古代ギリシアの神殿は「ひっくり返した船」だった!? 独特すぎる建築様式の謎、最新分析で解明
独創的形状や装飾で知られる古代ギリシアの神殿。新たな研究では、デザインの起源が「逆さまに置かれた船」であるという大胆な仮説が提示されている!
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古代ギリシャで密かに行われていた謎の伝統儀礼「エレウシスの秘儀」とは――。内容について口外が一切禁じられたこの秘密の儀礼だが、新たな研究ではドラッグが使われていた可能性が示唆されている。
紀元前15世紀のミケーネ文明期から、古代ギリシア、そして古代ローマまで約2000年間にわたって行われていた「エレウシスの秘儀」。その参加者は厳格な守秘義務を課されており、詳細はほとんど謎に包まれたままである。
古代ギリシア時代、人々の暮らしには多くの神々が根付いていたと考えられている。宗教は日常生活から切り離されたものではなく、公私において常に影響を及ぼすものであり、季節に応じて神に関連した数百もの祭り、慣習や儀式が盛んに行われていた。その中でも、小都市エレウシスで秋に催される「エレウシスの秘儀」は最も重要な宗教儀礼のひとつであり、春の「ディオニューシア祭」、夏の「パンアテナイア祭」と並んで「アテナイの三大祭」と称された。
エレウシスの秘儀の特徴は、文字通り“秘儀”であったことだ。秘儀の内容は、何世代にもわたり参加者、巫女、そして神官たちによって厳格に守られおり、記録はまったく存在しないばかりか、その痕跡さえもはや永遠に失われてしまっている。秘儀への参加者は目撃したことを語ることを厳しく禁じられており、もし口外すれば死刑に処せられるほどであった。
とはいえ、秘儀の体裁についていくつか判明していることもある。エレウシスの秘儀は広く門戸が開かれた数少ない儀式の一つであり、男女を問わず、奴隷であっても、人を殺したことがなくギリシア語を話せる者なら参加できた。
さらに、ギリシア神話のデーメーテールとペルセポネーの物語に基づいた秘儀であったこともわかっている。この神話には多くのバージョンがあるが、おおよそストーリーは共通している。
物語によると、若い娘のペルセポネーは冥界の王ハデスに見初められて誘拐された。これを聞いた彼女の母、農業と豊穣の女神デーメーテールは深い絶望に陥り、自棄になって壊滅的な干ばつを引き起こし、地上では作物が育たなくなった。
これを見かねた全知全能の神ゼウスが介入し、ペルセポネーが母のもとに戻ることが許された。
しかし冥界の規則によれば、そこで飲食した者は誰も冥界を抜け出すことはできない。ハデスは冥界に連れ去ったペルセポネーにザクロの種を与えていたのである。
それでもゼウスの仲介でペルセポネーは母と再会することができたのだが、冥界で食べ物を口にしていたため、毎年一定期間、冥界に戻らなければならなくなった。彼女が冥界へ行っている時期には地上で作物はなにも育たず、デーメーテールが娘を連れ戻したときにのみ地上に生命が芽生えるようになったのである。
このようにエレウシスの秘儀は死と復活、地球の循環、そして人間と自然や死後の世界とのつながりといった概念を核心に据えたものであり、参加者にはなんらかの形で強烈な体験が提供されていた可能性が高い。
ローマ共和政末期の哲人政治家、キケロはエレウシスの秘儀について次のように言及している。
「アテネが生み出し、人類の生活に貢献してきた数々の神聖なものの中でも、この秘儀に勝るものはない。なぜなら、それによって私たちは粗野で野蛮な生活様式から人間らしい状態へと変容し、文明化されたからだ。それが『入門儀式』と呼ばれるように、実際に私たちはそこから人生の根本を学び、喜びをもって生きるだけでなく、より良い希望をもって死ぬための基礎をも掴んだ」
エレウシスの秘儀の具体的な内容については、少ない手がかりから推測するしかないのだが、薬物が使われていた可能性も示唆されている。
儀式のある時点で、参加者全員に「キュケオーン(kykeon)」と呼ばれる飲み物が与えられていたことがわかっているが、エレウシスの秘儀を取り巻く最大の謎の一つは、まさにその飲み物の中身である。キュケオーンには水、大麦、ミントが含まれていたことは知られているが、それ以外はほとんど分かっていない。
エレウシスの秘儀にb関するいくつかの記述には、単なる演劇的なパフォーマンスを目撃したというよりも、サイケデリクス体験から生じたとも考えられる、生と死、そして超越についての啓示などが含まれている。そのため、キュケオーンに幻覚剤成分が含まれていたとする説は、常に一定の説得力をもって語られてきた。
このキュケオーンに入っていたと指摘されているのは、ライ麦に生える菌類である麦角菌で、LSDの前駆体であるエルゴタミンを生成することで知られている。実際、この物質の痕跡は、エレウシスの秘儀が行われた寺院で発見されているという。
ほかには所謂“マジックマッシュルーム”に該当するシロシベやベニテングタケなどのさまざまな種類のキノコ、 そして向精神薬としても使われるLSA(リゼルグ酸アミド)を含むブルーベルの花、デーメーテール信仰と関連付けられるケシから得られるアヘン、さらには自然界に発生する幻覚剤であるDMT(ジメチルトリプタミン)を含む植物も成分の候補として検討されている。
ちなみに、麦角菌(Claviceps purpurea)はきわめて毒性が高く、少量摂取するだけでも幻覚、発作、壊死、壊疽などの症状を伴う麦角中毒を引き起こす可能性がある。当然だが麦角菌を飲み物に混入すればきわめて悲惨な結果を招く。
ギリシャとスペインの研究者チームが今年2月に「Scientific Reports」で発表した研究では、もし麦角菌が本当にキュケオーンの含有成分だったとしたら、古代のエレウシスの巫女たちは、その危険な毒性を避けつつ、どのようにしてその精神活性作用を利用したのか検証された。
麦角菌を使った古代の幻覚剤の“レシピ”を突き止めるべく、研究チームは麦角菌核(真菌の基本構造)を粉砕し、水と灰から作られた苛性ソーダ溶液で、さまざまな割合・pH値・煮沸時間を試した。こうして得られた複数の化合物を、核磁気共鳴(NMR)や高分解能質量分析法(HRMS)などの方法を用いて分析したという。
その結果、研究チームは麦角菌が精神活性物質(具体的にはLSDと似たLSAとiso-LSA)に化学的に変換できることを発見した。言い換えれば、エレウシスの巫女たちがこのシンプルかつ効果的な“レシピ”を用いて幻覚剤成分が含まれたキュケオーンを作った可能性はじゅうぶんに考えられるのだ。
とすれば、エレウシスの秘儀ではやはりドラッグが使われていたのだろうか。そしてもし、当時この“レシピ”がありふれたものであったならば、古代ギリシアの偉大な哲人たちもキュケオーンの恩恵に預かっていた可能性が生じてくる。古代ギリシアのエレウシスの秘儀で行われていたことを正確に把握することは決してできないが、最新研究が真実の一部を垣間見せてくれているようだ。
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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