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大ヒット上映中の映画『天気の子』は空を晴れにする能力をもった少女・陽菜(ひな)と、彼女との出会いで世界を変える少年・帆高(ほだか)が主人公だ。異常気象や晴れ女など、天候にまつわる伝説や、ミステリーを描く本編には、「ムー」がある役割をもって登場している。作中で本誌がどう位置づけられているのか? 新海誠監督に直撃した! (ムー2019年10月号掲載)
『君の名は。』から3年。新海誠監督の新作『天気の子』がさらなる大ヒットとなっているが、前作と同様に劇中にまたまた「ムー」が登場。
しかも今回は雑誌そのものが小道具として置かれている、というだけでなく、ストーリーの中核を担う須賀圭介なる登場人物が「ムー」に寄稿するライターであるという設定。彼は零細編集プロダクションを営んでいるのだが、そこに主人公の帆高(ほだか)が転がり込み、「ムー」の取材に奔走することになる。しかもなんと、作中で帆高はムーTシャツまで着ているのだ。
その中で、世間で話題の「100パーセントの晴れ女」=陽菜(ひな)の存在もクローズアップされていく。
「家出してきた少年(帆高)が須賀の会社の一員となったことをわかりやすく象徴するものが何かないかなと考えたんです。そこでネットとかを見ていたらムーTシャツを着ている若い女の子の写真がけっこうあって、これは使えるなと。いわゆる制服のようなものとして描きました。ただ、『ムー』のロゴって『ム』と『ー』の位置やバランスが意外と複雑なんですよね。作画の作業中に何度か修正しました。油断するとアニメーターがちょっと位置を間違えたりして、そのたびに僕に〝こうだから!〟と指摘されてました。おかげで「ムー」のロゴにかなり詳しくはなりました(笑)」
また、作品の中の「ムー」の位置づけが、不思議な現象の導入部分として〝ちょうどいい存在〟なのだそうだ。
「まず考えたのが、怪しい記事を書いているアウトローな大人と少年が出会うという設定にしたかった。その上で、物語の世界観を説明してくれる雑誌の登場がベターだったんですね。そこで『ムー』はちょうどいいなと。失礼な話なんですけど、本当にちょうどよかった(笑)。こういう雑誌があること自体が、人々が何か日常では説明できない現象に好奇心があったり、客観的にはわからなくても自分だけの経験として不可思議な体験をしていたり……実はそういうことが少なくないんだということを証明しているんだと思います。そういう意味でも、映画の中のストーリーを彩るオカルト的な伝承や謎は、実は現実にも影響するかもしれない、そんな理屈のような道具立てとして『ムー』のエンターテインメント性はかなり有効だったんです」
導入部分でさり気なく本誌をいじることも忘れていない。少し突飛な世界を展開するときには、まずは軽くギャグとして表現することによって、観ている観客が受け入れやすくなるという効果があるからだ。
「須賀が帆高に『ムー』を説明するときに、〝歴史と権威ある雑誌〟という台詞があるのですが、声を担当していただいた小栗旬さんに〝少し半笑いでいってくれませんか〟とお願いしました(笑)。
『ムー』は真面目な雑誌だけど、反面ワクワク感を楽しむ軽さもあるんですよね。その微妙な面白さを半笑いという形で表現すると同時に、須賀がムー的なことはすべてフィクションだと思っている、ある意味で普通の大人であって、そういうスタンスで都市伝説の記事に取り組んでいるんだということが伝わると思うんです」
〝普通の大人〟の須賀が、陽菜と帆高がかかわる事件に対してどう対峙するかは、劇場でご覧いただきたい。
「超能力があるかどうかはわかりませんが、人間のもつ無意識の力は、自然を動かすこともあると思います。世界的なテロ事件の前後で世界中の乱数発生器に異常が現れたという話もあります。晴れ女の存在も、けっして伝承だけではないと思います」
『天気の子』では天気、気象にまつわる伝承が参照される。本作にかぎらず、新海監督はだれでも知っているような昔話や伝承、神話などからヒントを得ていくのだそうだ。
「たとえば、人間とは違う生き物と結婚する異類婚姻譚、動物が恩返しをする動物報恩譚、一寸法師のように若い貴人が漂泊しながら偉くなる貴種流離譚など、そういったものをたくさん集めて要約したメモを作っています。
そしてテーマが決まったら、それらを骨格にして自分の考えた物語を肉づけしていきます。今回は〝天気〟をテーマにしたいと思い、それに関しての昔話を読んでいくと、雨女や晴れ女のような巫女が文献にたくさん出てくる。そこから物語を思いついて作り上げていきました」
物語では次第に非現実的な神秘体験に接続していく主人公の帆高と陽菜だが、ストーリー以外の部分ではリアル感にこだわりを見せている。
「劇中にはお盆の場面も出てくるんですけど、お盆とひと言でいっても、その起源や意味、地方によっての風習の違いなどがたくさんあります。描写するにあたってそういうのはちゃんと調べていきますね。人物像がにおってくるようなリアリティーを表現するためには、扱うテーマに沿ったものを詳しく知った上で設定していかないと、それぞれの登場人物のバックボーンが見えてこないんです」
リアリティーといえば、舞台の中心となる東京、とくに新宿の街の描写は、細部にわたってこだわり抜いている。
「スポンサーとのタイアップだと勘違いなさっている方も多いんですが、最初に絵コンテを描いているときから、実際にある漫画喫茶やハンバーガーショップ、有名な広告トラック、カップ麺など、僕が現実のリアルな東京を表現したくて勝手に描き込んでいたんです。黙って出してしまうわけにはいかないので、その後、スタッフが許可を取りに回ってくれました。もちろん『ムー』さんにもお願いにあがりましたよ」
少しだけ裏話をすれば、劇中の「ムー」の誌面をコミックス・ウェーブ・フィルムのデザイン部が作成する際、記事の表現や文体などは「ムー」編集部が監修している。映像で誌面はほぼ確認できないが、見えないところまで作り込まれた作品なのだ。
小中学生のころによく「ムー」を購読していたという新海監督。とくに好きだったのは地球空洞説だったそうだ。実際に2011年に公開された『星を追う子ども』では、この地球空洞説をテーマにしている。
「子供のときは南極に穴があるかもれないと真剣に思ってましたね。人工衛星から撮られた写真に写った黒い影は、地下への入り口なんだと。そこから一歩進んで、たとえば地球の構造ってどうなっているんだろうと科学雑誌を読んでみると、どうやら空洞ではないらしい。でもだれも見たことがないので確実なことはいえない……。こんなふうに『ムー』は少年時代の知的好奇心と科学的探究心の入り口としてはかなり面白い存在でした」
そしてなんと、「ムー」の定番企画〝実用スペシャル〟も実践していたというから、まさに濃いめの読者である。
「好きな人に気持ちを伝えたい、次の試験で少しでもいい成績を取りたいといった思春期特有の切実な願いがあるじゃないですか。そんなときに試していました。それが叶ったかどうかは……覚えてないんですが(笑)、もしかしたら教科書には載っていないし、親も教えてくれない〝世界のなりたち〟がわかるんじゃないかとワクワクしながら実践していました。僕がそうだったように『ムー』は子供たちの創造力を高めて広げる意味でも、世界の不思議に興味を持つきっかけとして素晴らしいツールだと思うんですよね」
映画『天気の子』は、世界の仕組みを変えてしまう少女と少年の物語である。「ムー」読者には、作品世界はいっそうリアルに見えるはずだ。ぜひ劇場にて、その世界の神秘をご覧いただきたい。
(C)2019「天気の子」製作委員会
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