最高級クラフトジンの意外な隠し味の話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2026年9月号、第509回目の内容です。

    万引き鴎

     英ドーセット州の観光地、ワイクレジス村にあるリンデールセントラル店の店員たちは、もう6年もの間、彼らが〝鴎のセガール〟と仇名をつけたタチの悪い〝万引き鴎〟の鳥害に悩まされている(スティーヴン・セガールは米人気アクションスター。鴎は英語でシーガルだから)。

     鴎のセガールはいつも店先に並ぶポテトチップスの袋を狙って飛んできては、店員のスキを見てさっとばかりに万引きに及ぶのだ。

     店長のスチュアート・ハーマーさんによると、直近の2か月だけでも、ゆうに30袋前後は万引きの被害にあったという。

    「ところが、当局の担当者にこの万引き被害による在庫損失を訴え出ても、まさかそんな、冗談だろうと笑うだけで、真面目に取り合ってもらえないんだよ」

     この万引き鴎セガール君のお好みは、どうやらとくにバーベキュービーフ味のポテトチップスらしく、店員たちがこっそり極辛味のチップス袋をそれに混ぜて罠を仕掛けても、セガール君は匂いを嗅ぎ分けるのか、その罠には決して引っ掛かってくれないのだ。

    裏目

     中国浙江省の省都杭州市の王秀英(27歳、仮名)さんは、ブラインドデートのお相手がどこまで太っ腹か試してみようとしたが、それが完全に裏目に出た。

     デート相手の男性にはあらかじめ告げないまま、親類縁者23人を引き連れてデートしたのだが、豪華な食宴が終了したとたん、デート相手は宴会代金の支払いを拒否して、そそくさと姿を消してしまい、おかげで彼女は2万7820人民元(約66万2000円)を全額、泣く泣く自腹で支払わなければならなくなった。

    岩を産む岩

     吸血鬼ドラキュラ伝説でつとに知られる東欧ルーマニアでは、もうひとつ世にも不思議な〝岩が岩を産む〟という怪異現象が報告されるなどして、近年観光名所として新たな人気を呼んでいる。

     ヴルチャ県コスティシュティ村周辺で多く見られる岩石の怪現象で、赤黒い岩が〝まるで生きているかのように〟数千年かけてじりじりと成長・増大するのだ。

     あるいはまた、表面から小粒な岩屑をぼろぼろとたくさん産み落とす。そのひとつひとつがまた、長年月かけて再びじりじりと成長・増大していく。

     地元では「トロヴァント」と呼ばれる〝生きている〟岩石群がそれで、今では同国きっての観光の目玉として、国からも手厚く保護され、世界中から毎年たくさんの観光客が見学に訪れている。

     トロヴァントは地質学的にはコンクリーション(鉱物成分が石灰岩中で球状や板状に凝集形成される現象)の一種で、ルーマニアからウクライナ、スロバキア、ポーランドにまたがるカルパティア山脈中でとくに数多く見られる。

    うっかり蛇

     米ホワイトサンズ国立公園で、変な形状になって身動きがとれないガラガラヘビが発見された。

     鼠を1匹呑み込んだまではいいが、その鼠を捕えた鼠捕り装置まで、うっかりいっしょに呑み込んでしまったためだった。

    隠し味

     南アフリカ共和国原産の一風変わった最高級クラフトジン〝インドロブジン〟は、近年世界中の洋酒好きにことのほか大人気で、このところ毎月ボトルで1500本は、海外へ輸出されている。

     この最高級ジンは、その蒸留生産時に香りづけとして、知る人ぞ知る、アフリカゾウの糞がごくごく少量ながら使われる!

     南アの象たちが排出する糞からは、彼らがとくに好んで食べるアカシアやアロエ、アガトスマなどの芳香性成分が検出されるが、それがインドロブジンを最高級クラフトジンに仕立てているのだ。

     ちなみに〝インドロブ〟とは、現地語で象そのものを意味する。

    聖母の血の涙

     イタリアはローマ近郊トレヴィニャーノで、ガラスケースに入れられた等身大の聖母マリア像が、もう10年近く前から、なぜか毎月3日になるたびに、真っ赤な血の涙を流しつづけている。

     この陶器製聖母像は地元の女流実業家マリア・ジュセッペ・スカルプッラ氏が、2016年にボスニアのメジュゴリエ巡礼地で購入したもので、母国に持って帰るとまもなく、理由はまったく不明だが、毎月3日になると、なぜか血の涙を流すようになったという。

     以来その評判を聞きつけて、たくさんの巡礼者が訪れるようになり、中には聖母像を拝んだとたんに重い病いが自然治癒したケースも報告されるなどしたため、近いうちに地元の医師グループが真相調査に乗りだすそうだ。

    コオロギアイス

     ドイツ南部のロッテンブルク・アム・ネッカーでアイスクリーム店を営むトーマス・ミコリーノさんは、従来の枠に捉われない革新的かつ実験的なフレーバーを生み出すジェラート職人として、ドイツ本国だけでなくほかのEU(ヨーロッパ連合)諸国にまで知れわたる高い評判の持ち主だ。

     彼がこれまで顧客に提供してきた中には、金箔を被せたアイスクリームとか、豚や牛のレバーを挽き肉にして練り込んだレバーソーセージ味アイスとか、スパゲッティ・ボロネーゼ味アイスとか、さらにはゴルゴンゾーラ・ブルーチーズ(青かび型)アイスなど、思い切り風変わりなアイスクリームがずらりと並んでいる。

     そんなミコリーノさんが今回新たに宣伝販売を始めたのは、なんとバニラや蜂蜜をたっぷり練り込んだコオロギの粉末を使うコオロギ風味のジェラードの上に、干しコオロギをまるまる1匹、ぽんと載せた特製バージョンだ。

    「私は好奇心旺盛な人間なので、試せることなら何でも試してみたい」とミコリーノさんは語る。

    「このコオロギ調合アイスは、自分でもびっくりするほどおいしい味に仕上がったよ。大人から子供まで、みなさんにオススメできる最新型アイスクリームだね!」

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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