虚舟新資料「沿海紀聞」を発見! 異国舟事件は外務省に報告されていた

文=鹿角崇彦

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    国立公文書館で確「虚舟」図掲載の資料が発見された。異形の船の報告事例は、虚舟事件の受容史にも大きな示唆を与えるものになりそうだ。

    国立公文書館の所蔵資料に「虚舟」

     国立公文書館の所蔵資料から新たな「虚舟」の図が発見された。
     それは学術界などでは一定の知名度をもつ古くから存在を知られた資料のなかにありながら、これまでだれにも虚舟だと気づかれることなく眠っていたのだという。

     それがなぜこのタイミングで「再発見」されることになったのか。そしてそこには、何が記されていたのか?

    「再発見」された虚舟図。ほぼ球体に描かれた船体と、箱を抱える女の特異な服装が目を引く(国立公文書館蔵『沿海紀聞』より)。

     新発見の虚舟図は、江戸末期の1850年代編纂と推定される『沿海紀聞』という資料のなかにあった。
    「江戸名所図会」などを著した江戸の町名主、斎藤月岑(さいとうげっしん)によってまとめられた全40巻からなる
    もので、明治初期に著者から外務省に献本されたのち、政府資料として国立公文書館に移管されたという経緯をもつ。

     1850年代は、折しもロシア船やペリー率いる黒船来航などが立てつづき、海防への意識が格段に高まっていた時代。文人として多くの文化人と交流を持っていた月岑も、自身が聞き集めた外国船の来航、漂着などにまつわる伝聞、つまり「沿海」に関する事例を編纂しまとめあげた。それが『沿海紀聞』だ。

    幕末に描かれたロシア船の図。こうした異国船のガラス張りキャビン(船尾部)の様子が虚舟図に似ていると指摘する説もある(画像=Wikipedia)。

     そんな資料の第1冊目の冒頭に記されていたのが新発見の虚舟図だったのだが、ここからどんなことが考えられるだろうか。
     まず、最も目につく虚舟の図は、比較的例の少ないほぼ球に近い形状に描かれている。そして虚舟に乗っていたいわゆる「蛮女」の姿はまったく類例がないもので、腹部の前垂れのような布も特徴的だ。あえて既知の資料から近いものを捜せば、細部はかなり異なるものの埼玉県立文書館所蔵の「稲生家文書」が浮かんでくる。

    埼玉県文書館蔵「稲生家文書」の虚舟図。https://web-mu.jp/history/76514/

     稲生家文書の虚舟図は安政2年の日記に挟まれた状態で発見されたもので、虚舟を研究する田中嘉津夫岐阜大学名誉教授は「幕臣だった稲生家の当主は虚舟を黒船や異国人の来航と関連づけていたのではないか」と指摘しているのだが、これも新発見図に一致するものを感じる。

    国防案件として報告された「虚舟」事件

    『沿海紀聞』が外務省に献本されていることからも、月岑は同書をいわば国防案件だと意識していたことが読み取れるが、虚舟図の前後に記された文章も憶測や噂話的な内容を削除したシンプルな文面になっており、事件を奇談の類ではないシリアスな対外インシデントだと捉えていた様子が窺える。だからこそ図は同書の冒頭に載せられたのだろう。

     さて、ではなぜ眠っていた虚舟図がこのタイミングで発見されたのか。実は国立公文書館では所蔵資料の調査活動を行っており、この夏に『沿海紀聞』の原本を1ページずつ再確認していたところ、担当者が図の存在に気づいたのだという。
     先ごろ同館では所蔵する『弘賢随筆』の虚舟図をグッズ化し大きな話題になったが、調査担当者もそれを覚えており、調査の際「この絵ってアレじゃない?」と今回の再発見につながったのだという。虚舟図が新たな虚舟図の発見を呼ぶ、という連鎖現象が発生していたのだ!

    国立公文書館では、同館が所蔵する『弘賢随筆』と『沿海紀聞』のふたつの虚舟図原本が同時公開されるという貴重な展示も行われた。

     近年は虚舟資料の新発見が相次いでいるが、発見が発見を呼ぶこのループがさらに加速すれば、今回のように「知っている人が見たから気がついた」というパターンもさらに増加していくだろう。

     ただし、虚舟の正体については、幕末にそう思われていたからといって、「虚舟=異国船である」と決まったわけではない。むしろ不明度は変化なしといった状態だ。ただ、海に流れ着いたUFOのような球体状の何かは確実に存在した、それはほぼ間違いないだろう。

     虚舟は、蛮女は何者だったのか? その核心に迫る新資料の発見が待たれるところだ。

    『沿海紀聞』には他にも謎めいた図がある。これは来航したアメリカ人が海岸の岩場に書きつけた文字を写したものだというのだが、謎の文字は何を表しているのだろう。

    鹿角崇彦

    古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。

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