住民も情報も完全消滅した町「ラングヴィル」は実在したのか?/モンタナ州ミステリー案内

文=宇佐和通

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    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    存在しなかったことにされた町

     いかにもアメリカらしい広大な景観を楽しめることから、「ビッグスカイ・カントリー」というニックネームで呼ばれることが多い西部モンタナ州。1992年に公開された映画『リバー・ランズ・スルー・イット』の舞台としてブームを巻き起こしたことでも知られている。全米4位の面積を誇り、イエローストーンやグレイシャーなど数々の国立公園に国内外から多くの観光客が訪れる。しかし、そんな美しい州にも無気味な噂話がある。

    モンタナ州の風景 画像は「Wikipedia」より引用

     アメリカの地図を広げて、「ラングヴィル(Langville)」という町がモンタナ州のどこにあるか調べてみてほしい。きっと見つからないだろう。そんな町は存在しないからだ。しかし、存在しないはずのラングヴィルにまつわる噂が、2000年代初頭から深夜のラジオ番組や陰謀論フォーラム、ネットなどで浸透していった。

     基本的なストーリーは、もともと実在した町であるにも関わらず、住民もろとも一夜にして消えてしまったというもの。その後、衛星画像などの地理的記録を含め、ラングヴィルにまつわるあらゆる情報が抹消され、実はすべてが政府による隠蔽工作だったという話まで登場した。

    謎の停電と隠蔽工作

     噂によれば、消滅する前のラングヴィルはモンタナ州の広大な平原の中にあり、約400人が暮らす小さな町だった。やって来る人々は、別の場所に向かう途中で給油したり、せいぜい一時的な休憩を取る程度。19世紀後半に設立されたラングヴィルは、当時から牛の群れを追う人々や金鉱探しの人々のみが立ち寄る場所だったとされる。

     このラングヴィルのすべてが終わったのは、2003年秋のとある夜だった。夜空に奇妙な光が現れたことを覚えている住民もいるが、その証言は人によってばらつきが激しいという。ある人は、「畑の上で静かに浮かびながら脈動する不思議な球体」について語り、またある人は「メタリックで、骨を揺るがすような低い音を発していた」と語る。やがて空気が帯電し、落雷が起こる直前の瞬間のような状態になったという。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     すると直後に、(嵐は来なかったが)大規模な停電が起きた。半径80キロ以内の電話やラジオ、そして自動車まで、まったく機能しなくなったのだ。そして9分が過ぎると、ラングヴィル全体が跡形もなく消えていた。破壊されたわけでもなく、放棄されたわけでもなく、ただ一瞬にして消滅したのだ。その前日の衛星画像には街路網が映っているが、翌日の画像には町などまったく存在しなかったかのように、広々とした大草原が広がっているだけだった。ただ、ラングヴィルがあった場所の土は、まるで指向性ビーム兵器で焼かれたように黒く焦げていたという。

    加速する憶測と元住民

     やがて、この話に関するさまざまな解釈がネット上に流布した。最初に語られたのは、ラングヴィルは消えたのではなく、町が住民ごと「裏返し」になったという主張だ。奇妙な表現だ。時空の捻れが起き、町が住民ごと別次元に吸い込まれたことの比喩的表現かもしれない。また、住民たちが大地に吸収されてしまったかのように、肉と骨が融合したような物体が大量に発見されたという証言もある。

     ラングヴィルの消失は、失敗に終わった“実験”だとする陰謀的な解釈も生まれた。大規模停電の数週間後、周辺地域を走る不審なトラックや上空を飛ぶ軍用ヘリが頻繁に目撃されたという。町へと続いていた道路は大きく迂回する形に作り変えられ、地域全体の衛星画像も差し替えられた。政府から派遣された職員が、町の周辺にある牧場の経営者たちの元にやって来て、口止め料や移転の見返りとして多額の支払いを提示したという話もある。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     それから1か月もしないうちに、ラングヴィルは存在しなかったという空気が生まれた。この出来事を報道したテレビ局もなかった。小さな地方紙が停電について少し触れただけで、その後のニュースは完全に遮断された。

     ラングヴィル出身だが、事件前に町を去ったと主張する人々もいる。最も有名なのはカール・リースという男性で、ラングヴィルで生まれ育ったと主張する書き込みを2007年にあちこちのサイトに残していた。

     このリースは、ラングヴィルが消滅する6か月前に「何かがおかしいと感じた」ため、町から逃げたと語っていた。常に監視されているかのように振る舞う動物、街の周囲の木々に突然奇妙な刻印が現れたという。その後、リースの数々の投稿は2009年になって突然消えてしまった。

    仮説と後日談

     ラングヴィルについては、数え切れないほどの説がある。その中でも特に有名な説をいくつか紹介しておこう。

    次元の裂け目:自然現象か、あるいは人体実験によって、偶然にも別の現実へと迷い込んでしまった。
    地球外生命体:町全体を巻き込んだエイリアンによるアブダクション。
    時間の崩壊:ラングヴィルは時間の流れから抜け落ち、消滅する直前の瞬間を永遠に繰り返している。
    オカルトの儀式:秘密結社がこの世ならぬ“何か”を召喚し、封じ込めようとしたが失敗に終わった。
    生物学的実験:分子レベルで物質に影響を与えるテクノロジーを使った極秘実験の舞台となった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     後日談的な話もある。ラングヴィルがあったとされる場所の近くを車で走ると、畑や低い丘に囲まれた景色が広がっている。ところが、その途中に風景がまるでイラストか背景画――CGのような質感—―のように感じられる地点があるという。そこではGPSが不具合を起こし、ラジオが雑音だけになり、スマートフォンもつながらなくなるらしい。

     異次元であるとか異空間といったキーワードは、SNSでやりとりされる都市伝説的な話のモチーフになりやすい。時空の捻れや、突然消えた町。こうした要素は、ネットを媒体として拡散する都市伝説特有の定番的モチーフなのだろう。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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