が宿るといい、ご利益を得たい場合は正式に魂入れの儀式をしなければならないのだ。
相蘇さんは大小ふたつのルクテープをもっていて、大きいものは魂入れ前の状態。小さいほうの人形はオカルト探偵吉田悠軌さんに依頼し、タイの霊能者に魂入れをしてもらったものだ。
タイの霊能者いわく幼児の霊を入れたそうだが、日本でこの人形をみた別の霊能者は、目に入れるなり「なんてもの持ってるの、とんでもないものが入ってるわよそれ。こどもの霊なんかじゃない!」と叫んだのだとか。ちなみに相蘇さんのお子さんは小さい頃、よくこのルクテープ人形とおしゃべりしていたそうだ。
さる旧家を解体していたところ、その庭に埋まっているのが発見された、という丸太。掘り出されたときはぐるりと打掛(着物)に包まれていて、そのなかにこのままの状態の丸太があったという。
大量の白い紙が、これまた大量の釘によって360度すきまなくびっしりと打ち付けられている。紙はおふだなどではなく、何も書かれても印刷されてもいないまったくの白紙。
その意味も用途もまったく謎。釘だらけの丸太としか表現できないが、直感的に「いいもの」だとはとても思えない。古物商から「相蘇さんこんなの好きじゃないですか?」と直々に打診があり、ふたつ返事で入手したという。
こんなエピソードに彩られた呪物もある。
関西の古物商界隈に、ガメついことで有名なAというおばあさんがいた。古物商としてカネになる話ならなんでも飛びつくような人だったが、ひとつだけ、誰にどんなに頼まれてもあるトランクだけは決して売り物にせず、手放さなかった。
おなじ古物商のBさんはずっとそのトランクが気になっていたのだが、それとなくAさんに尋ねても「ああそれはダメだ」ととりつく島もない。結局それ以上の詮索は諦めたが、頭の片隅にはずっとトランクのことが残っていたという。
それからずいぶん経って、Bさんは市場で見覚えのあるトランクを目にする。サイズ、色味、風合いからして間違いなくあのトランクだった。Bさんは、Aさんが亡くなり遺品が市場にでていたことを知る。Aさんは本当に死ぬまでトランクを手放さなかったのだ。
それをBさんが購入し、そこから相蘇さんの手に渡ったのがこれ。そして、トランクのなかには、ただ2体の人形だけが入っていた。美しい人形だが、なぜAさんが死ぬまでこれを手放さなかったのか、どんないわれのある人形なのかは、亡くなった今となってはまったくの謎だ。
オシラサマは東北地方で信仰される養蚕に関係するといわれる神で、大切に祀ると強力な守護神として家の繁栄を約束してくれる。ただし非常に厳格な、言い方をかえれば気難しい神でもあり、少しでも祀りかたを間違えるとたちまち障りをなすと言い伝えられている。
地域にもよるが、たとえばオシラサマを祀る家では肉や卵を食べてはいけないなどのタブーがあり、それを破ると「口が曲がる」といわれるのだ。
また、オシラサマを祀る場合は、毎年イタコのもとを訪れてオシラアソバセという神様を喜ばせる儀式や、新しい衣を着せるオセンダクをおこなわなければならない。
オシラサマは男女二柱の像が一対の神で、相蘇さんはそれを何ペアか所持している。では上記のような儀式をちゃんとやっているのかというと、やっていない。
相蘇さんいわく「持ってはいるが祀ってはいない」状態なので、たぶん大丈夫でしょう、とのこと。ただ昨年はツテのあるイタコさんを訪ね、オセンダクだけはしてきたという。
男の子と女の子の像なので、有名な黄色い三角模様と、ピンクの麻の葉柄の布をそれぞれ新しく着せたそうなのだが……。それをやったらもう祀り始めたことになるんじゃないかとも思えるが、どうなのだろう。
その他にも、相蘇さんのお宅にはここだけではとても紹介しきれないほどの「呪物」が眠っている。それぞれの来歴を深掘りしたら、とてつもない特級の発見に遭遇するのかもしれない。
webムー編集部
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