“異界のマチュピチュ”が六本木の天空に出現中!「CREVIAマチュピチュ展」で古代宇宙飛行士説と神話の一致を見よ

文=杉浦みな子

    六本木ヒルズ森タワー・52階——大都市東京の“天空”で、古代インカ帝国に通じる異界への門が開いている。ペルー政府公認の大規模展覧会「マチュピチュ展」が、森アーツセンターギャラリーで開催されているのだ。

    世界を巡った“謎の天空都市”、アジア初上陸

     このたび日本に上陸したペルー政府公認「CREVIAマチュピチュ展」は、2021年のアメリカ・ボカラトン美術館での開催を皮切りに、世界4都市で累計54万人を動員してきた大型巡回展。実は、今回が記念すべきアジア初開催となる。 

     加えて、日本国内では13年ぶりとなる“マチュピチュ関連の巡回展”という意味でも、注目度は高い。その演出を手がけるのは、今年開催された大規模エジプト展覧会「ラムセス大王展」で大成功を収めているNEON JAPAN。 

     そんな「ラムセス大王展」の開催期間が延長し、盛り上がりの続く中で開幕した今回の「マチュピチュ展」には、リマの名門・ラルコ博物館から貸与された約130点の貴重な文化財が集う。 

    天地三層の宇宙観と、生贄文化が語る古代人の心理

     本展で特徴的なのは、来場者が古代ペルー・アンデス世界を理解できるよう、まず当時の人々が信じた宇宙論の説明からスタートしていることだ。よく知られる“天空都市としてのマチュピチュ遺跡”ではなく、当時の精神世界の方をディープに掘っている。いわば“異界としてのマチュピチュ”である。

     それは、鳥たちが舞い上がり太陽と天の神々が住む「天空」(ハナン・パチャ)、人間とそれ以外の存在が共存する「現実世界」(カイ・パチャ)、そして祖先たちが暮らし雨水が種を芽吹かせる「地下・内なる世界」(ウク・パチャ)から成る、“三層宇宙”。とある“階段”を通ることで、これらの異なる世界間を移動することができるとされる。 

     今回の展示では、この宇宙論を象徴する出土品が多数解説付きで登場し、古代の精神世界を立体的に浮かび上がらせている。 

    「階段状のピラミッド型神殿」(左上)、「つながりの象徴」(右上)、「螺旋状の象徴を配した三角形の階段」(左下)、「螺旋模様の耳飾り」(右下)
    太陽と砂漠の黄色、空と水の青色は、正反対でありながらも補完し合う存在として、自然界における力の均衡を象徴している。
    土器や壺には、そこに液体を入れるという所作で象徴的に魂が与えられた。右端は「勃起した地下世界の住人」の土器、つまり祖先の姿。アンデスの宇宙観において、地下や地中では祖先たちが踊り、祝い、口づけし、自慰によって大地を潤す液体である精液を射出し、地中から植物を成長を促している。

     展示後半では、当時の生贄文化を描いた出土品も展示されており、その象徴性は見逃せない。儀礼戦に敗れた兵士たちの命を捧げることで、世界の秩序を保とうとした彼らの行為には、合理だけでは説明しきれない古代人の深層心理が息づいているのがわかる。 

    儀礼戦で始まり、その敗者が生贄となるまでが、影絵アニメーションで詳細に説明されている。
    当時、生贄の儀礼に使用されたアイテムも展示。左端にあるのはとても切れ味の悪そうなナイフ「トゥミ」。

     また、当時の支配者・指導者層が所有したという、黄金や銀の装飾品展示コーナーも圧巻だ。王族の墓から出土した黄金の装飾品、神殿儀式で使われた祭具など、その多くは国外初公開。黄金の輝きと銀色の影に彩られた展示空間が、来場者を古代アンデスの世界に誘う。 

    当時の貴族階級は地上において、神の力を体現する存在だった。彼らが身につけた華やかな黄金の装飾や服装品が多数展示されている。
    「ネコ科動物とコンドルの額飾り」。モチェ文化の王墓から発見された中でも、額飾りは、権力の正当化に必要なアイデンティティを示す装飾具だった。

    英雄アイ・アパエックの神話は古代宇宙飛行士説に通じる

     さて、本展の中でもとりわけムー的に注目したいのは、アンデス神話の英雄「アイ・アパエック」の人生を追体験できる物語展示である。

    「アイ・アパエックの顔を象る装備用仮面」。

     アイ・アパエックは、古代アンデスの三層宇宙である天空・現実世界・内なる世界を旅した。様々な脅威と戦いながら、多くの動物神と一体化を繰り返して、超自然的な力を獲得していった英雄だ。彼は死後に再生して故郷へ戻り、生命の循環を保障したとされる。アンデスに恵みの雨を降らせ、文明を育んだ、いわば“境界を越えた者”として語り継がれている。  

    特徴的なビジュアルと出土品を組み合わせた展示によって、アイ・アパエックの辿った数奇な人生と神話を追体験できる。
    「熱帯巻貝の中のアイ・アパエック」。海の戦いで熱帯巻貝に勝利し、それと一体化したアイ・アパエックの姿の土器。

     ……お気づきだろうか? そう、本展で語られるアイ・アパエックの物語が、エジプト神話のオシリスや日本神話の大国主命など、世界各地に残る“死と復活、豊穣や自然の再生サイクルを象徴する英雄譚”と似通っていることに。 

     なぜ遠く離れた文明同士が、似た神話モチーフを生むのか? 世界中の神話研究者が何度となく直面してきたこの疑問が、今回の「マチュピチュ展」でも浮かび上がってくる。

     そこには、古代人が共有した“普遍的な原型”があるのか、それとも——かつて文明の創世記に地球に降り立った同一の“何か”が、世界中の神話に影響を与えた可能性が潜んでいるのか。 

     そんな古代宇宙飛行士説を示唆する情報が、さりげなく紛れ込んでいる展覧会である……という目線で見ると、今回の「マチュピチュ展」は一気に輝きを増してくる。ムー民の皆さんには、ぜひ会場で超古代文明の一片を見つけてほしい。 

    左から、「シャーマンまたはヒーラーのフクロウ」「祖先と母なる大地の融合」「トウモロコシの姿をしたアイ・アパエック」「唐辛子の姿をしたアイ・アパエック」。アイ・アパエックは暗闇から太陽を救出し、長い旅を経て変化した姿で故郷に帰った。最終的にトウモロコシとなり、芽を出して成長する。

    “異界”としてのマチュピチュへGO

     そんなわけで本展は、マチュピチュという古代都市を軸に古代アンデス文明の世界観を深く知ることのできる歴史展でありながら、同時にちょっとした“異界探訪”ができる場所とも言えよう。 

     文明とは何か? 神話とはどこから来たのか? 展示コーナーを歩きながらそんな思いをめぐらせるうちに、ふと気づく。もしかしたらマチュピチュ遺跡は、今も異界への入り口として機能しているのかもしれない。六本木で開かれているその門の向こう側、人知れず脈打つ天空世界へ、ぜひダイブしてみよう。 

    <開催概要>
    展覧会名:マチュピチュ展
    会期:2025年11月22日(土)~2026年3月1日(日)
    開館時間:日~木 / 10:00~19:00 金・土・祝前日 / 10:00~20:00
    入館料:当日券・平日 2800円(一般)
    会場:森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階) 
    主催:マチュピチュ展 実行委員会/NEON JAPAN株式会社
    後援:在日ペルー共和国大使館
    公式サイト:http://machupicchuneon.jp
    公式SNS
    Instagram:https://www.instagram.com/machupicchuneon
    X:https://x.com/machupicchuneon 

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
    https://sugiuraminako.edire.co/

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