20年前の少女失踪事件の真実とは!? 今も存在する「魔女狩り」を描いた映画『ナイトサイレン/呪縛』監督インタビュー
「現代の“魔女狩り”フォークホラー」と銘打った話題の映画『ナイトサイレン/呪縛』。本作に秘められた“恐怖の深層”について、スロヴァキアの新星映画監督がムーに語った!
記事を読む
伝統織物タータンチェックに悲劇の歴史も織り込んまれている……。「スコットランドの魔女たち」の名誉回復キャンペーンとして、現地在住ライターが歴史を紹介。
タータンといえば、スコットランドのアイデンティティの代名詞的な存在であるチェック柄の伝統織物。その特殊なデザインには一式のきまりがあり、スコットランド議会が2008年に制定した「スコットランド・タータン登録法」を受けて設立されたスコットランド・タータン登記所がデザインの登録を管理している。
……だがなぜ、スーパーミステリー・マガジン「ムー」で、ファッションネタのようなタータンの話を持ち出すのか? それには深いワケがある。
まずは下のタータンの画像をご覧いただきたい。
これは、今年、2025年の2月11日に公式登録され、大きく話題になった新デザインのタータンで、その名も「Witches of Scotland 」。つまり、「スコットランドの魔女たち」なのである。
このタータンがデザインされた背景には、中世ヨーロッパに吹き荒れた「魔女狩り」という暗黒の歴史がある。
キリスト教が社会の価値観の基盤として大きな影響力を持っていた15~18世紀のヨーロッパでは、4万~6万人が魔術を使った疑いで告発・処刑されたといわれる。ヨーロッパで魔女裁判の件数が最も多かったとされるのはドイツ南西部だが、人口比で見た割合が飛び抜けて高いのは実はスコットランドなのだ。
スコットランドでは1563年に「魔術禁止法」が制定され、魔女狩りが正当化された。1736年に同法が廃止されるまでの期間に、3837人がいわゆる「魔女裁判」にかけられ、2500人を超える人々が処刑されたと考えられている。そのうち84%が女性だったという。
スコットランドでの魔女狩りは、1603年にイングランド王ジェームズ1世としても即位したジェームズ6世スコットランド王(在位1567~1625年)の統治下でとりわけ激しく行われた。
1589年にデンマークのアン王女と結婚したジェームズ6世が新妻を連れてデンマークから帰国する途中、洋上で大嵐に遭遇し、乗船が沈没寸前になるという出来事が起こった。
これを黒魔術による国王暗殺計画だと信じたジェームズ6世は大規模な魔女狩りを命じ、翌年1590年より2年間にわたってスコットランド南東部の港町ノースベリックで100人以上が告発され、拷問にかけられた末、およそ70人が魔女裁判で裁かれた。スコットランドで最初の大規模な魔女狩りとして悪名高い、「ノースベリック魔女裁判」である。
魔女狩りの嵐が吹き荒れた理由は複雑だが、多くの場合は女性や障がい者、そして当時の社会規範にとらわれない生き方をしていた人々に対する偏見と差別に根差したものだった。
このような暗い過去を持つスコットランドでは、歴史的な不正義を認める動きの一環として、エディンバラ大学の研究員チームが2001年から2年の歳月をかけて魔女裁判の伝承や記録を調査し、告発された人々の名前や職業、裁判の場所と日程、刑罰などをまとめたデータベースとインタラクティブな地図を作成している。
さらに、2020年の国際女性デー(3月8日)には、スコットランドの法廷弁護士クレア・ミッチェル氏と作家のゾーイ・ベンディトッツィ氏が、魔女狩りの犠牲となったすべての人々に対する3つの追究(死後赦免、スコットランド政府からの公式な謝罪、国立追悼記念碑の設立)を行うキャンペーン団体「Witches of Scotland (スコットランドの魔女たち)」(https://www.witchesofscotland.com/)を立ち上げ、議会への請願活動やポッドキャストなどによる啓発活動を展開している。
彼女たちのキャンペーン活動が最初に実を結んだのは、2022年3月の国際女性デー。この日、当時スコットランド自治政府首相だったニコラ・スタージョンが、魔女狩りという歴史的な不正義の犠牲者に対し、議会で正式に謝罪した。
(参考:https://www.afpbb.com/articles/-/3395023)
冒頭のタータンに話は戻る。
キャンペーン団体「Witches of Scotland」の名を冠したこのタータンは、活動の資金をクラウドファンディングで調達するために、ハイランド地方でタータンのデザインから生地の生産までを一貫して行っているミル(織物工場)「Prickly Thistle(プリックリー・シスル=私訳:トゲトゲアザミ)」とのコラボレーションのもとでデザインし、登録したものである。
暗黒の時代を象徴する黒と、処刑された人々の遺灰を象徴するグレー、裁判で書類を束ねるために使われていた赤い紐を象徴する赤、女性を象徴するピンクの羊毛糸を使い、2.54cmx2.54cmのスクエア内の縦糸と横糸の数(スレッドカウント)で、「魔術禁止法」制定年の1563年(1+5+6+3=15本)と廃止年の1736年(1+7+3+6=17本)を表現している。
大きな黒のセクションは、暗黒の173年間を象徴して173本の黒糸で織られている。そして白のラインとピンクのラインはそれぞれ3本の糸で織られており、同団体が掲げる3つの目標を象徴しているのだという。
最低額5000ポンド(約95万円)の資金調達を目指し、このタータンのA4サンプル布、スカーフ、ソファー用掛け布の3タイプの商品をクラウドファンディングに出品したところ、ほんの数日で完売。しかも集まった金額は、最低目標をはるかに超える14万1706ポンド(約2692万円)と、驚異的な反響を呼んだ。(そのクラウドファンディングのページはこちら:https://www.kickstarter.com/projects/witchesofscot/witches-of-scotland-tartan)
近いうちに、深い意味が込められたこのタータンのグッズを本格的に商品化するのか、非常に気になるところだ。
上の写真は、スコットランド最後の魔女が処刑されたといわれる場所。スコットランド北東部の景勝地ドーノッホ湾岸の小さな町ドーノッホにある。小さな石碑には1722という年号が刻まれているが、処刑が行われたのは1727年という記録もある。いずれにしても、「魔術禁止法」が廃止される少し前のことだ。
処刑されたのはジャネット・ホーンという女性。一説では、娘の手足に奇形があり、本人は中高年になって現在でいう認知症のような症状を示していたことから、悪魔と通じていたとの嫌疑をかけられ、告発された末に焚刑に処せられた。
弱者への偏見と差別が引き起こした暴力の歴史を認め、その過ちを決して繰り返さないようにするためにも、「Witches of Scotland 」のようなキャンペーンは現代社会において重要な意義がある。
ケリー狩野智映
スコットランド在住フリーライター、翻訳者、コピーライター。海外書き人クラブ所属。
大阪府出身。海外在住歴30年。2020年より現夫の故郷スコットランド・ハイランド地方に居を構える。
関連記事
20年前の少女失踪事件の真実とは!? 今も存在する「魔女狩り」を描いた映画『ナイトサイレン/呪縛』監督インタビュー
「現代の“魔女狩り”フォークホラー」と銘打った話題の映画『ナイトサイレン/呪縛』。本作に秘められた“恐怖の深層”について、スロヴァキアの新星映画監督がムーに語った!
記事を読む
予言者にしてアーティストなのか? シュールなポップアートで世相を射抜くマイケル・フォーブス氏の素顔
作品が「予言」として話題のポップアーティストに現地スコットランドでインタビュー。彼が心の目で見た世界に…光明を、見たい。
記事を読む
日本で増殖する「現代魔女」たちの証言/オカルト探偵「女が怖い」
現代日本で、魔女が増えている。メディアや創作の世界で認知度を高める「現代魔女」と呼ばれるムーブメントは日本でも着実に広がりつつあるのだ。世代の異なるふたりの「現代魔女」に取材を行ったオカルト探偵吉田は
記事を読む
不死者にしてタイムトラベラー! 社交界の怪人サン・ジェルマン伯爵の謎/羽仁礼・ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、18世紀のフランスで“社交界の花形”としてもてはやされ、「不死の人」と噂された怪人物を取
記事を読む
おすすめ記事