小惑星「2024 YR4」が地球に衝突したら? 恐怖の被害想定と物騒な衝突回避プラン

文=久野友萬

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    恐竜が絶滅したように、小惑星の衝突で人類は滅びてしまうのか? しかもわずか7年後に――!?

    衝突すれば、最悪数百万人の死傷者!

     2025年1月27日、NASAの関連施設である小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)が小惑星「2024 YR4」を発見した。この小惑星、2032年12月22日に地球と衝突する可能性があるという。

     とりわけ話題になったのは、当初伝えられていた衝突確率だ。1月時点で1%と見積もられていたが、2月上旬までに2.2%に上昇、そして2月中旬までに3.1%まで増加したのだ。(その後、追跡観測と精密な軌道推定により、わずか0.002%にまで低下したが、その一方で月への衝突確率は1.7%に上昇している)。

     前述のように、今回の小惑星「2024 YR4」の地球への衝突確率は、発見直後から上がったり下がったりと大きく揺れ動いた。これは2024 YR4が地球から地球から8100万キロメートルも遠くを飛んでいるため、遠すぎてはっきりと軌道が観測できないためだ。

    小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)が捉えた「2024 YR4」の映像(囲み部分)

     万が一、文字通りの万が一、2024 YR4が地球にぶつかったら何が起きるのか? 2024 YR4の直径は40〜90メートルと考えられている。2024 YR4が秒速6キロメートルで地球にぶつかった場合、その衝突エネルギーは、最小で約8メガトン(広島型原爆15キロトンの約530倍)、最大で50メガトン(同約3300倍、史上最強の水爆ツアーリボンバ—とほぼ同クラス)と予想されている。

     これがもし都市部に落下したら? 数十万人から数百万人が死傷し、半径10〜30キロ圏内の家屋は倒壊し、直径1キロのクレーターができるという。

    NASAによる2024 YR4のイメージ図

     NASAの予想では、2024 YR4が岩石でできている場合には大気圏突入時に割れるのだそうだ。その場合、大量の流星が地球に降り注ぐことになるが、大きな被害はないだろう。

     問題は鉄でできている場合で、鉄の場合はそのまま地球に衝突する。水素爆弾クラスの大爆発が起き、落下地点が地上なら大変な被害になる。そして2024 YR4が岩か鉄かは地球に衝突寸前にならないとわからないというのだ。

    ペンキ塗りに核攻撃! 物騒な衝突回避プラン

     科学者たちが集まって小惑星の衝突に備え、どのように対処すべきかさまざまな試案を検討する地球防衛会議は、2004年から隔年で開催されている。そのメンバーたちも今回の「2024 YR4」に関心を寄せ、行動計画の検討を開始した。

     小惑星衝突を回避するプランはいくつかある。まず、SFでよくあるのが核攻撃だ。これは宇宙まで事故なく核ミサイルを打ち上げられるのかという根本的な問題がある。ロケット打ち上げにまだまだ失敗も多い現状で、核ミサイルを積んだロケットが空中で爆発したら、そちらの方が大問題だ。

     より現実的なプランとしては、2024 YR4に宇宙船をぶつける。宇宙船をタグボートのように横付けし、押して軌道を変える。レーザーで表面を溶かして発生したガスで軌道を変える。これらの案が検討されている。

     米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のチーチェン・チャン氏は、1ギガワットのレーザーを1か月間照射し続ければ、小惑星の表面が融解し、発生したガスの勢いで軌道が変わるという。これもシミュレーションでしかなく、そこまで強力なレーザーを大気圏外に運ぶ方法もない。

     太陽光の熱と物体を押す放射圧を使って、数年がかりで軌道をずらそうという計画もある。熱放射と放射圧によって天体の軌道が変わることはヤルコフスキー効果として知られており、そのために何をするかというと熱の放射を不均等にするため小惑星に白ペンキをぶちまける。白い部分は太陽光を反射するため、熱放射の不均衡が起こり、軌道がズレるというのだ。ただし問題は、人類には小惑星にペンキを塗った経験がないことだ。

    DARTプログラムのイメージ図 画像は「NASA」より引用

     実証実験まで進んでいるのは唯一、DART(二重小惑星リダイレクトテスト=Double Asteroid Redirection Test)だ。小惑星に対する質量攻撃、ようするに小惑星に宇宙船をぶつけて軌道を変えるのだ。

     2022年9月26日、NASAは直径160メートルの小惑星「ディモルフォス」に衝突型宇宙船(1.2 ×1.3×1.3メートル)をぶつけ、軌道を変えることに成功した。小惑星に比べるとゴマ粒のように小さいが、毎秒約6.1キロメートルの超高速でぶつかると、軌道を変えるには十分なエネルギーを生み出す。

    中国が宇宙に派兵?

    「2024 YR4」の動向には、中国も関心を寄せている。有人宇宙飛行を成功させ、独自の宇宙ステーションをもつ中国は、国連とは別に独自の対小惑星ミッションをスタートするらしい。中国の国家科学技術産業総局は、惑星防衛職の募集広告を出した。監視、早期警戒、迎撃、偏向などの手段で、地球に近づく小惑星や彗星が地球に衝突することを防ぐ専門職だという。

     中国は2007年に気象衛星をミサイルで破壊した前科がある。この時に発生したスペースデブリ(衛星の破片)は数万個に及び、軌道上を埋め尽くした。衛星軌道が上空850キロという人工衛星のあまり飛んでいない位置だったからよかったものの、一歩間違えばデブリが別の衛星を破壊してデブリを作り、さらにデブリが広がって……と連鎖的にデブリが増えて人類が宇宙に進出できなくなるところだった。

     そういう国が独自の解釈で対小惑星のミッションを始めるというのだ。前述の小惑星衝突回避プランを軍事目的に置き換えれば、制宙権を掌握するための技術とも解釈できる。中国の倫理観は西側諸国とやや異なる面があり、覇権主義も無視できない。中国の動向は注視すべきだろう。

    生命の謎が明らかに?

    「2024 YR4」の接近は必ずしも悪いことばかりではない。

    「はやぶさ」の着陸想像図 画像は「Wikipedia」より引用

     日本の小惑星探査衛星「はやぶさ」は、小惑星「イトカワ」からサンプルを持ち帰ったが、イトカワは地球から3億キロメートルも離れていた。距離が遠ければそれだけタッチダウンは難しく、はやぶさの帰還は予定年数をはるかに超えて困難を極めた。しかし、2024 YR4は向こうから太陽系まで来てくれるのである。こんなチャンスは滅多にない。

     2023年9月24日、米国の小惑星探査衛星「OSIRIS-REx」が小惑星「ベヌー」から持ち帰ったサンプル121.6グラムには、アミノ酸や核酸塩基、カルボン酸、アミンなどの有機物が大量に含まれていた。小惑星には生物がいないにもかかわらず、だ。

    「OSIRIS-REx」によるサンプル採取のイメージ 画像は「Wikipedia」より引用

     これらの有機物はどこから来たのか? 宇宙には有機物が溢れているのか? そして小惑星が地球に衝突したり、近くを通ることでそうした有機物が地球に降り注ぎ、生命を生み出したのか?

     しかも、サンプルのアミノ酸には右手・左手構造がほぼ半分づつ含まれていた。地球のアミノ酸はほぼすべて左手型で、人間が合成するとなぜか右手型になってしまう。そのため、宇宙に仮にアミノ酸があっても、地球と同じ左手型だと思われていたのだが、もしかしたら右手型も同量存在するのか?

     生命とは何なのか、その謎を小惑星は解き明かしてくれる。そのためにも、もっとサンプルが必要だ。そして2024 YR4というサンプルの塊が接近しつつある。7年後、私たちは2024 YR4を調べ尽くすだろう。その時、私たちは生命観のパラダイムシフトを体験するかもしれない。生命は人間が考えるような存在ではないのかもしれないのだ。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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