南米の宇宙人ミイラ騒動は2015年から始まっていた! エイリアン・オーパーツの経緯と仕掛人マウサンの疑惑/羽仁礼

文=羽仁礼

    2023年最大のエイリアン・トピック、「メキシコの異星人ミイラ」は、ペルーのナスカで発見されたものだ。2015年に遡る、「いわくのミイラ」の経緯を調査した。

    「地球外生命体のミイラ」を公開したハイメ・マウサン

     2023年9月12日、メキシコ連邦議会下院で、UFOに関する史上初の公聴会が開催された。

     これは、メキシコ下院議長を務めたこともあるセルヒオ・グティエレス・ルナ議員が提唱したもので、メキシコで人気のあるUFO研究家ハイメ・マウサンが司会・進行役を務めた。公聴会には、7月26日のアメリカ下院でのUFO公聴会でも証言台に立った元海軍パイロットのライアン・グレーブス、米空軍の元大尉でUFOとの遭遇経験も豊富な作家ロバート・サラス、メキシコ未確認異常現象観察協会のフリオ・ダルウィッシュ、そして日本維新の会所属の浅川義治衆院議員らが顔を揃え、ハーバード大学の天文学教アヴィ・ローブもリモートで参加した。

     出席者の発言が一段落したところで、おもむろにマウサンが公開したのが、2体のミイラだった。

     この2体のミイラは「クララ」と「ジョセフィーナ」と呼ばれており、いずれも身長は60センチほど。小さな目や鼻、口があり、四肢もそなえているが、手足の指は3本しかない。また顔面は平坦で、頭部は前後に大きく引き延ばされている。

     マウサンによれば、これらのミイラは6年前、つまり2017年にペルーの珪藻土鉱山から出土し、メキシコ国立自治大学(UNAM)の調査により、約1000年前のものと判明している。また、DNAは地球上に生息するどの生物とも一致しないということだ。地球外生命体のミイラ、ということだった。

     このミイラの公開は他の出席者にも事前の相談がなかったらしく、会場でも、そして世界のメディアからも驚きをもって迎えられた。日本でも『朝日新聞』や、BS日テレ「深層ニュース」など、あまりUFOや宇宙人関係の事象を取り扱わないメディアも取り上げるなど、かなりの反響を呼んだ。

    ナスカのミイラを発表したメキシコのUFO研究家ハイメ・マウサン。https://atomix.vg/peru-desmiente-las-pruebas-de-vida-extraterrestre-de-maussan/

    2017年に遡る「エイリアン・ミイラ」騒動

     しかし、謎の宇宙人ミイラについては、2017年初頭からとりざたされており、その存在を最初に公表したのは、フランスのティエリー・ジャミンであった。
     ジャミンはフランスの探検家で、1967年12月19日にシャルトルで生まれた。彼は、インカ帝国の影響がペルーのアマゾン川流域にまで及んでいたと信じ、その痕跡を探るべく、2001年以来、何度も密林地帯を訪れている。じつはペルーの国土の60%はこうした密林地帯であり、人跡未踏の領域も多く残っているのだ。

     こうした地域でジャミンは数多くの遺跡を探検し、パラトアリにあるピラミッドや、プシャロの岩絵といった謎の遺物を発見するという成果も挙げている。さらに2011年には、マチュピチュのとある建物の地下に、インカ皇帝パチャクティの墓と思われる地下室を発見したとも述べているが、こうしたジャミンの主張は、考古学界では受け入れられていないようだ。

    ナスカのエイリアン・ミイラについて語るティエリー・ジャミン。

     2012年になるとジャミンは、ペルーにある考古学遺跡の科学的研究や保護を目的としてインカリ・クスコ研究所というNGOを設立し、以来その所長も務めている。

     そしてジャミンが「エイリアン・プロジェクト」というサイトにおいて、宇宙人のものと思われる一群の謎のミイラの存在を公表したのは、2017年2月のことであった。

     このサイトによれば、問題のミイラは2015年末、ナスカからパルパにかけての地域で墓泥棒によって発見されたという。2017年1月、ジャミンをはじめとするインカリ・クスコ研究所のメンバーは、ルイス・キスぺ、別名パウル・Rと称する人物の仲介で墓泥棒たちのリーダーであるマリオという人物と会見、グレイ・タイプの小型ミイラ2体と、三本指の巨大な手のミイラを入手したという。そして2月になると、ミイラを研究するために2万9000ユーロの資金が必要だとして、サイトで募金を始めたのだ。このクラウドファンディングは成功し、3月17日までに1000人以上の出資者から、目標を上回る3万9510ユーロを集めた。

    「エイリアン・プロジェクト」webサイト。 https://www.the-alien-project.com/en/

     以後もジャミンは、マリオたちから追加的に何体かのミイラを手に入れたようだ。

     こうしたミイラの存在は、世界的に知られたUFO研究家であるハイメ・マウサンが介入したことで、一躍世界的な注目を集めることになる。

     2017年4月、メキシコ軍の主任医官ホセ・イエスス・ザルセ・ベニテスや生物学者のホセ・デ・ラ・クルス・リオス・ロペスらの専門家を伴ってペルーを訪れたマウサンは、ジャミンとともにマリオと会見し、首尾良く3本指のミイラ「マリア」を手に入れた。つまり、「マリア」と小型ミイラの入手先は、同じマリオという謎の人物だったのだ。

    「マリア」と小型ミイラの関係については、2021年12月8日に放映されたTBSの番組「ワールド極限ミステリー」も触れている。番組では、パルパに住む観光ガイドのマリオという人物が登場し、彼が2015年3月に鉱石採集中足を滑らせ滑落したとき洞窟を見つけ、その中に「マリア」と数体の小型ミイラを見つけたと証言していた。番組に登場したマリオなる人物が、ジャミンのいう墓泥棒のリーダーと同一人物かどうかは不明であるが、ミイラが発見されたのは2015年であること、「マリア」と小型ミイラが関係しているという点では一致を見ている。

     ともあれ、マウサンとジャミンは2017年5月にこの「マリア」と小型ミイラ「ジョセフィーナ」のCTスキャンを行っており、この時点で「ジョセフィーナ」の体内に3つの卵らしき物体が存在し、胸には金属板があることを確認していたようだ。

    ナスカ・ミイラの「マリア」の謎

     2017年6月20日には、小型ミイラに先駆けて「マリア」の映像がアメリカの超常サイト「Gaia.com」で公開され、さらに7月11日には「ジョセフィーナ」や、その体内の卵らしき物体の映像も公開された。

    Gaia.comで「ナスカの異星人ミイラ」は2017年からレポートされてきた。

     そして現在の「エイリアン・プロジェクト」のサイトには、「マリア」や「ジョセフィーナ」の他にも、「アルベルト」、「アルテミス」などと名づけられた小型ミイラ5体、より人間に似ている「ワウィタ」や、首のない「ヴィクトリア」、大型の手のミイラなどの画像が掲載されているが、「ジョセフィーナ」タイプの小型ミイラはこれら以外にも存在するようだ。

     現に前述のTBSの番組に登場したものは、番組内で行われたCTスキャンにより、「ジョセフィーナ」同様体内に3つの卵らしきものが確認されているが、足の指が一本欠けている等、「エイリアン・プロジェクト」に掲載されたどのミイラとも異なる特徴を持っている。さらに昨年10月には、リマの空港にある物流大手DHLの事務所のダンボール箱から、アンデスの伝統衣装を身にまとった似たようなミイラが2体発見されているし、今年1月5日に放映されたテレビ東京系「ウソかホントかわからないやりすぎ都市伝説」でも、「マウリシオ」と呼ばれる新たなミイラが登場している。

    アンデス伝統衣装をまとったミイラも発見されている。https://www.gob.pe/institucion/cultura/noticias/893041

     マウサン自身も、宇宙人らしきミイラには6~7種類の形の異なるものがあり、計30体が存在すると述べているから、これから先新しいものが公開される可能性がある。

     さらに言えば、メキシコの公聴会で公開されたミイラは「ジョセフィーナ」と伝えられているが、本来「ジョセフィーナ」の下腹部は膨らんでおり、胸にはプレートの痕跡が確認できるのに対し、映像で見る限り公聴会のものにはこの膨らみがなく、表情も少し異なるように思える。もしかしたらこれも、これまで公表されていなかった新たな個体なのかもしれない。

    ハイメ・マウサンの「実績」には疑惑も多いが…

    「マリア」も含めた一群のミイラが宇宙人のものとするマウサンの主張には、疑問の声が寄せられている。
     2017年の映像公開の直後から、「マリア」や小型ミイラについては、人間や動物の骨を合成・加工した作り物であるとして、各方面から批判されているし、約1000年前のものであることをUNAMが確認したというマウサンの主張に対しても、当のUNAMが、マウサンから提供されたサンプルが本当にミイラのものかどうかは不明であると反論している。

     さらに、マウサンが過去に関与した事件を思い返すと、彼の言うことを鵜呑みにできないところもある。
    「ムー」の読者ならよく御存知とは思うが、2004年5月、マウサンはメキシコ空軍が撮影したというUFO映像をテレビで放映したことがある。しかしこの映像に映った光点は、海上で海底油田の石油ガスが炎上する様子を捉えたものであった。
     2007年3月には、アリゾナ州で開催されたUFO関連の国際会議で、馬の形をした飛行物体の写真を公表したが、どうも馬の形をした風船だったようだ。ちなみに最近ではフライングヒューマノイドなるヒト型飛行物体も世界各地で目撃されているが、人間の形の風船や凧も何種類か市販されているようだ。

     また、同じ年の6月、マウサンはメテペック・モンスターの死体と称するものを公表したが、これも作りものと判明した。
     2015年には、ロズウェルで回収された宇宙人が映っているスライドを発見したと主張しはじめ、5月には料金を払った観衆やインターネット視聴者に対してそれを公開したが、宇宙人なるものも結局ネイティヴ・アメリカンの子どものミイラと判明した。

    メテペック・モンスターとされた写真。https://cryptidz.fandom.com/wiki/Metepec_Creature?file=Metepec.jpg
    ロズウェルの異星人ミイラを収めたスライドもマウサンが発表したものだった。https://www.mirror.co.uk/news/technology-science/science/roswell-slides-ufo-researcher-apologises-5680059

     こうした過去の行状にも拘わらず、メキシコでのマウサンの人気は絶大なようで、2023年11月7日には2回目の公聴会も開催されている。この2回目の公聴会には、盟友とも言うべきティエリー・ジャミンも出席しているが、ともあれ、ミイラの正体については一日でも早く結論を知りたいところである。

    そのミイラは「異星人なのか」「古いものなのか」の2つ、論点がある。

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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