海棲爬虫類の生き残りか古生物タリモンストルム・グレガリウムか? ネス湖の怪獣ネッシーの基礎知識

文=羽仁 礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、世界で最も有名なUMAであるネッシーをめぐるさまざまな目撃情報や調査と、その正体の謎を取りあげる。

    ネス湖に棲息する世界一有名なUMA

     イギリス、スコットランドのネス湖に棲むという怪獣、通称「ネッシー」は、今さらいうまでもなく世界で最も知られた未確認動物であり、UMA界のスーパースターである。UMAや超常現象にそれほど関心のない人でも、この名を知らない日本人はいないであろう。

     ネッシー伝説は、565年に聖コルンバがネス川で怪獣を撃退したという伝承にまでさかのぼるというから、他のUMAの追随を許さない長い歴史の持ち主でもある。

     ネッシーの形状については、目撃例により細部で異なるが、長い首とヒレをもち、背中にいくつかのコブがあるという姿が標準的となっている。ときには、頭に角のような突起物や、たてがみのようなものが報告されることもある。

     目撃が飛躍的に増えたのは1933年、湖の北岸を走る自動車道が大幅に整備されてからだ。この年の11月には、ヒュー・グレイが撮影した最初のネッシー写真が公表され、翌年1934年4月には、いわゆる「外科医の写真」が日刊紙「デイリー・メール」に掲載されて、世界的な反響を呼んだ。

    1933年11月12日、ヒュー・グレイがネス湖畔のフォイヤーズで撮影した世界初のネッシー写真。写真に細工の痕跡がないことをコダック社の研究員が証明している。
    1934年4月に撮影され、世界に大反響を呼んだ通称「外科医の写真」。のちに、捏造写真であることが公表された。

     写真だけでなく、1954年12月には、流し網漁船「第3ライバル号」の魚群探知機が、ネス湖の水深約150メートルのところで、全長15メートルの移動する物体を探知した。

    ネス湖畔にあるアーカート城趾。ネッシーの目撃ポイントのひとつとして知られている。
    1955年7月29日、アーカート城趾付近で撮影されたネッシーの背の写真。この写真からネッシーの全長は約15メートルと推定された。

     フィルムやビデオなどの動画が撮影されたこともある。

     1960年、ティム・ディンスデールが撮影した16ミリフィルムのネッシー動画は、1966年にイギリス空軍情報処理センターでコンピューター分析され、全長は10~13メートル、断面は2メートル、高さ1.7メートル、時速約15キロで、船ではなく、こぶをもった物体が湖面を走っているとされた。

    1960年4月23日、16ミリフィルムで撮影されたネッシーの映像。巨大な生物とされる物体が湖面を移動し、航跡を残す様子が映っている。
    撮影者のティム・ディンスデール。ネッシーの研究家でもあり、彼の活動はその後のネッシー研究にも大きな影響を与えている。

     ほかにも多数の写真や動画が公開されており、目撃者の総数は何千人にもおよぶだろう。当然ながら、その正体を確かめようと、ネス湖では何度も大規模な調査が行われている。

    ネッシーの実体を追って続けられる数々の調査

     早くも1934年夏には、スコットランド貴族のエドワード・マウンテン準男爵が、私費を投じてネッシー調査隊を組織した。20人の監視員をネス湖の周囲に配置し、5週間にわたって湖面を観測した。この間に21回の目撃があり、写真撮影も行われた。その後、16ミリフィルムによる撮影にも成功している。

     1962年には、イギリスの政治家ピーター・スコットらが「ネス湖の怪獣」と呼ばれる生物の解明、あるいはその報告の原因究明のため、ネス湖を調査する目的で「ネス湖現象調査局」を設立した。
     この団体は1967年から翌年にかけて、アメリカの百科事典出版社ワールドブックからの資金提供を受け、5月から10月まで大規模な湖面の監視活動を行ったことがある。

     電子工学者ゴードン・タッカーをリーダーとするバーミンガム大学のチームは、1968年から1970年にかけて、ネス湖の水面下に音響探査装置を備えつけ、水中で動く物体を探査した。
     1968年8月25日には、探査装置が長さ6メートル余りの巨大な物体を探知し、船上のスクリーンにその姿が写しだされた。物体は湖の最深部から急浮上すると、岸とは逆方向に200メートルほど移動してから急激に向きを変え、時速約17キロで岸に向かって移動したのち、探知範囲から消えた。

     アメリカの弁護士、発明家、音楽家にして工学博士、ボストン応用科学アカデミー会長でもあるロバート・ラインズは、1970年以来何度かネッシー調査を行っている。

     1972年8月、ラインズらの一行は、ネッシー目撃が多発する場所を選んでストロボ付水中カメラを水面下に吊り下げ、15秒おきに写真を撮影した。同時にソナーでカメラの周辺を探索した。
     すると8月7日から8日にかけての深夜、ソナーが長さ6~9メートルと見積もられる物体の影を捉えた。水中カメラの写真をアメリカに持ち帰って現像すると、何コマかに菱形のヒレのような物体が写っていた。
     1975年6月にも同様の調査が行われ、巨大な生物を思わせる2枚の写真が撮影された。1枚は、プレシオサウルスのような胴体と長い首が写っており、もう1枚には角のある頭部のようなものが写っていた。
    これらの写真は、その年の科学誌「ネイチャー」12月11日号に掲載され、同じ誌面でピーター・スコットは、「ネッシテラス・ロンボプテリクス」(菱形のヒレをもつネス湖の怪獣の意味)という学名を提唱した。
     ラインズらのチームは2001年にも、穏やかな日に湖面にV字型の波が発生する様子をビデオ撮影している。

    1975年6月、ボストン応用科学アカデミーが調査時に水中カメラで撮影した謎の物体。全長約5.5メートルのネッシーの全身像を捉えたものとして、大きな注目を集めた。
    1972年の同アカデミーの調査では、水中カメラが長さ約1.2~1.8メートルと推定されるヒレ状の物体を捉えている。

     1987年には、音響探査装置を積んだ24隻の船舶が横並びでネス湖を横断的に探査するディープスキャン作戦も実施され、このときにも謎の物体が探知された。

     2018年6月には、ニュージーランド・オタゴ大学のニール・ゲメル教授を中心に、ネス湖の環境DNAの調査が行われた。これはネス湖の約250か所のポイントから湖水を採取し、湖水の中に含まれる生物由来のDNAの種類を分析する試みであった。
     分析の結果は翌年の2019年9月に発表され、魚類11種、両生類3種、鳥類22種、哺乳類19種のDNAが検出された。中でもウナギのDNAはほぼすべての調査地点から検出されたが、約20パーセントのDNAが正体不明であったともいわれる。

     近年では、2023年8月26日から27日にかけて、「ザ・クエスト」と題された本格的な調査が行われた。企画したのはネス湖の観光拠点「ネス湖センター」で、赤外線カメラを搭載したドローンで湖の上から監視すると同時に、水中聴音装置でネッシーの鳴き声の録音を試み、各国から参加した約200人のボランティアが湖面を監視した。
     その後も調査は続き、2026年5月には「ザ・クエスト」4回目となる探索が実施され、海洋探査企業の自律型無人探査機(AUV)も投入された。

     なお、日本からも1973年、当時衆議院議員で、のちに東京都知事となる石原慎太郎を団長とするチームがネス湖を訪れ、約2か月の調査を行っている。

    目撃証言が示唆する既知動物の可能性

     このように、これまで何度も本格的な調査が行われたにもかかわらず、何らかの未知の巨大生物がネス湖に棲息するという決定的な証拠は今のところ見つかっていない。

     そこで否定的な論者は、既知の動物や自然現象の見間違いと主張する。
     だが、こうした懐疑的な主張にも、根も葉もないものがいくつもあるので注意が必要である。

     たとえばカリフォルニアの生物学者デニス・パワーやドナルド・ジョンソンは、1934年に撮影された外科医の写真について、水中のゾウが鼻を伸ばしたものだと主張していた。しかし、現在では写真自体がおもちゃの潜水艦に首をつけただけの偽物だったとされる。

     ナマズやチョウザメとする見解もあったが、2018年の環境DNA調査では、これらの魚類のDNAは見つかっていない。

     ほかにアザラシやカワウソ、さらには船の航跡、流木、波などの誤認だったという指摘もあるが、これらだけでは長い首とヒレ、また背中にいくつかのコブをもつという目撃証言までは説明しきれない。

     一方、ネッシーの実在を主張する者たちは、何らかの未知の巨大生物がネス湖に棲んでいると述べるが、その正体となると研究家によってまちまちである。

     まずは巨大なウナギという説がある。2018年にネス湖の環境DNA調査を行ったニール・ゲメル教授もウナギの可能性を示唆したが、これはウナギのDNAが最も多かったという結果に基づいたものだ。ほかにも巨大イモリだとか、イカのような軟体動物という説もある。

     ネッシーを含めた世界の湖底怪獣について研究したピーター・コステロなどは、首長のアザラシという説を唱えている。アザラシもヒレをもち、実際にイギリス沿岸などネス湖のような緯度の高い地域の湖にも生息している。確かにアザラシの首をヘビのように長くすればネッシーの外見とそっくりになる。
     ただこの説にも問題がある。アザラシをはじめとする鰭脚類(ききゃくるい)の中で、ヘビのように長い首をもつ種類は化石時代にさかのぼってみても存在しないのだ。いや、ウマやキリンのような草食動物と違い、食肉目(しょくにくもく)全体を見ても、長いといえるほどの首をもつ種類はいない。

     UMA研究の大御所、實吉達郎によれば、ヨーロッパ人はアザラシに愛着があるから、無理矢理ネッシーの姿に合わせて首の長いアザラシを考えたのではないか、ということだ。

    2002年8月21日、ネス湖畔をドライブしていたジョンソン夫妻が撮影。水面に頭部をもたげたネッシーらしき生物が、水しぶきを上げながら水中に潜る様子が鮮明に映っている。

    ネッシーの正体は古代生物の生き残り?

     ティム・ディンスデールをはじめとする多くの研究家の支持を得ているのが、中生代の海棲爬虫類プレシオサウルスの生き残りという説だ。

    ネッシーの正体として古くから有力候補とされてきたプレシオサウルスの想像図(写真=iStock.com/MR1805)。

     確かにネッシーの長い首やヒレなどは外見上プレシオサウルスによく似ている。しかし最新の研究では、プレシオサウルスはネッシーの目撃でしばしば伝えられるように、水面上に首を持ちあげることはできなかったようである。
     また、ディンスデールはネッシーのこぶの数が目撃例によって異なる点に関し、ネッシーには背中に空気の入った袋のようなものがあり、それが膨らんだり縮んだりすることで数が変化して見えると主張するが、プレシオサウルスにはこうした機能もなかったようだ。

     そこで、一部の研究家の注目を浴びているのが、タリモンストルム・グレガリウムという謎の古代生物の生き残りではないかという説だ。

     この生物は1955年、アメリカ、イリノイ州で石炭紀後期の地層から発見され、発見者フランシス・タリーにちなんで「タリーモンスター」とも呼ばれる。その生物学上の位置づけは不明で、無脊椎動物である可能性などが指摘されており、現在も議論が続いている。
     胴体は前後がとがった楕円形、ちょうど柳の葉のような偏平な形をしており、体の後端近くにはヒレが突きだしている。そして胴体の前面には、長い吻(ふん)がちょうどプレシオサウルスの首のように伸びており、これまでの報告にあるネッシーの姿によく似ている。

    ネッシーの正体として注目を集める謎の古代生物タリモンストルム・グレガリウムの想像図(写真=Ta-tea-two-te-to/wikimedia commons)。

     もっともこれまでに発見されたタリモンストルム・グレガリウムはせいぜい数十センチ程度の大きさだが、イギリスのフレデリック・ホリディなどは、この仲間が巨大化して生き延びている可能性も示唆している。

     このようにネッシーの正体については、いまだ結論が出ていないといえるだろう。だが、今年に入ってからも目撃報告は相次いでおり、変わらず注目を集める存在となっている。果たして、ネッシーの謎が解ける日は来るのだろうか。

    ネッシーの目撃は現在も続いている。写真は2026年6月23日にネス湖を訪れた観光客が撮影したもので、湖水に潜む謎の緑色の物体が捉えられている(写真=The Official Loch Ness Monster Sightings Registerより引用)。

    ●参考資料=『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎/学研)

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